■「プーチン大統領には通用しない」
きのう開かれた日ロ首脳会談は、プーチン大統領が2時間40分も遅れて到着するという波乱の幕開けとなった。安倍総理の地元・山口県長門市の老舗温泉旅館を会場に開かれた会談で焦点となっていたのは、5月に日本側が提案した、北方四島への日本企業進出を含む「共同経済活動」や、元島民らが自由に訪問できる「自由往来」の実現を合意できるか、といった事項。さらに、その合意が領土問題の解決と平和条約の締結につながるものだと確認できるかにも注目が集まっていた。
安倍総理が海外の要人を地元に招いて会談を行うのは今回が初めて。現地で取材に当っていたテレビ朝日政治部総理官邸担当の吉野真太郎記者は「少人数の場で勝負をかけるというのが、安倍総理の得意技。その効果を最大限に発揮するため、地元山口県に招いたのだろう。その中で領土問題をなんとか解決に導こうという狙い」と話す。
会談終了後、総理は記者団への説明で「特別な制度のもとでの共同経済活動などについて、率直かつ突っ込んだ議論を行うことができた」と述べ、プーチン大統領と2人だけで行った会談では、元島民から預った手紙を渡したことを明かし「ロシア語で書かれていた手紙については、プーチン大統領はその場で読んでおられた。平均年齢も81歳になり、時間がないという島民の皆様のお気持ちをしっかりと胸に刻んで会談を行いました」と振り返った。
プーチン大統領への取材経験があるジャーナリストの小林和男氏は、この手紙について「プーチン大統領には通用しない」と断言する。「プーチン大統領はものすごく冷徹な男で、国のために何ができるか、国の安全保障のために何をしなければならないのか、ということが彼の一番の関心事」で、情に訴えて何か変わるということのない人物だと指摘した。
また、国境問題の第一人者で北方領土を6度訪問した経験のある東海大学の山田吉彦教授は「安倍総理は非常に慎重に話しているなという印象。憶測を膨らませないよう、慎重に発言していたのだろう。今日の段階では出せることは限られているのだろう」と分析した。また、「95分の会談では、具体的な話をしたのではないか。”平和条約に関連”と言っている以上、シリアやウクライナの問題も含めて、さらに複雑な議題が出たのではないか」と推測した。
吉野記者によると、安倍総理は「都民ファースト」ならぬ、「島民ファースト」で会談に臨む、と周囲に話していたという。
■2島返還による経済効果は
そもそも北方四島とはどのような島なのだろうか。現在、ロシアの国境警備隊が常駐する歯舞群島を除く、国後島・択捉島・色丹島にはおよそ1万7000人のロシア人が生活しているが、第二次世界大戦以前、海苔の採取やタラなどの漁場に恵まれ、水産加工業が盛んな場所だったという。
四島のうちの一つ、色丹島は昭和初期まで「日本十八景」のひとつにも数えられていた。幼稚園や学校、教会、水産加工業などもあり、いまでも美しい景色がひろがっている。
歯舞群島は根室半島東端の納沙布岬からわずか3.7㎞しか離れていない。しかし、現在は住民がいないため、ビザなし交流は実施されておらず、元島民等が島へ渡る手段は墓参りか自由訪問のみで可能となっている。
人口が最も多い国後島にはおよそ7800人のロシア人が生活をしている。新党大地の鈴木宗男代表とのゆかりから、通称「ムネオハウス」と呼ばれ話題を呼んだ「日本人とロシア人の友好の家」もこの島にある。火山の島でもあり、街には10数か所の温泉がある。
日本で最も北側に位置する択捉島は、第二次世界大戦以前からマスやクジラなど漁業が盛んだった。ソビエトに占領された後は、ロシア人実業家が水産加工工場を設立。経済が発展し、今では、北方四島の経済の生命線となっている。
四島のうち、まず歯舞群島、色丹島の2島を”返還”するという議論もある。これが実現すれば、何が変わるのだろうか。山田教授は「この2つの島が引き渡されることによって、排他的経済水域が東側に広がり、かなり広範囲の漁場が獲得できる。また、根室からも近いので、開発していくにも経済効果は十分に期待できる」とする。
プーチン大統領に元島民の手紙を渡すなど、元島民の気持ちをしっかりと胸に刻んで会談に行ったという安倍総理。会談を通して、戦後70年あまりも進展がみられない北方領土問題解決への道筋は見えるのだろうか。
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