
北海道新聞の記者がロシア当局に“スパイ容疑”で拘束されました。
【画像】【報ステ解説】なぜいま?強硬路線の一環か…ロシア“スパイ容疑”で日本人記者拘束
連邦保安庁が“突入”映像を公開

男性記者の拘束に向かう様子だとする動画。
映像は、FSB=連邦保安庁の捜査官らが、ホテルの一室に向かうところから始まります。このあと、1人の男性がうつ伏せで拘束される様子が映されます。

日本のパスポート、日本の領収書、『北海道新聞社』の文字も確認できます。捜査官は、男性に対し、こう告げました。
FSB捜査官
「スパイ行為の疑いで拘束する。あなたには弁護士が選任され、引き続き、捜査が行われる」
ロシア側の発表では、拘束されたのは極東、サハリン州のユジノサハリンスクに駐在していた北海道新聞の男性記者。モスクワへと移送され、勾留施設に送られました。
FSBは、秘密警察兼諜報機関・KGBの後継組織です。
ロシア側が主張する拘束の理由です。

FSB捜査官
「綿密な調査の結果、日本人が記者の立場を利用して、記者活動の範囲をはるかに逸脱していたことが判明した。日本の情報機関の指示を受け、特別軍事作戦の動員兵や、志願兵の人数に関する情報を、日本の関係機関に提供しようと、収集・保管していた」
男性記者が、ウクライナ侵攻への動員兵や志願兵についての情報を集め、日本の情報機関と接触していたとの主張ですが、明確な証拠は示していません。
サハリン州の北海道新聞の支局も家宅捜索を受けています。

男性記者が送られたのは、ロシア有数の“過酷な勾留施設”だといわれるレフォルトボ拘置所で、政治犯が拷問などの非人道的な扱いを受けてきた歴史もあります。
モスクワの裁判所が認めた勾留期限は、12月までですが、延長されれば、1年半に及ぶ可能性もあります。
日本側は「現時点で接触できず」
日本政府は、ロシアに対し、情報提供と人道的な配慮を求める申し入れを行いましたが、現状、大きな進展はないとみられます。

木原稔官房長官
「(Q.拘束された邦人の健康状態など、本人と接触はできているのか)健康状態について、現時点で(本人と)接触できていない。日ロ間には多くの問題があることは事実。日ロ関係が厳しい状況にあるなか、日本の立場に基づいて、毅然と対応をとってきている」
なぜいま?強硬路線の一環か

8月には、プーチン大統領が北方領土の択捉島を初めて訪問。その直後には、北方領土周辺で軍事演習を敢行し、日本を挑発するような行動をとっています。さらに、このタイミングで、択捉島で13日~17日まで爆撃訓練を行うと日本に通知してきたそうです。

拘束された男性記者への処遇をみても、フェーズが明らかに上がっています。
過去、日本人の記者がスパイの疑いで拘束された事例は、ほとんどありません。
2019年に共同通信の記者が拘束されたことがありましたが、5時間で解放。国外退去を命じられるにとどまりました。
最低でも約2カ月勾留されるという今回の対応は、これまでで最も厳しいといえます。もし、男性記者が“スパイ罪”で有罪判決を受けた場合、10~20年の懲役という重い刑が科される可能性があります。
実は、今月、プーチン大統領自ら、日本に向け、このような発言をしています。

ロシア プーチン大統領(1日)
「日本の対ロシア姿勢は変わった。ロシアが日本にではなく、日本がロシアに制裁を科した。さらに、一部の日本の政治家からは、かなり厳しい発言も聞かれる。私たちは、そのような言動を一切していない」
“日本は変わってしまった。目を覚ませ”。そんなメッセージです。
“スパイ罪”定義は曖昧も厳格化

ロシアは、ウクライナへの全面侵攻開始後、法改正でスパイ罪の定義と対象を大幅に拡大。軍に関するあらゆる情報に接触する外国人を罪に問えるようにしました。

どんな情報が機密にあたるのかひどく曖昧な法律で、西側メディアからは「天気予報ですら罪になり得る」と指摘されていたほどです。
3年前には、スパイ容疑で、ウォール・ストリート・ジャーナルの男性記者が逮捕されています。アメリカ政府の指示のもと、軍事機密を収集していたという主張でしたが、証拠も示されないまま、懲役16年の判決が言い渡されました。

1年半の拘束ののち、ロシア人受刑者たちとの交換が成立して、アメリカに帰国が叶いましたが、民間人を、突然、拘束するロシアのやり方に世界が警戒心を高めました。
今回もロシア側は「日本政府指示のもと行われたスパイだ」と主張しています。

