
「1週間後の中間選挙、民主党は勝ちますか?」
「そうですね。状況は良好で民主党に追い風が吹いています。でも、、、」
先週土曜日、民主党候補者から予想外の答えが返ってきた。
(ニューヨーク支局 大野公二)
DSA=民主社会主義者の中間選挙を追う
ニューヨーク市クィーンズ区。ここは全米で旋風を巻き起こしている政治団体「DSA=アメリカ民主社会主義者」の最大規模の拠点であり活動の中心地だ。
10月24日(土)午前10時半、DSAのメンバーが市場に集まってきた。イスラム教徒が着用するヒジャブをつけた女性もいる。彼女が立候補者だ。
「私の名前はアビヤです。州議会上院議員に立候補しています」
ビラを配る彼女のトレーナーには「民主社会主義者」と大きく書かれている。資本主義の中心地ニューヨークで「社会主義」の文字が一際目立つ。
子供を連れた母親が彼女に質問した。
「あなたは移民問題をどう考えていますか。ICEによる強権的な摘発が私にとって一番の問題です」
彼女が答える。
「私は去年、ニューヨーク警察がICEに協力しないための法案可決を後押ししました。移民問題は私にとって最優先の課題です」
DSAメンバーのアビヤ・カワス氏(34)。パレスチナ難民の子として生まれたパレスチナ系米国人だ。幼い頃に父親が不法移民としてICE(移民税関捜査局)に摘発され米国から強制送還された。ニューヨークに残された母と二人、その後の苦しい生活体験が彼女を政治の道に進ませた。
「長い間政治に幻滅してきたコミュニティ出身の私だからこそ現状を打破できる」
そう訴えて中間選挙ニューヨーク州議会上院選に民主党新人として立候補した。
国民皆保険や住宅費の負担軽減、富裕層への課税強化などを訴えているDSAの会員数は、この2年で倍増し全米で約12万人になった。今回の中間選挙でもDSAメンバーやDSAの支援を受けた候補者が、連邦議会や州議会で数多く当選することになるだろう。
なぜここまで「民主社会主義者」への支持が広がっているのか。
DSA候補者に寄り添う選挙参謀の正体
新人のアビヤ候補にピッタリと寄り添うサングラスをかけた白人男性。アビヤ候補の選挙活動を取りしきるユダヤ系米国人のアダム・フリードマン氏(43)だ。民主党の大統領予備選に出馬したバーニー・サンダース連邦上院議員の元で選挙活動を学び、その後、民主党の次期大統領候補の一人と言われるオカシオコルテス連邦下院議員の選挙を支えてきた。DSA候補の戦い方を知り尽くしたブレーンが今、アビヤ氏の選挙活動を支えている。
アダム氏に率直に聞いた。
「ユダヤ系のあなたがパレスチナ系のアビヤ候補を支えている。それに彼女はイスラエル政府を徹底的に批判している。支援することに葛藤はありませんか?」
「全くありません。ユダヤ系が全てイスラエルのネタニヤフ政権を支持しているわけではありません。平和を愛するユダヤ系米国人はたくさんいます。私は彼らを味方につける方法を知っています」
選挙に勝つには親イスラエル・ロビー団体の協力が不可欠というのが、米国政治の常識だった。ロビー団体には巨大な資金力があり、その資金が実際に選挙戦の結果を左右してきた。しかし今、DSAはその常識を変えようとしている。
「私たちDSAの戦略は、親イスラエル・ロビー団体と平和を望むユダヤ系市民とを切り分けることです」
米国政治の構図書き換えを狙うDSA
DSAは左右の思想的違いではなく、貧富の上下格差を徹底的に争点化している。親イスラエル・ロビー団体にお金を拠出する大企業経営者や富裕層を批判する一方で、高騰する医療、家賃、食費に苦しむユダヤ系労働者、平和を愛するユダヤ系米国人は味方につける。ユダヤ系市民を“上下に切り分ける”このDSAの戦略が、想像以上にうまくいっているという。
「アビヤ候補はイスラム教徒でありパレスチナ系です。もっとユダヤ系住民の抵抗にあうかと思いましたが、予想以上に味方が多かったことに私自身も驚いています」
そうは言っても選挙にはお金が必要だ。資金はどうしているのだろうか。
「今の生活を変えてほしいと願う労働者たちに小口の献金を呼びかけています。支援は広がっていて彼女には数千万円の献金が集まっています。それに大企業や富裕層が背後にいる親イスラエル・ロビー団体の金を受け取っていないことが、今や彼女の強みになっています。既得権益の巨額マネーに操られず対抗できる市民派の政治家という印象を持ってもらえます」
DSAは、親イスラエル・ロビー団体の資金を得ないと当選できないという米国政治の構図を、その資金を受けることが逆に不利に働くという構図に書き換えようとしている。
明かされたDSA躍進の「秘密」
実際DSAは、これまでニューヨークを中心に大企業や富裕層の資金を受けずに、草の根の圧倒的な支持で資金の逆境をひっくり返して勝利を積み上げてきた。ニューヨークのマムダニ市長がその典型例だ。お金による広告宣伝ではなく、大量のボランティアが徹底的に戸別訪問を行い有権者と対話する。この新たな戦い方を知るアダム氏のような選挙参謀が、今回の中間選挙では全米各地の民主党候補者の元に散り、DSAの「勝ちパターン」を輸出しているという。
「バーニー・サンダースの元で学んだ数千人が、今、多くの次のサンダースを生み出そうとしているのです」
これが、アダム氏が明かしてくれたDSA躍進の「秘密」だ。
冒頭のやりとりに戻る。
今回、ニューヨーク州議会上院選に民主党新人として立候補したアビヤ候補に「1週間後の中間選挙、民主党は勝ちますか?」と聞いた。
「そうですね。状況は良好で民主党に追い風が吹いています。でも、忘れてはいけない重要なことがあります。今回の選挙で勝利することも重要ですが、それ以上に大切なのは、極めて腐敗したトランプ政権を2年後に倒すことです。この中間選挙でも、生活に苦しんでいるのにトランプ氏の共和党に投票したという人たちがいるはずです。私たちDSAはそうした人々を私たちの運動に迎え入れたいと考えています。中間選挙の先にこそ大きな戦いが待ち受けています。私たちはそれを見据えています」
中間選挙投票1週間前の新人候補者が、すでに2年後の大統領選挙を見据えている。予想外の答えであり、DSAの強さを感じる答えだった。
