
日本の棚田百選の一つ・新潟県三条市でおよそ400年続く棚田が、今年の作付けをもって終止符を打つこととなった。生産者の思いを取材した。
「棚田の命」コメのおいしさ
雄大な山々を背に、斜面を利用して作られた水田が広がる日本の原風景。新潟県三条市にある、日本の棚田百選に選ばれたこともある「北五百川の棚田」だ。
コメ農家 佐野誠五さん(77)
「私が母親から28歳の時に田んぼを受け継いで、50年間この景色を眺めていますね」
この棚田を管理しているのが、佐野誠五さん(77)。江戸時代からおよそ400年、この地を15代にわたって守り続けてきた。
「棚田の命はコメのおいしさだと思うんです。これがまずかったら誰も買わないし、作る人もいない。おいしいから、みんな作ったんじゃないですかね」
棚田で丹精込めて育てたコシヒカリの味は、ひと味違うという。
雨や山の雪解け水が湧き出た伏流水と、昼夜の寒暖差などの自然環境が、おいしいコメを育てるという。
佐野さんは農作業の傍ら、この景色を見ながら食べるおにぎりが何よりのごちそうだと話す。
「格別、おいしいと感じます。こういう景色の中で食べると味は違いますよ」
番組スタッフも食べさせてもらった。
スタッフ
「コメがいきいきしているみたいで、本当においしいですね。この景色最高ですね」
佐野さん
「自分で作ったコメを食べると格別、違いますよ」
しかし、この地でコメ作りをするのは今年限りだという。一体、なぜなのか。
「完全に心が折れました」
北五百川の棚田を受け継ぐ佐野さんは、80歳まで農業を続けようと考えていたが、今年で耕作をやめる決意を固めた。
「体がもう動かなくなりますよ。普通の田んぼと違い棚田は大変でしょ。見て分かる通り」
「(Q.すごい段差が)作業面でも危険もあるしね」
棚田は急斜面にあるため、年を重ねるごとに作業が厳しくなってきたという。
また、大きな機械が入れづらいことから手作業も多く、面積も限られるため、手をかけてもそれに見合う収入にはほど遠い。
さらに、近年はサルやイノシシに田を荒らされ、収穫前に稲穂を食べられる被害が続いていたという。
「折れました。完全に心が折れました。いくら一生懸命やったところで、動物に食べられたんじゃ、やっている張り合いがない」
佐野さんの棚田がなくなるという報道を聞きつけ、足を運んだ人もいる。
三条市内から
「地元にこんなところがあるんだなと思って、改めていいところだなと思いますね」
「壮観ですね。来て見るだけではすごくきれいで、頑張ってほしいなと思うけど。これが毎日、毎年の人は大変なんだろうとしか思えない」
これまで棚田を守り続けた佐野さんはこう話す。
「親から28歳の時に引き継いで50年間やったから、そろそろ私の親も許してくれるんじゃないかな」
交付金も…「足りない」
全国で減少する棚田だが、そもそもなぜ必要なのだろうか。
農林水産省によると、傾斜地を利用して作られる棚田は、生産活動を通じた日々の手入れによって、土砂崩れを未然に防ぐ効果があるという。
また、水田は雨水による急激な地下水位の上昇をコントロールする働きがあり、地滑りも防止している。
仮に群馬県を水源とする利根川水系の棚田がすべて耕作放棄されたとしたら、多くの土砂の流出が考えられ、土砂崩れなどの深刻な災害が増加することが予想される。
こうした多方面の機能を持つ棚田を見直し、保全・整備を進めるため、国も動き出している。
2019年には棚田地域振興法を成立させ、認定された棚田は交付金などを受けられる制度を導入している。先月時点で、指定棚田は42府県750地域に広がっている。
しかし、その交付金額は1反(テニスコートおよそ4面)につき、8000円から2万1000円程度で、専門家は全然足りていないと指摘している。
棚田研究の第一人者で、早稲田大学名誉教授・中島峰広氏(92)は「先祖が作った棚田を、自分の代で簡単に捨てられない人も多い。しかし、志だけでは棚田は残せないところまで来ている」としている。
若い力で応援する動き
国土保全のため必要な側面があるものの、維持するにはコストがかかってしまう棚田。そこで、若い力で応援する動きもある。
新潟県では中山間地域の棚田の保全、地域活性化を目的として「棚田みらい応援団」という取り組みを行っている。
コメ農家と企業や大学などをマッチングし、参加したボランティアが田植えや稲刈りなどの保全活動を行っている。企業研修や大学のサークル活動の一環として活用されることもあり、去年は延べ268人が参加したという。
また、地元農家と行政が連携する「棚田オーナー制度」というものもある。都市部の住民が会費を払って棚田を管理する取り組みで、全国で行われている。
例えば、取材した佐野さんが管理する棚田では、年間1万円で田植えや稲刈りの体験ができ、秋になると収穫したコメ15キロ分がもらえるという。
ただ、これは今年で最後になってしまう。こうしたオーナー制度は全国32府県のおよそ80地区で広がっている。
(2026年7月2日放送分より)
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