田中路教は、現代のMMA(総合格闘技)戦線の潮流を象徴するようなファイターだと言っていい。現代のMMAは、UFCを頂点とするヒエラルキーがしっかりと確立された世界だ。試合はケージ(金網)で行なわれるのが基本。選手たちの多くはUFCでの成功、すなわち“最強”の座とビッグマネーを求めて練習に励む。
UFCを目指すなら、ケージでの試合経験を重ねることが重要になってくる。ルールや階級もUFCと同じほうがいい。そのため、世界各地でケージイベントが開催されるようになった。日本でもパンクラス、修斗、DEEPといった老舗団体が“ケージ化”している。PRIDEやHERO'Sがブームとなり、日本でだけ闘っていればいい時代はいったん終わったのだ。逆に言えば、それは世界的なMMAブームのスタートでもあった。
その流れに、田中は敏感だった。2010年、アマチュア修斗の全日本大会で優勝すると、プロでも5連勝。新人王にも輝いている。
普通なら、ここで修斗のタイトルを目指すところだが、田中は違った。すでに“対世界”を見据え、海外で闘う道を選んだのだ。当時の修斗はリングで行なわれており独自路線、世界とのつながりはそこまで意識されていなかった。
修斗のタイトルも権威があるのだが、レベルが高いだけに“修斗でタイトル獲得→世界進出”という手順を踏むと時間がかかってしまうというデメリットもあったのである。それよりも田中は、最短距離で世界を、UFCを目指したのだ。
田中はプロ6戦目でアメリカの団体PXCに参戦。ここでも連勝し、バンタム級タイトルを獲得する。そして2014年、ついにUFC参戦を果たすことになった。
現在までのUFC戦績は2勝2敗。プロキャリアで喫した敗北のすべてがUFCでのものだ。それだけUFCの壁が厚いということだが、UFCでの“勝ったり負けたり”は決して簡単なことではない。
そんな田中の次戦は、現地時間2月4日にアメリカで開催される『UFCファイトナイト』。対戦相手はブラジルから初参戦となるリカルド・ラモスだ。
ラモスはキャリア9勝のうち6勝が絞め・関節技による一本勝ちのグラップラー。田中も組み技を得意とするだけに、地力が問われる一戦になるだろう。
ここで勝てば白星先行。次なるチャンスも見えてくる。日本が生んだ“現代MMAの申し子”のキャリアにとって、重要な意味を持つ一戦だ。