開催中のサッカーワールドカップ(W杯)において、複数の国や地域にルーツを持つ選手たちの選択や葛藤、そして背景にある社会のグローバル化の現状に注目が集まっている。ドイツやアイルランドの現地へ赴き、朝日新聞の稲垣康介記者が、その実態を取材した。
【映像】スペインと引き分け!カボベルデ代表の「複数ルーツ」を持つ選手
稲垣氏が訪れたのは、ドイツ随一の強豪クラブ「FCバイエルン・ミュンヘン」の広大な育成施設だ。敷地内には練習用8面とスタジアム1つの計9面のピッチが広がり、世界中から集まったエリートたちが技術を磨いている。施設内には「チームスピリット(団結)」「ブレイブ(勇気)」といったスローガンが掲げられていた。本拠スタジアムの最寄り駅のグッズ売り場にはハリー・ケーン選手、ジャマル・ムシアラ選手、マイケル・オリセ選手といったスターたちのマフラーが並んでいた。いずれもイギリスのロンドン育ちでイングランド代表となる資格を持っていたという共通点のある3人だが、今回のW杯にはイングランド、ドイツ、フランスとそれぞれ異なる代表の旗を背負って出場している。
国際サッカー連盟(FIFA)の規定では、本人の出生国だけでなく祖父母の代までの出身国であれば、一定の条件で代表チームを選択できる。イングランド代表主将のケーン選手はアイルランドからの誘いを断りW杯優勝を狙える国を選び、オリセ選手は幼い時から愛着のあるフランス代表を選択した。一方、ドイツ代表のムシアラ選手(ナイジェリア・ドイツの複数ルーツ)の選択の裏には激しい駆け引きがあった。稲垣氏がミュンヘン現地で取材した記者によると、英国のEU離脱(ブレグジット)を控えてドイツ人の母親が息子の移籍を後押しした背景のほか、当時のドイツ代表のレーヴ監督が直接親子と面談し、早期のフル代表選出を確約して口説き落としたという。
さらに稲垣氏は、もう一つの物語を追ってアイルランドの首都ダブリンにも足を運んだ。現地で激しい「ダブリンダービー(首位攻防戦)」を取材した稲垣氏は、シャムロック・ローバーズのキャプテンとしてフル出場し、絶大な人気を誇るロベルト・ロペス選手に直接インタビューした。アイルランド生まれのロペス選手は、一度は銀行員として働きながらプロの夢を追った経歴を持つ。2018年にビジネスSNS「リンクトイン(LinkedIn)」を通じて父親の故郷であるアフリカの島国カボベルデの代表監督から直接スカウトされ、代表入りを決意した。人口約60万人のカボベルデだが、W杯初戦で世界ランク2位のスペインと0対0で引き分け、DFのロペス選手もフル出場して実力を証明。ダブリンの現地サポーターは「アイルランドが出られない分、100%彼を応援する。カボベルデのユニフォームも注文した」と稲垣氏の取材に笑顔で語った。
現在の日本代表でも、父親がガーナにルーツを持つGKの鈴木彩艶(すずき・ざいおん)選手が活躍しており、日本サッカー協会(JFA)も海外で育った複数ルーツの才能を勧誘するリクルート活動に本腰を入れ始めている。稲垣氏は、国際政治の場では移民排斥の動きがある一方、現地ではサポーターが選手のルーツに関係なく活躍を純粋に応援している姿を実感したと言及。スポーツを通じて日常の社会でも互いを認め合う一助となることへの希望を語った。
(朝日新聞/ABEMA)