ロシア外務省 ザハロワ報道官
「本日の事件は、単発的なものではないと指摘せざるを得ません。我々は、改めて、日本政府に対し、正気を取り戻し、ロシアに対する敵対的な措置をやめるよう求める」
日本政府は14日夕方、ロシア大使を呼び出しました。外務省は、速やかな情報提供を求めるとともに、ロシア側が一方的な情報発信を行っていることに強く抗議したといいます。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.日本人の記者が拘束されたという一報を聞いて、どう思いましたか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「驚きました。といいますのは、中国では、邦人の長期拘束が問題になっていますけれども、ロシアでは、これまで長期にわたるとみられる拘束事案はほとんどないんです。今回は、すでにモスクワの裁判所まで移送されたうえで、2カ月の勾留がすでに決まっている。さらに、有罪になれば、もっと勾留期間が長くなる可能性もあるということなので、これからロシアに関しても、中国並みに邦人の長期拘束を心配せざるを得ない状況になってきたのではないかと思います。ロシアを訪問しているような記者、あるいは外交官、我々、研究者も、中国ほどの厳しい拘束はないだろうということで、これまで訪問・滞在してきたと思うのですが、これからは考えを改めなければいけなくなったのではないかと思います」
(Q.公開された映像ですが、ロシア側の意図はどこにあるのか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「全体で4分弱の映像ですけど、かなり作り込まれている感じがあります。まず、FSBというのは、ソ連時代の秘密警察・KGBの後継組織。FSBとロシア語で書かれていますが、そのジャンバーを着て、公に活動するというのはあり得ないと思う。諜報機関で、外国のスパイ活動を取り締まるということなんですけど、今回、FSBの存在活動を、ロシア国内、日本も含めて、誇示したいという狙いもあると思います。今回、拘束された記者が、スパイ活動を行っていたということを、映像からも、そのニュアンスを伝えようとしているところがあると思います。例えば、日本のパスポートがアップで出てきたあとに、ロシア語の文書のようなものが映されていて、ここに公用と書かれている。公用文書である、あるいはパソコン、これを立ち上げる様子であるとか。ロシア国内でも、大々的にこの映像を報じているということなので、外国スパイの取り締まりを、FSBが厳しく行っているということを、国内にアピールしながら、愛国ムードを高める狙いもあるのではないかと思います」

(Q.なぜ、日本人記者が拘束されたのか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「ポイントは、拘束された場所がサハリン州というところにあるのではないかと思います。サハリン州というのは、ロシアがいうところ、国後島・択捉島、これは我々の北方領土ということになりますが、このサハリン州が管轄をしている場所なので、そもそもこの場所というのは、日ロ関係においては、かなりセンシティブなところです。もう一つは、いまのウクライナ戦争の実態。実は、極東ロシア・サハリン州から、かなりの兵士が前線に登用されている。その実態を、ロシアからすると、ロシア国内外に知られたくないという思いがあると思います。ですから『どの程度の動員兵がいるのか』といった情報を、仮に容疑が事実だとすれば、そこは、かなりロシア側は気にしていた可能性があるのではないかと思います。そういう意味において、このサハリンという場所が、今回、ポイントになるのではないかと思います」

(Q.レフォルトボ拘置所に勾留されたというのは、どのような意味を持つのか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「ウォール・ストリート・ジャーナルの記者も、地方でFSBのスパイ活動で拘束されて、レフォルトボ拘置所で勾留されていたということです。ここは、かなり因縁のあるところで、政治犯、特にスパイ活動を行っていた人たちが収容される施設。勾留状況も厳しいんじゃないかといわれています。ウォール・ストリート・ジャーナルの記者も、結果的には、解放まで500日かかった。アメリカとの間の受刑者の交換によって解放されたということになります。今回の日本人記者が、ここでどういう取り扱いを受けるのかというのも気になるところだと思います」

(Q.今回の記者拘束の背景に、日本とロシアとの関係性が絡んでいるのか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「ウォール・ストリート・ジャーナルの記者の拘束も、米ロ関係が悪化するタイミングで起きている。今回の日本人記者の拘束に関しても、今の日ロ関係の動きを反映しているのではないかと思われます。ロシア側としても、邦人の拘束が長期化するのではないかというニュアンスを出しながら、日本に外交的な揺さぶりをかけてくるのではないかと思います。もう一つ、中国の動きもあると思います。8月のプーチン大統領の択捉島訪問以降、ロシアは、今、戦争を継続するうえで、中国に頭が上がらないところがあります。中国に寄り添う形で、日本に対して厳しい姿勢を、今、見せている側面というのは、実はあるんです。この10月13日、同じ日に、中国政府の代表団が択捉島を訪問したというニュースも飛び込んできましたので、日本だけを見ているということではなく、中国と足並みをそろえながら、日本に対して強硬な姿勢を見せ始めている。そういう側面もあるのではないかと思います」
(Q.とりあえずは2カ月の勾留ということですが、今後の見通しは)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「日本人記者が、いつ解放されるのかということですが、これは裁判次第では長期化する可能性もあり得るということ。ウォール・ストリート・ジャーナルの記者ですと、禁錮16年で、アメリカとの受刑者交換によって、1年半で解放されていますが、日本の場合は、受刑者交換というのが想定されませんので、果たして、裁判がどのような進展を見せるのか。すべて公開にはならないと思いますが、そこのところも心配されると思います。ロシア側からすると、日本の経済制裁などの緩和を狙って、外交カードとして、日本に対して、さらなる揺さぶりをかけてくるのではないかと思います。気になるのは、トランプ大統領が、最近、ロシアに接近し始めて、制裁緩和の動きも見せているというタイミングで、こういう拘束事件が起きてしまっているというところもあります。ロシア側からすると、アメリカと日本で対応を分散させるというか、分断を図るような動きに出てくる可能性もありますので、その点は、十分、留意しておく必要があるのではないかと思います。いずれにしても、日ロ関係のさらなる冷え込みは、避けられないのではないかと思います」
