『るろうに剣心』シリーズなど日本映画界を代表する大友啓史監督の最新作、映画『ミュージアム』が大ヒット公開中だ。謎のカエル男に大切なものを奪われていく小栗旬演じる刑事の主人公の戦争を描いた本作について、「絶望に陥った時、人はどう立ち上がっていくか。その過程にも注目してほしいですね」と語る大友監督。監督作に込めた思いを聞いた。

 ――今回の映画『ミュージアム』は、主人公の沢村刑事とカエル男の激突が、目で見てわかるバイオレンスだけでなく、精神的な内面の殺し合いみたいな描写も衝撃的でした。

 たとえば韓国映画にみる血生臭い感覚や、個々の実在感やありようとか、肉体の存在感とか、そういうえげつない世界を目指してはいますよね。人間の心にある不信感、信じたいという気持ちをもてあそぶみたいな、精神的にSMチックな世界ではあると思います。

 ――おっしゃるように映画を拝見していて、ただショッキングなだけでなく、そこに人間が存在している“温度”を上映中は感じ取っていました。

 そのへんをチクチクやる感覚って、どの映画がどうということではないけれど、およそ韓国映画って上手いですよね(笑)。今回は「悪意」が物語の中心に据わっている物語なので、人間的ないやらしさみたいなものを、ちゃんと映像に採り込んでいきたいなという想いは強かったと思います。

 ――そのコンセプトなどは、沢村刑事役の小栗旬さんやカエル男を演じる妻夫木聡さんをはじめ、キャストの面々とは、どのように共有したのですか?

 いわゆる役作りへのリクエストというよりは、肉体的な存在感みたいなものを浮き彫りにしていくことを意識しました。小栗くんと妻夫木くんには、問答無用に身体を鍛えておいてねって(笑)。そこには国民性の違いがあることかもしれないけれど、仮に日本人が目指したら、どういうものになるのかなって。

 ――みなさんの熱演が奏功して、過去に例をみないような、壮絶な日本映画が誕生したと思います!

 薄っぺらい存在感ではなくて、体全体に実は血管も多いんじゃないか?みたいな、そういう肌触りは目指していました(笑)。目を背けたくなる死体の描写なども容赦なくちゃんとやる。そういうスタンスがよかったんじゃないかと思います。

 ――ところで、今回の『ミュージアム』もですが、監督作品に登場する男性たちは、一様にカッコいい男が多い気がします。

 言葉にして言い表しにくいような骨っぽい、骨太い男たちっていうのかな。でもそれってルックスとかそういうことだけじゃなくて、内面やその人の考え方のことだと思うんですよね。そういうものが絶対に顔や表情にも反映されいくものだと思います。

 ――それは役柄としての情報的な設定だけでなく、演じる俳優個人のアイデンティティーにも関わってきそうな話ですね。

 歳をとればとるほど魅力は増すもので、俳優さんもサラリーマン的に演じるよりは、ひとつの役柄を演じる際に何か葛藤があったりとか、演じた結果に対して、その役が今の世の中にどのように結びついているかとか気に留めている人のほうがいいと思います。

 ――まさに、そういう要素が今回の『ミュージアム』では求められていて、それが表現の上で炸裂していたと思います。

 一つ一つの小さいことの積み重ねや肉付けが、映画の骨を太くしていくことだと僕は思います。ある状況に入ると初めて見えてくることもあって、それがまさに今回の役柄には出ていたと思います。絶望に陥った時、人はどう立ち上がっていくか。その過程にも注目してほしいですね。

映画『ミュージアム』は、大ヒット上映中!

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会