ソロ・ラッパーとして、レーベル「Dream Boy」の主宰者として、そして「フリースタイルダンジョン」の審査員としてなど、多角的な活躍を見せるKEN THE 390。彼がソロ・デビュー10周年を記念して、彼のソロ・デビュー・アルバム「プロローグ」を、リマスタリングを施し、そこに新録曲を含めた「プロローグ~10th Anniversary Edition~」としてリリースする。
「10年経って、やっと当時の声を恥ずかしくなく、落ち着いて聞けるようになりましたね。全体を通して聴くことなんて本当に久々だったから、自分で聞き返してびっくりしたし、後半は新曲を聴くぐらいの気持ちでした(笑)。ライミングも『お、ここでこう踏むのか』とか思うんだけど、『あ、これ俺だった』みたいな(笑)。声もいらがっぽいんだけど、そういう風にラップしてたんじゃなくて、単純に声のコンディションが悪いんですよね。でも、それにも気づかないで、とにかくがむしゃらにラップしてた時代の作品ですね」とKEN THE 390はアルバムを振り返る。
「去年末ぐらいから、『プロローグ』に収録されていた“Back In The Days Part2”や、“プロローグ”をライヴ・セットに入れてたんですね。しかも思いの外、今の曲のようなテンションで歌えていて。というのは、『プロローグ』はソロとしては1stだけど、それまでに、はなび、EI-ONEと3人でやっていた『りんご』や、TARO SOULと太郎&KEN THE 390として『JAAAM!!!』だったり、ユニットとしてアルバムを出していたし、バトルやライヴもとにかく出まくってたんですよね。
その上でのソロ1stだったから、集大成的な思いもあったし、頑張った結果、やっとソロとしてスタート・ラインに立てたっていう決意の作品でもあって。でも、その当時の曲をいま歌っても同じような気持ちで歌えるのは、いまの自分自身、自分のレーベルも軌道に乗せられて、ソロとしてもコンスタントにリリースとライヴが出来て、バトル・シーン自体も盛り上がって……っていう状況になって、また次のステップに踏み出せたかなって気持ちがあるからだと思うんですね。だから、当時の曲なのに、気持ちが重なる部分もあるし、その後の10年間の葛藤や成長っていう重みもあって、いま歌っても、スゴくしっくり来るんですよね」
そしてこのアルバムの制作当時、彼はリクルートでサラリーマンをやっていた。しかも新卒の一年目という、まったく新しい環境の中にあって、だ。
「いまから考えるとクレイジーだし(笑)、よくリリック書く時間があったと思いますね。わりとナイーブな曲が多かったり、ちょっとセンチメンタルな空気感があるのは、そういう情況が反映してたのかなって。特に後半は、当時自分が置かれてた状況と気持ちがリンクしてますね。そしてこの当時、自分は歌詞を書いて、ラップして、録って、リリースして、ライヴするっていうのが、単純に好きなんだって、改めて気づいたんだと思いますね。社会人一年目だったら、普通に考えたら会社に注力して、そこにしっかり馴染もうとしたりするはずだと思うんですけど、自分はフルスロットルでラップしてたって事は、ラップする事で自分自身を保ってたんだと思いますね。
骨まで会社人間になっちゃうと、精神バランスを崩すかもっていう怖さがあったのかも知れない。だから、スゲえ忙しいし、バリバリ仕事してるんだけど、でも帰ってきたらラップ書いて、休日はライヴやレコーディングして。それによって、逆に仕事も頑張れるっていう、バランスを取ってたんだと思いますね。だから、いまでも『ラップするな』って言われたら本当にキツイと思う……っていうとラップ馬鹿みたいだけど、でもそういう気持ちはありますね」
改めて作品に話を戻すと、ALI-KICK(ROMANCREW)がエグゼクティヴ・プロデュースを手がけ、SMRYTRPSのタカツキやカトウケイタ、KAZZ-K(Steruss)、そして当時のレーベル「Da.Me.Records」のオーナーだったダースレイダーなどがプロデュースに、客演にCOMA-CHIやエムラスタ、YOGなどが参加し、当時の彼を取り巻く環境が垣間見えるのも興味深い。
そして、今回の記念盤には、竹内朋康 (マボロシ / ex SUPER BUTTER DOG)、タケウチカズタケ (A hundred birds / SUICA)、TOMOHIKO a.k.a HAVEYLOOPER (HOMARE / ex SUPER BUTTER DOG )、Dr 岡野 "Tiger" 諭 (Mountain Mocha Killimanjaro)、DJ HIRORONという敏腕メンバーをバックにしたバンドとのセッションも収録される。
「曲を全部を録り直したり、ラップだけ録り直そうかなって話も出たんだけど、それはちょっと違うかなって。でも、今の自分の形は入れたいし、それを過去とリンクさせながらどう反映させるかって考えたら、過去の曲はそのままに、同時に全部ではないけど、過去の曲を新たに録り直した新録の両方を入れるのが正解なのかなって。
以前からバンド・セットでもライヴをやっていて、そこに手応えがあったし、自分の進行系の形を提示できるのは、バンドでのアプローチなのかなって。しかも『せーの!』でセッションしながら録ったんで、そこにライヴ感が出たと思いますね。でも予想以上にアダルトな雰囲気で、10年でこんなにしっとりするの?!って(笑)。
いま自分のライヴに来てくれる人で、リアルタイムで『プロローグ』を聴いてくれていた人は、やっぱりもう少ないんですよ。もうそれぐらいリスナーは入れ替わってるんだなって。だから、逆に『プロローグ』はもう新譜だし、新曲でもあると思うので、ずっと聴いてるくれてる人にも、新しく触れてくれる人にも、新鮮に聴いてもらえると嬉しいですね」