RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。
この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?
■デフォルトで痩せてる人に「死ね」って思う
ーーDさんにはコンプレックスはあるんですか?
Mummy-D めっちゃあるよ。
ーーDさんはあまりこじらせてる感じを出さないですよね。
Mummy-D 本当に自分の嫌いなところだから、見せたくもないし、言いたくもない(笑)。
ーーちなみに僕は短足がコンプレックスです。
Mummy-D あははははは!(笑) そういうんだったらバッチリありますよ。俺デブ出身なのね。産まれた時から赤ちゃんとしてもデブだったし、半ズボンで越冬する小学生だったし。でも小学校6年で背が伸びてちょっと痩せたことで、人生が少しずつ変わり始めたんだよね。
ーー以前もちらっと話していましたね。
Mummy-D うん。で、俺の中には「元デブ」っていう出自の後ろ暗さっていうのがずっとある。未だに太りやすい体質だし、しかも人間は40を超えると徐々に幼児の頃の体形に戻っていくから。
ーーそうなると、各種撮影で否が応でも全身を見なきゃいけないはツラいですね。僕も全身が映る鏡が大嫌いです。
Mummy-D そうなんだよ~。もう写真チェックとか本当に嫌だから全然しないし、PVのチェックなんて苦痛以外の何物でもない。静止画はまだしも動画はヤバい。どうにもならないというか。でも出来上がったPVは観たいんだよ。だけど俺のツラは見たくない。でもチェックはしなきゃいけない。
ーーすごいジレンマですね。
Mummy-D 家で酒飲みながら仕事してて、いい感じに酔っ払ったタイミングでやることにしてる。
ーーそうなると、ライブとかもキツいですね。
Mummy-D ライブはもう諦めるしかない。でもソフト化する時に副音声を録らなきゃいけないからさ……。30代前半までは自分たちで写真撮って、それをブログに載せてキャッキャしてたけど、いつからかカメラを自分やメンバーに向けなくなった。メンバーもそんな撮られたがってないし(笑)。
編集O Dさん、めっちゃカッコいいじゃないですか! いつもシュッと……。
Mummy-D (遮って)してないんだって。太ったり痩せたりの繰り返しだよ。PVの撮影がある時やツアーの前は毎回ジムに行って「まあOKかな……」くらいのレベルに自分を持っていくのがすごく大変。
ーーそれって本当に大変ですよね。
Mummy-D でも20代の頃からそうやってアー写作ってきちゃってるからね。代謝が落ちてきたら、ジムでの運動量を多くしていくしかないわけよ。
ーー僕も加齢とともにどんどん太ってきてるんで、痩せてる人を見るといつも羨ましいと思っちゃいます。
Mummy-D デフォルトで痩せてる人とか「死ね」って思うね(笑)。
■マナーの定義って曖昧
ーーちょっと前に東急電鉄(http://ii.tokyu.co.jp/tokyusendiary/index.html)のマナー広告がネットで炎上したんですよ。「鉄道会社に言われたくない」みたいな。
Mummy-D 確かに俺も鉄道会社にマナーについてとやかく言われたくないかもな。だってお金払って電車に乗ってるんだし。でも苦情は鉄道会社にいくから、企業として快適な運行を心がけるためにいろいろな努力をするのは当たり前だよね。
ーーやっぱ暗黙の了解をあえて指摘するのって無粋なんですかね? 僕からすると「てめえらがその暗黙の了解すら守れねえから、こっちはあえて言ってやってんだろうが!」とか思っちゃうんですけど。
Mummy-D ちなみに広告ではどんなことを言ってるの?
編集Y 歩きスマホとか、電車の中の化粧とか。
Mummy-D ああ。でもさ、化粧って電車の中でしちゃいけないの?
