リオオリンピックの様々な球技の中でも、名だたるプロ選手が集まり、全世界が注目している競技の一つがバスケットボールだろう。
今回もアメリカ代表はNBAのスーパースター軍団が名を連ねた。クレイ・トンプソンとケビン・デュラントの新ウォリアーズ・コンビ。カイリー・アービング、カーメロ・アンソニー、ドレイモンド・グリーンなど、実力能力ともに申し分ないライナップが揃っているが、やはりファンの頭をよぎるのは、参加を辞退したステファン・カリー、レブロン・ジェームス、ラッセル・ウェストブルックなど、真のベストメンバーで構成された「ドリームチーム」の存在だ。
近年のオリンピック・ゲームで、もはやお約束となっているのが主力のスーパースターたちの相次ぐ辞退や参加拒否。高額なギャラを払っているNBAのチームからの要望や、シーズン終了直後の選手たちの体調管理の問題など、それぞれの事情は理解出来るが、やはり思い起こされるのはプロ選手の参加が初めて認められた1992年の史上最強の「ドリームチームI」の圧倒的な存在感だ。
実はNBAのスーパースターによる「ドリームチーム」構想が立ち上がった当初は、多くの選手たちがバルセロナオリンピックへの派遣に対して難色を示していたという。そこでナショナルチームを選考するUSAバスケットボールは、前年度HIV感染のため突如引退した名ポイントガード、マジック・ジョンソンに白羽の矢を当てる。
当初ジョンソンは健康問題を理由に参加することを躊躇していたが説得され受諾。その後最大のライバルで怪我を抱えていたラリー・バードを自ら招聘。
さらにアマチュア時代に金メダルを獲得していることを理由に参加を拒否していたマイケル・ジョーダンまで勧誘に成功した。
このことをきっかけに、チャールズ・バークレー(サンズ)、マイケル・ジョーダン(ブルズ)、カール・マローン(ジャズ)、クリス・マリン(ウォリアーズ)、クライド・ドレクスラー(ブレイザーズ)、パトリック・ユーイング(ニックス)、スコッティ・ピッペン(ブルズ)、デビッド・ロビンソン(スパーズ)、ラリー・バード(セルティックス)、マジック・ジョンソン(レイカーズ)、クリスチャン・レイトナー(デューク大学)、ジョン・ストックトン(ジャズ)とプロ・アマ含め本当の意味で「ベストの中のベスト」が集まった奇跡のチームが完成した。
かくして誕生した「ドリームチームI」は、バルセロナオリンピックで躍動。全試合で平均43.9得点差という無双振りを発揮。余りにも強力過ぎるメンバーに対戦相手が試合前後にサインや記念撮影を求め、もはや競技とはかけ離れた状況になり、決勝戦でもクロアチアを圧倒して金メダルを獲得した。
しかし「ドリームチームI」の大成功は副作用を生み出すことになる。最強が故に1994年世界選手権での「ドリームチームII」は若手中心の構成、1996年アトランタ五輪での「ドリームチームIII」では、若手とベテランを混ぜたメンバーと制約が生まれ始める。その後現在のように主力選手の辞退や、参加拒否などでベストとは程遠いチームが続く。
その後もNBA選手不在で敗れた1998年の世界選手権代表チームや、大量の辞退者を産んだ2000年シドニーでの「ドリームチームIV」。そしてケビン・ガーネット、シャキール・オニール、コービー・ブライアント、ジェイソン・キッドらが参加拒否や健康問題を理由に辞退が相次いた2004年のアテネ五輪では、海外勢の勢いに飲み込まれ史上最悪の3敗を記録、3位に終わることになる。
この惨敗を契機に、世界選手権とオリンピック代表に関しては、それなりに主力級の選手が招聘されるようになり現在に至っているが、NBAが総力を結集した「ベスト・オブ・ベスト」は後にも先にもあの「ドリームチームI」だけ。12人のメンバーの中から、のちに11人の殿堂入り、リーグMVP7人が生まれていることからも「ドリームチームI」の栄光は、そのままNBAの歴史そのものだ。
あれほどまでの高揚感や、チームとしての「最強」の称号を継承するチーム編成は、未来永劫不可能と断言する専門家も多い。
リオ・オリンピックの準決勝は8月20日に2試合が開催し、オーストラリアがセルビアと、大会3連覇がかかるアメリカはスペインと対戦する。今回のアメリカ代表も質の高いメンバーが揃い間違いなく優勝候補の筆頭だが、4年後の五輪ではその時代のNBAベスト・メンバーが勢揃いすることに期待したい。