20日から始まる国会で政府与党が成立を目指す、いわゆる"共謀罪"法案。共謀罪とは、テロや詐欺などの組織犯罪について"計画した段階"で罪に問うことのできるというものだ。
共謀罪が初めて国会で審議されたのは今から14年前、小泉政権の時代だ。その後3度にわたり法案をが提出されたものの、いずれも廃案に追い込まれた。当時、「サラリーマンが居酒屋で雑談しただけで犯罪につながると判断され、逮捕されるのではないか」と、国民からも強い懸念を抱かれたためだ。そこで今回、政府与党は「共謀罪」を「テロ等準備罪」に差し替えて、法案を提出することにしたのだ。
菅義偉官房長官は16日の会見で「現在政府が検討しているのはこのテロ等の準備行為があって初めて罰する、いわばテロ等の準備のための法案であって、従来の共謀罪とは全く違う」と語った。
政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、2000年に国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約」を締結したい考えだ。この条約は重大犯罪の共謀を犯罪とすることを義務付けており、菅官房長官は「すでに187の国と地域が締結している。G7をみても締結していないのは日本だけ。国際社会と協調してテロを含む組織犯罪と戦うためにはこの条約を締結する必要が不可欠と考えている」としている。
これまでの法案では「共謀罪」の対象を「団体」としていたが、今回の「テロ等準備罪」では「組織的犯罪集団」と限定。犯罪計画を話し合うだけではなく、そのための資金をATMで引き出すなどの“準備行為”があって初めて罪に問うとしている。問題は、対象となる犯罪が「676」にも及び、テロ行為だけではなく強盗・傷害・公職選挙法に至るまで幅広いことだ。
与野党からの批判を受け、対象となる犯罪を「100」程度減らす方向で調整を進めているが、民進党の山井和則国対委員長が「やはり冤罪も含めて一般の人がそういう疑いをかけられるリスクが高まるのではないかとか、国民から非常に大きな不安が出ている」と話すなど、野党は反発姿勢を強めている。
賛否両論寄せられる"テロ等準備罪法"について、その必要性を強調するのは、テロ対策や危機管理などに詳しい公共政策調査会研究センター長の板橋功氏。国連に加盟している国のほとんどが国際組織犯罪防止条約を批准していることを挙げ、日本が共謀罪に関して後進国だと指摘。また、ISが日本を名指ししていることなどからも、「テロなどの組織犯罪を防止するために日本も国際協調を取っていかないといけない」と話す。
一方で、日弁連共謀罪法案対策本部の海渡雄一弁護士は「条約を批准すべきという点に関しては同じ」としながらも「すでに日本では組織犯罪処罰法や暴対法があり、テロ対策の条約も批准している。爆発物や化学兵器についても予備段階で取り締まることができる法律も出来ている。これだけ広範な、600以上もの共謀罪を作る必要はないだろうと考えている」と指摘。
「実際の犯罪の実態に即した議論をすべきで、人身売買予備罪や組織的詐欺予備罪などではなく、懲役4年以上の刑を定める全ての犯罪について共謀の段階から処罰するというのはいくらなんでも行き過ぎではないか。国民が不安に思うような行為で未遂以前の段階が処罰できていないものがあるのかどうかという議論をすべきだと思う」とした。
すでに共謀罪に関する法制度が導入されている国ではどのようなことが起こっているのだろうか。
ドイツでは共謀の危険のある者には盗聴による捜査が合法となっており、無関係な人の会話も盗聴される可能性から、プライバシー保護が問題となっている。また、アメリカではテロ被害者向けローンを詐取しようとした弁護士が罪の軽減を目的に嘘の証言をした事件で、テロ被害者まで共謀罪で逮捕、実刑判決受けたケースもある。こうしたことから、日本でも無実の一般人の生活が影響を受ける可能性もあるのが共謀罪との批判が高まっているのだ。
これについては板橋氏も「テロ対策や組織犯罪対策の法律は大体が人権やプライバシーだとかを制限するもの。自由や安全というもののバランスを考えながらやっていかないといけない。国民の理解を得られるように議論していく。そこに歯止めが必要ならそこに対しても議論して歯止めをかけていく。居酒屋談義もできないような可能性があるならば排除しなければいけない」と話す。
海渡氏は「メールのやり取りだけで成立、犯罪として"終わり"になっていて、逃れるためには密告するしかない。犯罪は無くならない。日本人の国民性には合わない」とした。
今国会でどのような議論がなされていくのか、国民一人一人が見守る必要がある。(AbemaTV/AbemaPrimeより)
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