
医療未来学の第一人者、奥真也特任教授が2020年に出版した本で示した医療の未来予想図。2025年に「本格的な認知症薬が誕生する」と予想していましたが、実際には2年早い2023年12月に日本で使われ始めました。
「認知症薬」2025年予想も…23年に登場
日本のエーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発した「レカネマブ」です。従来の、症状を一時的に和らげる薬とは異なり、病気の原因となる物質を取り除いて進行を抑える薬として注目されています。
奥特任教授によりますと、一般に認知症と呼ばれるものの多くはアルツハイマー型認知症です。アミロイドβやタウたんぱく質が蓄積するなどして、病気が発症すると考えられています。
東京大学と新潟大学の研究チームは、脳の老廃物を洗い流す働きを促す薬剤について、マウスの実験でタウたんぱく質の蓄積を抑えられることを示しました。
奥特任教授は、2023年に登場した薬とは異なる部分に注目した薬の開発も進んでいると説明します。
東京科学大学 奥真也特任教授(医師/博士(医学)/医療未来学者)
「今年、少し良い結果が出始めているような感じですね」
佐藤ちひろアナウンサー
「じゃあ、さらに精度が上がってくるということですか?」
奥特任教授
「そうですね、2023年の薬とは違う部分に注目した薬っていうのが、今も開発が進んでいるという状況ですね」
2030年の感染症とAI診察
奥特任教授の予想図では、2030年に感染症の脅威から解放され、AIによる診察が主流になるとされています。
新型コロナの流行を受けて、メッセンジャーRNAワクチンという新しいタイプのワクチンが開発されました。
奥特任教授は、さらに「クリスパー」と呼ばれるゲノム編集技術にも注目しています。DNAを狙い通りに切断・編集し、遺伝子レベルに直接働き掛ける治療につながる可能性があります。
奥特任教授は、こうした技術が感染症と戦う力を高める一方で、ウイルスや病気も進化すると指摘します。人類が失敗から学ぶなど、努力を続けることが重要だといいます。
佐藤アナ
「(2020年と比べて)現在の先生の見立ては、いかがでしょうか?」
奥特任教授
「感染症に関する戦う技術は、だいぶそろってきた感じがしますので、2030年に全部の感染症が解決するというところまではいかないと思いますけれど、いい線いっていると思いますけどね」
AI診察が主流になるという予想について、奥特任教授は実現するとみています。病院やクリニックで医師や看護師、受付の人と接する、今の環境は大きく変わっていくと話しました。
佐藤アナ
「そして、AI診察が主流というのはどうでしょうか?」
奥特任教授
「そうなってくると思います。病院やクリニックに行って、医者、看護師、受付の人と話す環境は激変していくと思いますので、この激変の様子は楽しみにしていただければいいかなと思います」
佐藤アナ
「やはり、患者側からも便利ですもんね」
奥特任教授
「どちらにとっても便利なように、それを取り巻く仕組みが成長してほしいと思っています」
2035年の「がん治療」は?
2035年の予想は「がんの大半が治療可能になる」です。奥特任教授は、今年6月にアメリカのがんの学会ですい臓がんの新薬の結果が発表され、会場でスタンディングオベーションが起きたと紹介しました。
今年5月から6月にかけて開かれたアメリカ臨床腫瘍学会で、新薬「ダラクソンラシブ」のデータが示されました。1日1回服用することで、過去に治療歴のある転移性すい臓がんの患者の死亡リスクが、標準的な抗がん剤治療と比べて60%減ったということです。
今年8月には、アメリカ食品医薬品局が新たな治療薬として販売を承認しました。
日本で使えるようになるには、申請のほか、保険制度でどのような患者に使うのか、価格をどうするのかといった議論が必要です。
奥特任教授は、がん治療全体について、以前と比べて患者が治療後の人生を考えられるようになってきたと説明します。
奥特任教授
「多くのがんで、解決できるものが増えてきています。もちろん解決といっても、早く進行するなどで、例外的に亡くなってしまうなど、いろんなことはもちろんあるのですが。でも、がん全体として見て、そういう人の全体の5~10年後、どのくらいの方が元気で生活できて、生きていることができるかに関しては、相当良くなってきているので。我々が若い頃だと、がんになったら、もう何もできることないから、『早く世界旅行行こう!』みたいな話だったと思うんですけど、今はもうそういう感じではなくて、がんになっても治療も含めて、それからの人生設計をやらなきゃいけないから、お金を無駄遣いしている場合でもない、計画的に生きていかないといけない。少なくとも計画的に生きていかなきゃいけないと考える病気の一つなので、なったら終わりということでは全然ないです」
一方、早期発見が難しい希少がんや、薬が効かなくなる薬剤耐性のがんなどは課題です。解決に向けた研究が続いています。
2040年、iPS細胞に期待
2040年の予想図では、神経難病の克服や糖尿病の解決が挙げられています。
奥特任教授は、遺伝子の関与が分かってきたことで、遺伝子を制御する方法の研究が進んでいると話します。
研究機関やベンチャー企業ではAIも活用され、ALS(筋萎縮性索硬化症)など、解決が難しい病気に対する新たな薬の登場が期待されています。糖尿病についても、遺伝子の研究が広く行われています。
神経難病の一つ、パーキンソン病では、iPS細胞を使った世界初の製品が承認されています。
今年は、iPS細胞の技術を使った新しい治療法を試験的に行う取り組みも始まりました。さらに今年9月、大阪大学発のスタートアップ企業は、iPS細胞から作った心筋シートを使う移植手術を、保険適用後初めて実施したと発表しました。
奥特任教授は、肺や腎臓などの臓器を置き換える技術も、すでにさまざまな形で発表されていると説明します。
まだ日本で使えるものがあるわけではありませんが、再生医療技術の実用化に期待が寄せられています。
奥特任教授
「もともと持っている臓器の置き換えができるのは確実。例えば肺や腎臓など、そういうものについて置き換える技術というのは、もうすでにいろんな形で発表されています。まだ日本で使えるものがあるわけではないのですが。何かSFみたいですけれど、もう実際に存在するようになっているのが現状です」
医療の進歩を健康につなげるには
医療が進歩する一方で、患者一人ひとりが健康を保つために行動することも大切だと奥特任教授は話します。
佐藤アナ
「人と医療というのは、今後どう結びついていくと考えていらっしゃいますか?」
奥特任教授
「医学だけではなく、周辺の学問も含めていろんな病気が治るように、対処できるように、いろんな科学技術の進歩があるわけですけど、その一方でそれは結局、患者さん、皆さんそれぞれの意識の問題でもある。医学が進んでいるから、自分がサボってもいい、放っておいてもいいじゃなく、せっかく医学もこれだけ進歩して治る病気が増えてきているんだから、自分側も治るように努力するとか、普段の健康を保つように努力するとか、そういうふうにあってほしいと思います」
健康を考えるうえで、注目されているのが遺伝子のスイッチ「エピゲノム」です。
ゲノムが生き物のDNAの塩基配列の情報全体、いわば生命の設計図を指すのに対し、エピゲノムは遺伝子のスイッチをオン・オフする仕組みです。
そのスイッチに影響を与えるのが食事や運動、生活環境です。バランスの良い生活が、実は「遺伝子レベル」で健康を左右することが分かってきたそうです。
(「グッド!モーニング」2026年10月21日放送分より)
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