アイルランド・ダブリンで開催された「ベラトール169」で石井慧が、RIZIN王者キング・モーに3-0の判定で敗れた。3人のジャッジが全て30-27と大きな差を付けられての敗戦だ。
107キロの石井に対し97キロと本来はライトヘビー級のキング・モー、体重は石井が10キロ以上差がある組み合わせだったが、両者の技術の差は歴然だったと言わざろう得ないだろう。
1ラウンドから、ボクシング技術に勝るモーに距離を縮められ、右ストレートに左アッパーと効果的なパンチをまとめられる。石井は再三組み合おうとするが、上手くかわされ、モーの低いタックルからくりだす巧みなテイクダウン技術の術中に開始早々はまってしまう。
スタンドでの攻防もモーのリーチを活かしたノーモーションのパンチに、策のない石井の消極性が目立ちラウンドは終了。
2ラウンド以降も、モーの作戦が冴える。石井もパンチや膝など打撃で打開を図るが全てかわされる。モーはアウトボクシングを展開しながら、ピンポイントで強烈なパンチをボディなどに叩き込む徹底的な戦略に翻弄される。石井に僅かな隙が生まれると、低いタックルからテイクダウン、時間を把握しながらねちっこくパウンドを繰り返し、ゴング終了前に終わりをレフリーに確認する余裕ぶりだ。
3ラウンドで後がなくなった石井は、積極的に打撃やスーパーマンパンチなども放つが、じっくり試合を見るモーが、低いタックルからバスターでこの試合5度目のテイクダウン。その後石井は打撃で逆転を試みるが、巧みに試合をコントロールしたモーの完全勝利。
元ストライクフォースのライトヘビー級王者で、昨年のRIZINヘビー級トーナメント覇者という肩書きもある技巧派のベテラン、キング・モーだが、35歳とキャリア的にも晩年に差し掛かりつつ選手に完敗したことは石井。「ベラトール」での2連敗は、このレベルて戦うには余りにも力不足を露呈する厳しいものだった。
「酷評」をこれ以上に重ねるべくもないことは、観客がつぎつぎと会場を後にする姿からも明白だが、敢えて期待をこめるなら、部分的に見せた強烈なミドルキック、ハイキックなど打撃への意識など、まだ少なからず伸びしろを感じさせる場面もあった。
ここ数戦連敗続きということで、どうしても否定的な意見をしがちだが、前回のクイントン・ランペイジ・ジャクソン戦に関しては、試合前半は自身の距離でローやパンチといった打撃に加え、体重を活かしたテイクダウンなど試合前半をコントロールした。後半失速し手数で競り負けた惜しい敗戦だったことを考えると、今回試合後半でも強い打撃を放つ場面がみられるなど打開のいちぐちを見出そうとする姿勢そのものは、厳しい内容の中で数少ない希望といえるかもしれない。
今回の試合で昨年末の「RIZIN」を加えるとMMA3連敗と、悪いループに入ってしまった感のある石井慧だが、29歳というMMAファイターとしてもう一花咲かせることのできる年齢である。北京オリンピック柔道金メダリストが総合格闘技に転身し、「未完の大器」という表現のまま早8年が経過したが、日本人で数少ないヘビー級ファイターであり、屈強なフィジカルは今なお魅力的だ。負けがこみ「ベラトール」での挑戦も茨の道が予想されるが、この階級タイトルが空位で未整備ということを考えると、まだ何度かはチャンスが訪れることが予想される。キング・モー戦の完敗を教訓にヘビー級戦線での生き残りを見守りたところだ。