
受刑者の更生が重視される中、刑務所のあり方が変化している。今回、番組では受刑者の「立ち直り」と向き合う管理栄養士の女性を取材した。
日本一小さな男子刑務所
湯気が立ち上る出来立てほやほやのシューマイ。大きな鍋の中で作られた具沢山のコーンスープ。揚げたてアツアツの大きなドーナツ。これらの品を調理する人たち。実は全員、受刑者だ。
愛知県岡崎市にある岡崎医療刑務所。ここは全国に4つある医療刑務所の一つで、精神疾患などが見られる成人男性の治療を行っている。
収容人数およそ60人の日本一小さな男子刑務所は、医療刑務所であることから、治療にも資する単純工程の軽作業が行われている。
更生に向けて、日々作業を行っている受刑者たち。規則を破れば、懲罰も科される。
暴れて規律を乱す受刑者を一時的に隔離・収容するための「保護室」。番組が取材した時、机を壊し、その破片で居室の窓ガラスを割った受刑者が収容されていた。
受刑者においしい食事を
受刑者たちの中でも、刑務所内での規則を守り、判断力や体力のある模範的な受刑者が任されるのが炊事工場、通称「炊場(すいじょう)」での作業だ。
炊場担当の刑務官(30代)
「こちらは包丁庫といって、包丁、まな板、調理で使う器具等が入っています」
炊場は常に炊場担当の刑務官が立ち会い、包丁などの刃物類は施錠して、職員がいないと開けられない状態になっている。
調味料も鍵のかかる部屋で厳重に管理。受刑者たちのつまみ食いを防ぐためだ。
そんな厳格な規律が保たれている炊場に、受刑者たちと一緒に調理をするある女性の姿があった。
2012年から岡崎医療刑務所で働いている、管理栄養士の黒柳桂子さん。刑務所の食事は、管理栄養士が考えたメニューを受刑者たちが作っている。
黒柳さんは月に3~4回、炊場に立ち、受刑者たちに直接、調理を教えている。
黒柳さん
「(受刑者から)俺らのために手間暇かけてやってくれていた姿を見ていたから、余計にうまかったですと言われて。心の中で抱きしめたくなりました」
受刑者にとって、食事は唯一の楽しみな時間。1人1日あたり500円台という限られた予算の中、黒柳さんは受刑者たちに「おいしい食事」を届けようと、日々工夫し、やりくりに奔走している。
調理から学ぶ“喜び”
この日、昼食で作られていたのは、白身魚のフライに青菜あえ、さらにデザートのココアカスタード。
炊場担当の受刑者(20代)
「(Q.これはなんの作業ですか?)焦げないようにかき混ぜ続けています」
料理が出来上がると、職員が確認を行い、その後、配食の準備が行われる。
配食準備をする上で、最も重要なのが「平等」に分けることだ。おかずやご飯の量の違いが時に、受刑者たちの間でトラブルの原因になる。1グラムの違いも許されない。
受刑者たちは食堂に集まって食事をするが、会話は厳禁だ。昼食後、受刑者に感想を聞いた。
受刑者(60代)
「とてもおいしかったです」
「(炊場担当は)朝早くから調理の支度をしてもらうので、365日交代でやっていて大変だと思うので感謝している」
そして、時刻は午後2時半すぎ。次は夕食準備が始まる。
黒柳さん
「単純な作業ほど、ちゃんと祈りを込めて」
「楽しみながら調理をして、その時って多分、食べてくれる人の顔を思い浮かべていると思う。そういう気持ちを大切にしてほしい」
黒柳さんの思いは、受刑者たちにも浸透している。
炊場担当の受刑者(20代)
「愛情を込めて混ぜました」
炊場担当の受刑者(20代)
「食べる人の立場になって作ろうがポリシー」
炊場担当は、1日3食受刑者全員分を作るため、他の受刑者より作業時間が長いが、こんな楽しみもある。
拘禁刑3年 受刑者(20代)
「延長食。ここの炊場だったらドーナツとかが食べられる」
残業する炊場担当に出される「延長作業食」。このドーナツを楽しみに作業をしていると話す炊場担当の受刑者。黒柳さんと一緒に作業をする中で、ある目標ができたという。
「もしできるなら調理師」
黒柳さんは受刑者と意見を言い合いながら一緒に調理をすることで、誰かのためにつくる喜びを教えてきた。
「(黒柳さんは)お母さんみたい。“炊場のママ”みたい」
黒柳さんの想いは現在、薬物依存者を支える施設で働く元受刑者にも届いていた。
「オアシスみたいな存在」
8年前に出所した川又克規さん。現在は非営利活動法人「名古屋ダルク」で薬物中毒者を支援し、受刑者たちの社会復帰にも力を入れている。
去年、受刑者への薬物離脱指導で刑務所を訪れた際、黒柳さんと偶然再会した。
川又デイケアセンター長
「(Q.当時、炊場での黒柳さんの存在は?)オアシスみたいな存在だった」
黒柳さん
「でも調子に乗りすぎている時はちゃんとね」
一番記憶に残っている思い出は…。
川又デイケアセンター長
「ニンジンの皮を一緒に洗ってくれた時があった。それがすごいうれしかった」
社会復帰して8年。今では更生し、人を支える仕事にやりがいを感じている川又さん。仲間との食事の時間が何より大切だという。
川又デイケアセンター長
「(Q.炊場の経験で活かされていることは?)仲間で一つのものを作り上げることはすごく大事。名古屋ダルクでも食事作りを多く取り入れて、仲間とやっている」
黒柳さん
「彼ら(受刑者)を持ち上げて擁護するつもりはない。でも私が見ている彼らは本当に一部ですけれど、それはそれで事実。私だけが頑張っているわけではなくて、理解を示してやらせてくれる刑務官の協力もある。それを私の目線から世間の人にも伝えられるといい」
“健康”への捉え方大事に
今回取材した黒柳さんが大事にしていることが、受刑者の社会復帰に重要となる“健康”への捉え方だという。
WHO(世界保健機関)では「健康とは肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されている。
黒柳さんは、出所後に自立して生きていくためには、人間関係を構築して孤独ではない状態である「社会的な健康」を取り戻すことが重要と考え、「大勢で食事を作るといった炊場での経験は社会復帰した時に自ら人間関係を構築していく上で役立つ」と話している。
(2026年7月6日放送分より)
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