消えた「ドナウの真珠」酷暑干ばつでドナウ川の水位低下 原発稼働制限で思わぬ影響

消えた「ドナウの真珠」酷暑干ばつでドナウ川の水位低下 原発稼働制限で思わぬ影響
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東欧ハンガリーを襲った記録的な酷暑と干ばつの影響で、首都ブダペストを流れるドナウ川の水位が過去最低の水準となった。国内電力の4割以上を担う原子力発電所では、冷却水が不足して稼働制限に追い込まれ、政府は一時的に、夜間の節水・節電を国民や企業に緊急要請。夏休みシーズンで現地を訪れた日本人観光客にも大きな影響を及ぼした。
(パリ支局・辻村周次郎)

ハンガリーの名物料理 「グヤーシュ」「ランゴシュ」「フォアグラ」

美しき青きドナウ川に迫る“非常事態”

水位の低下が深刻なドナウ川 2026年8月8日撮影
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東欧の国・ハンガリー。かつてはオーストリア・ハンガリー帝国として広大な領土を誇り、今でも中世の面影を残した街並みが広がっている。名物はパプリカをベースにしたスープ「グヤーシュ」や、世界三大珍味の一つ「フォアグラ」。そして街中には温泉が点在し、世界中から多くの観光客が訪れている。

そんなハンガリーのペーテル・マジャル首相は8月1日、突如SNSを更新し、国民に向けて異例の緊急声明を発表した。

「猛暑とドナウ川の劇的な水位低下により、前例のないエネルギー危機に直面しています。全国民と企業に水と電力の使用抑制を強く要請します」

ブダペストの中心部を流れるドナウ川では、今年4月頃から少雨による干ばつで川の水位が低下。さらに、連日40度前後に及ぶ酷暑が拍車をかけている。通常時に比べて2メートル以上も低くなり、過去最低水準を更新した。

水位低下で浮き桟橋が川底に乗り上げている
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原発ショックで始まった“自粛生活”

この水位低下で深刻な影響を受けているのが、国内唯一のパクシュ原子力発電所だ。ドナウ川から十分な量の冷却水を汲み上げられなくなり、原子炉4基中3基が稼働停止となっている。一時は、「4基完全停止」となる基準まで、あと「数ミリ」のところまで迫ったが、その後、数センチ水位が上昇し、瀬戸際で回避できたという。いずれにしても、原子力はハンガリーの国内電力の約4割を賄っていて、国内の電力需給は極めてひっ迫した状態に陥った。

これを受け、政府は8月1日から「午後5時~午後10時」の間、国民や企業に水や電気の利用自粛を要請。ハンガリー政府などによると、日本の自動車部品メーカーなどを含む300社以上の企業が、工場の稼働を一時ストップさせるなどして協力したという。また、農業分野でも給水に制限がかかり、多くの農家が影響を受けている。

消えた“ドナウの真珠”…節電で夜景消灯 日本人観光客にも影

そして、夏休みシーズンで現地を訪れていた日本人観光客も、この混乱に巻き込まれた。

ハンガリー観光の目玉といえば、「ドナウの真珠」と称されるブダペストの夜景だ。ドナウ川に架かる「鎖橋」や高台の「王宮」、ドナウ川沿いにある「国会議事堂」などが毎晩ライトアップされ、まさに“真珠のような輝き”が多くの観光客を魅了してきた。しかし、今回の節電要請により、ライトアップが、一時中止を余儀なくされた。最低限の街灯だけが点される街に、「ドナウの真珠」の輝きはない。

節電のためライトアップを中止した国会議事堂 2026年8月7日撮影
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「2日連続で夜景を見に来ましたが、ライトアップされませんでした。今日が最後の夜だったので、本当に悲しいです」

1カ月前から夏休みの旅行を計画してきたという、東京都在住の20代の公務員男性は暗闇の中、ぼんやりと輪郭が浮かぶ国会議事堂を前に落胆した表情を浮かべていた。

従来のライトアップされた国会議事堂 2026年4月撮影
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また、日本人のツアー客向けのプランを組んだ旅行会社も、対応に追われた。ドナウ川の遊覧船に乗る時間を急遽前倒しし、「夜景クルーズ」から「夕景クルーズ」へと予約を変更する動きが相次いだ。静岡県から家族5人で参加した40代男性は、「船からライトアップを見るのを楽しみにしていたので残念です」と話し、千葉県から参加した自営業の60代男性は「残念ですが、国の一大事なので仕方がないですね」と苦笑いを浮かべていた。

日本人のツアー客を乗せた遊覧船 「夜景」から「夕景」にプランを変更 2026年8月7日撮影
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干上がった川底から軍艦や化石 中洲で”宝探し”も

一方、水位が激減したドナウ川の流域でも“異変”が相次いでいる。川底が露呈したエリアで、歴史的な遺物が次々と姿を現しているのだ。

セルビアでナチス軍艦の残骸を発見
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ブルガリアでマンモスの化石を発見
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ドイツからルーマニアまで、ヨーロッパ10カ国を流れるドナウ川。ブルガリアでは、太古のマンモスの化石が出土したほか、クロアチアやセルビアでは、第二次世界大戦中に自沈したナチス・ドイツ軍の軍艦や不発弾が見つかった。ハンガリーでも、4世紀のローマ帝国時代の遺構や古い金貨・銀貨が見つかり、話題を呼んでいる。

また、ブダペストの中心地では橋の下に突如として広大な「中洲」が出現。「昔のコインが見つかる」などとSNSで情報が拡散され、連日、若者や家族連れが訪れる「新たな観光スポット」と化している。

水位低下でブダペストの中心部に現れた”中洲”。地元の住民や観光客らが集まる
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橋の下で川底が露わになってできた”中洲”
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実際に中洲では、子どもたちが釣りをしたり、若者が積み石をしたりして楽しむ姿も見られた。その一角には、長年川底に眠っていたとみられる、泥だらけの自転車や電動キックボード、さび付いた鉄ワイヤーなどが1カ所に集められていた。中洲を訪れた日本人の20代の兄弟は「古いコインを見つけます!」と意気込み、“宝探し”にいそしんでいた。

長い間川底に沈んでいたとみられる自転車や電動キックボード 2026年8月7日撮影
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危機回避も残る不安…求められる“広域連携”

市民生活だけでなく、日本人の観光にも大きな影響を与えたドナウ川の干ばつと、ハンガリーの電力不足。水と電気使用の自粛要請から5日目となる8月5日、マジャル首相は自身のSNSを更新。「気温が下がって雨が降り、さらに隣の国から緊急で電気を融通してもらったおかげで、一番大変な停電の危機は切り抜けました」と発表した。街のライトアップは徐々に再開され、現地では少しずつ日常を取り戻しつつある。

ただ、降水量は今もなお不十分で、ドナウ川の水位は低い水準のままだ。今回の事態を受け、ハンガリーやドナウ川流域の周辺国は、取水制限の見直しやヨーロッパ広域における電力のネットワークの強化など、気候変動による慢性的な渇水リスクへの抜本的な対策に乗り出しているという。

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