
「多くの仕事が永久に消えてしまうだろう」
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米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、自身のウェブサイトで公開した論考が大きな話題を呼んでいる。
タイトルは「激動のAI時代が到来。我々がいま下すべき重要な選択」というもの。
AIについて長年、その可能性を前向きに語ってきたゲイツ氏が、今回は一転、AIがもたらす将来への危機感をあらわにしている。AIによって大量の失業者が生まれる可能性に言及し、強く警鐘を鳴らしているのだ。(ニューヨーク支局長 親松 聖)
AI大量失業時代「若い世代」への懸念
気になるのは、具体的にどんな仕事がなくなるのか?
ゲイツ氏がまず挙げるのが、若者がキャリアをスタートさせる「エントリーレベル」の仕事だ。
新人として会社に入り、経験を積み、中堅社員となり、やがて管理職へ――。
これまで当たり前だった「キャリアの階段」の一番下をAIが奪えば、若者が仕事を覚え、経験を積む機会そのものが失われる可能性がある。
ゲイツ氏は若い世代の失業を特に懸念している。
具体的な職種として挙げているのが、営業、カスタマーサポート、ソフトウエア開発、法律関連の仕事などだ。それに加えて、ローン審査、データ分析、患者のトリアージなど、これまで人間が担ってきた仕事にもAIが入り込むと予測している。
さらに、その先にあるのが「ロボット」だ。
AIが「頭脳」の仕事を変える一方で、ロボットは「身体」を使う仕事を変えていく。ゲイツ氏は、ロボットの価格は将来的には大幅に下がるとみている。
例えば、時給20ドルの人間を雇う代わりに、時給換算で10ドルのロボットを使えるようになれば、企業にとってロボットを導入する経済的な動機は大きい。そうなれば、建設やホテル、飲食などの接客業で、2030年ごろにはロボットと人間が仕事を取り合うような状況も想定されるという。
しかも、ゲイツ氏は、企業同士の競争そのものが、AIやロボットの導入をさらに加速させると指摘する。
ライバル企業がAIを使ってコストを下げれば、自社も導入せざるを得ない。その結果、社会全体がAIとロボットによる自動化へと一気に突き進む可能性がある。
ゲイツ氏は、AIはわずか10年ほどで急速に社会に浸透する可能性があり、適切な政策がなければ、新たに生まれる雇用は失われる雇用に遠く及ばないと分析している。
では、どうすればいいのか。
AI時代に残す「人間専用職業」という発想
米中をはじめ各国がAI開発でしのぎを削るなか、AIの進歩そのものを止めることは現実的ではない。だからこそ、ゲイツ氏はAIを「止める」のではなく、社会が大きく変わる前に、今すぐAI時代に対応する国内外の制度や枠組みを構築するなど、「前例のない世界的な対応」が最優先事項だと、世界の指導者らに強く訴えている。
その一つの考えが、いわゆる「ロボット税」だ。
人間を雇えば、企業は給与や社会保険料などのコストを負担する。一方、AIやロボットを導入しても、人間を雇った場合と同じような負担は生じない。この違いが、企業に人間を機械へ置き換える動機を与えているのではないか。
ゲイツ氏は、AIやロボットによって生産性が上がった分に課税し、その税収を教育や社会保障などに充てる考えを示している。
そして、もう一つの重要な提案が「人間専用の職業」を決めることだ。
AIやロボットが技術的にはできる仕事であっても、あえて人間に残す。自然を守るために「自然保護区」を設けるように、AIに任せない「人間の領域」をつくるという発想だ。
ゲイツ氏が例に挙げるのは、介護や教育、メンタルヘルスなどの仕事だ。その背景には、アルツハイマー病を患った父親の介護経験がある。父親が言葉で自分の状態を伝えられなくても、介護士は表情や様子から何を必要としているのかを理解していたという。
たとえAIが介護できるようになったとしても、「それでも人間にやってほしい」と思う人はいるだろう。つまり、「AIにできる仕事」と「AIにやらせる仕事」は、必ずしも同じではない。
ただ、ここには簡単には答えの出ない問題もあるという。
例えば高齢者介護を例にすると、日本のように少子高齢化が進み、介護する人が不足している国では、介護ロボットを積極的に導入したいと考えるかもしれない。一方で、別の国では「高齢者の介護は人間が行うべきだ」という価値観が強いかもしれない。
国によって「人間に残す仕事」が違えば、国際競争にも影響する。ゲイツ氏の論考は、こうした問題について明確な答えを示しているわけではない。
AIに仕事を奪われた人間は、何をするのか。そして、AIが人間より上手にできる仕事が増えたとき、それでも人間がやるべき仕事とは何なのか。
ゲイツ氏が投げかけているのは、単なる「AIで仕事がなくなる」という問題ではない。AI時代に「人間の仕事にはどんな価値があるのか」。その答えを、私たちはいち早く定義していかなければならない。
アメリカメディアは、今回のゲイツ氏の警告を、これまでAIの可能性を強調してきた「ITの巨人」の大きな転換として伝えている。
そして今、アメリカでは、AIによって仕事が変わることを前提に、失われる雇用をどう支え、どこまでを「人間専用の職業」として残すのか――早くも議論が始まっている。