ーー確かに化粧は意見が分かれるところですよね。程度の問題じゃないですかね? ファンデーションくらいなら気にならないけど、まつ毛とかアイプチ(一重まぶたを二重にする道具)とかだと見ていて美しいとは思わない。
Mummy-D つまりエチケット的なことでしょ? そう考えるとマナーの定義ってすごく曖昧だよね。
編集O 確かに。
Mummy-D よく電車の中で「携帯電話の使用はお控えください」ってあるじゃない? 携帯電話で話していると自分の声の大きさがわからなくてついつい大声になっちゃってうるさい。だから電車の中で携帯電話を使用するのはやめようって話だと思うんだよ。ペースメーカーの電波障害云々は別として。
でも俺は「小さい声だったら別に電車の中でも電話して良くない?」って思うの。しかも電車の中には携帯電話で話してなくても声のデカいやつがいるじゃん。じゃあ、小声で携帯電話を使ってる人と、携帯電話は使ってないけど馬鹿デカい声で話してるやつだったら、どっちが迷惑ですかって話なんだよ。そしたらどう考えても馬鹿デカい声の奴のほうが迷惑じゃん。だからポイントは携帯電話じゃなくて……。
編集Y 「電車の中でうるさくしないでください」ってことなんですね。
Mummy-D そうなんだよ!
ーーこの問題は意外と奥深いですね(笑)。
Mummy-D あとね、俺はもう1つ言いたいことがあって。あの広告に登場する女の子いるじゃない? 切れ長の目ですごくかわいいあの子が、地方から東京に出てきた垢抜けない女子として設定されているっていう欺瞞についてだよ。東京に来たばかりで何も知らない女の子として広告では描いているけど、誰がどう見たってモデルやんけ!
ーーでも阿佐ヶ谷姉妹みたいな人が出てくるよりかは、あの子のほうが良くないですか?(笑)
編集O 阿佐ヶ谷姉妹だったらもっと炎上してたかもしれないですね(笑)。
■ヒップホップ業界で一番威張ってるのはアーティストの取り巻き連中
ーー僕はこれまで調子に乗ってる人が嫌いだと言い続けてきたんですが、よくよく考えるとパリピが嫌いなわけではない気がしてきて。
Mummy-D は?
ーーアッパーな人は全然嫌いじゃないし、自分が暗い分、明るく接してくれる人はむしろありがたい。僕が嫌いなのは「赤信号みんなで渡ればこわくない」的なメンタルでマイノリティを攻撃してくる人間が死ぬほど嫌いなんです。ハロウィンの件も盛り上がることを否定するというより、イベントに参加することに乗じて、こっちにいじわるしてくる人間に腹を立てているんだなってこと気付きまして。
Mummy-D そういうのってIT企業とかに多そうじゃない? 勝手なイメージだけど(笑)。
編集O 確かにそういう人もいますよ。何を勘違いしているのか知らないけど、やたらとマウンティングをしてくる。
ーー僕は別にみんなが自分のようになって欲しいとは思わないんですけど、そういう連中は、ハロウィンなり、サムライブルーなり、いつもマウンティングできる要素を探していて、こっちを攻撃してくるんですよ。
Mummy-D そういう人は自信がないんだと思うよ。だから立ち位置で武装する。
ーー僕が媒体を出てフリーのライターになった途端に、無視されちゃったりとか普通にありますし。やたら高圧的な態度で接されたりとか。
Mummy-D ヒップホップ業界でも一番威張ってるのは、アーティストじゃなくて、その取り巻き連中だからね(笑)。リスペクトもラブもないっていうか。属している業界やグループがイケてるからそいつもイケてる雰囲気になってるだけなのに、それを自分の実力と勘違いしちゃうんだよね。
ーー僕も以前××××××の〇〇ビルで数年働いたことがあるんですが、ああいう立派なオフィスの中に日常的にいると自分が偉くなったような錯覚を起こしちゃうんですよ。みんなじゃないけど、横柄な人は多かった。立派なのはあのビルで、偉いのは孫正義ってだけなんですけどね。
Mummy-D そういえば俺も前にアップルストアでマックを買い換えた時、店員に嫌な態度とられたな。ただ同じ色のTシャツ着てるだけなのに!「売ってやってるんだ」みたいな感じだったよ。そういうのは超ダサいよね。でもそんなのみんな知ってることじゃない?
ーー確かに。気づいてないのはダサいやつだけですよ。でも僕はあえてダサいことをダサいと言っていきたいです!
Mummy-D なんの報告だよ(笑)。