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大手広告会社・電通の新入社員だった高橋まつりさんが過労自殺してから1年。命日の25日、母親の幸美さんが「まつりの命日を迎えました」という一文から始まる手記を公開した。

「去年の12月25日クリスマス・イルミネーションできらきらしている東京の街を走って、警察署へ向かいました。嘘であってほしいと思いながら…」
「前日までは大好きな娘が暮らしている、大好きな東京でした」
「あの日から私の時は止まり、未来も希望も失われてしまいました」

「まつりは、生きて社会に貢献できることを目指していたのです。そう思うと悲しくて悔しくてなりません」

「人は、自分や家族の幸せのために、働いているのだと思います。仕事のために不幸になったり、命を落とすことはあってはなりません」

(幸美さんの手記から抜粋)

まつりさんは去年の12月25日、会社の寮で自殺。その後、月100時間超の残業をしていたとして三田労働基準監督署が過労死と認定。10月には東京労働局が労働実態を調べるため、電通本社などに立ち入り調査を行った。また、厚生労働省は幹部らから勤務管理の実態について事情聴取するなどして、書類送検を視野に捜査を進めている。

これを受け、電通は夜10時以降の深夜勤務を原則禁止とし、社内を強制的に消灯するなどの対策を講じている。

電通の対応に関して、手記の中で幸美さんは

「まつりは、毎晩遅くまで皆が働いている職場の異常さを指して、『会社の深夜の仕事が、東京の夜景をつくっている』と話しました」
「まつりの死は長時間労働が原因であると認定された後になって、会社は、夜10時以降消灯をしているとのことですが、決して見せかけではなく、本当の改革、労働環境の改革を実行してもらいたいと思います」

と訴えかけている。

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千葉商科大学の専任講師で、雇用・労働問題の専門家である常見陽平氏は、高橋さんの問題について「仕事の任せ方にも問題があると思う。高橋さんは研修もある中、新しくできた部署で仕事が定型化されていないまま、多くの業務を任されている状況だったのではないか」と推測。「仕事が早くできる人間が偉い、というわけではない。人それぞれにキャパシティがあって、それ合った仕事量を割り振るべき」と、人それぞれの経験や能力に合せた業務配分の必要性を訴える。

電通と同じ大手広告代理店の博報堂で働いている原田曜平氏も常見氏の意見に同意、「特に広告会社は労働時間が長いが、コンプライアンスが厳しくなり、徐々に減ってはきている。さらに今よりも削減することは間違いなく出来ると思う」とする。

ジャーナリストの堀潤氏は「会社における悩みがあったときに、駆け込むことができる場所がない。労働組合も、場合によっては傷を広げられることもあるし、会社に相談窓口を作っても、対応によっては機能しないケースも多いのではないか」と指摘する。

常見氏も「労働組合はもちろんないよりはあったほうがいいが、組織率も低下しており、機能しにくい現状があると思う。コンプライアンスの仕組みに関しても、"社員に教育したぞ"、"相談窓口を作ったぞ"という"箱物"で終わってしまっている場合がある」とコメントした。

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厚生労働省が発表している、正規雇用従業員1人当たりの平均的な時間外労働の調査では、月間10時間以下が43.9%、10時間超20時間以下が25.7%、20時間超30時間以下が16%、30時間超45時間以下が7.8%、45時間超が1.6%で、無回答が5%という結果になっている。時間外労働の上限である「月間45時間」を超えているという人は意外と少ないのだ。

常見氏は「集計にもさまざまな形があって、実態を示していないと感じる。サービス残業はおそらく存在していて、正しい労働時間は把握しづらい現状になっている」と指摘、「これまでにも過労死は頻繁に起きている。電通という大手企業が起こしたから、つついてやろうと話題になっているが、身近な事だということに留意するべき」と訴えた。

高橋さんの問題を機に、改めて長時間労働、過労死に対して向き合う空気が社会に広がりつつあるが、やはり新しい働き方を模索しなければ、問題解決にはならない。幸美さんが訴えた「命より大事な仕事はない」という言葉を、社会全体が受け止めなければならない。

(C)AbemaTV

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