
アメリカの中間選挙を前に、ニューヨークで、「民主社会主義」の広がりを取材した。
【画像】「アメリカ民主社会主義者(DSA)」事務所を見つめる若者
全米最大の民主社会主義団体「アメリカ民主社会主義者(DSA)」の新規参加者向けのオリエンテーションだ。
事務所には続々と若者らが詰めかけ、会場にはおよそ30人が集まった。
ところが、主催者側からはカメラでの取材を控えてほしいという要請があった。
「社会主義」という言葉により、支持者が強い批判にさらされることも多く、参加者を守る義務があるという理由からだった。
民主社会主義の持つ意味や組織の構造など、およそ1時間15分、説明会は行われ、終了後、参加者に話を聞くことができた。
その男性は、ニューヨークに引っ越してきたことをきっかけに正式にDSAに参加したという。
世界有数の物価高の中、ニューヨークを普通に暮らせる社会にしたい、という極めて現実的な理由だった。
「DSAに関しては、実際に行動しているところが本当に気に入っています。現場に出て、組織活動を行い、候補者を当選させている。DSAは、現実の政治的な変化を起こしているのです。そして、世界全体に対して、ここニューヨークに対しても、確固たるビジョンを持っています。より平等な社会を目指していて、ニューヨークで言えば、世界でも最も物価の高い都市の一つで、人々がここで生活できるだけの経済的な余裕を持てる社会です。そして、私たちの税金がガザの子供たちを殺すために使われるのを防ぐことなど、そうしたことのために戦っているのです」
中間選挙後に「存在感は高まる」
主催者のDSAのメンバー、ジョシュ・クラウシャー氏によると、人々の関心は高く、組織の規模はこの1年半でおよそ2倍になったという。
「アメリカには過去にも社会主義者はいましたが、近年、実質的に社会主義政党は存在していませんでした。DSAは今や、既存の政治に異議を唱える運動として捉えられています。現在、民主党やトランプ氏率いる共和党など、既存の政治勢力はいずれも極めて不人気です。そうした状況に加えて、人々の生活費の負担を軽くするといった、より一般的な議論も相まって、民主社会主義はますます現実的な選択肢として見なされつつあります」
そして、中間選挙後に「民主社会主義の存在感は高まる」と自信を見せた。
「人々が、自分の労働に見合った対価を正当に受け取る権利を持つことが必要です。現在、DSAの加入者は着実に増えています。そして、中間選挙の結果が、2028年の大統領選や議会選挙の行方を左右することになるでしょう。勢いはさらに加速しています」
アメリカ社会で長く続いてきた「物価高」と「格差」の問題。2024年の大統領選を取材した際には、バイデン政権下での物価高への不満を募らせ、「暮らしを変えてほしい」とトランプ氏に投票した人たちが非常に多かった。
しかし、トランプ政権になってもインフレは根強く、生活は楽になっていない。その不満が、今度は右ではなく、左へ向かっている。
「隠れトランプ」との共通点
今回、拡大するDSAを取材してもう一つ感じたことがある。
「社会主義」という言葉への警戒感から、自らの考えを公に語りたがらないいわば「隠れ民主社会主義者」とも言える人々の存在だ。
今回、DSA側による厳しい取材規制の背景にも、「社会主義者」という言葉の響きによって参加者が批判にさらされることへの警戒感があった。
これまで、トランプ支持者を取材する中で、いわゆる「隠れトランプ」の存在があった。
政治的な立場は正反対だが、自らの支持を公にすることへのためらいという点で「隠れ民主社会主義者」も、どこか共通するものを感じた。
世論調査だけでは見えない変化
現在、中間選挙をめぐっては民主党有利との世論調査が相次いでいる。
ただ、前回の大統領選でも、「隠れトランプ」の存在などで、接戦と言われる中、ふたを開けてみるとトランプ大統領の圧勝となった。
ワシントンDCのシンクタンクからは、今回の中間選挙の世論調査も共和党の支持率が若干低く見積もられているとの声もあがっている。
一方で、自らを「社会主義者」と名乗ることに抵抗のある「隠れ社会民主主義者」も存在するならば、単純に世論調査の数字だけでは、今のアメリカ社会の変化をとらえきれないのかもしれない。
暮らしへの不満を背景に、アメリカの政治の振り子は右に左に大きく揺れている。
ニューヨークの外交関係者からは、今回の中間選挙がどのような結果になっても、最終的に問われるのは「アフォーダビリティ」、つまり普通の人が普通に暮らせる社会を本当に実現できるのかだ、という見方も聞かれた。
既存の政治にNOを突きつける「民主社会主義」が広がる中、ここが解決されなければ、人々は再び別の方向に政治の答えを求めることになる。
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