12月30日に開催された「UFC207」のメインカードで約1年ぶりに復帰した挑戦者ロンダ・ラウジーは、現女子バンタム級王者、アマンダ・ヌネスに、試合開始48秒で顔面にパンチを貰い続けTKO負けという衝撃的な敗戦を喫した。1年1ヶ月前、ホーリー・ホルムのキックに沈むまで女子総合格闘技を牽引して来た最大のスターにして絶対女王だったロンダに立ちはだかったのは、本人の予想を超えた女子MMAの急速な進化の壁だった。
年末のラス・ヴェガス、T-モバイル・アリーナのファンにとっても予想だにしない残酷な結果が突きつけられた。
ヌネス、身長172センチ、61キロに対して、ロンダ、身長170センチ、61キロ。公称以上にも大きく見え、腕もひと回り大きく見える新女王は、初防衛戦にも緊張は見られない。コールにも両手を上げ答え1つ1つの動きも軽やかでリラックスした雰囲気だ。ロンダもいつものような鋭い目つきでリングに臨んだが、ゴング開始直後の対戦相手のグローブタッチを拒否するなど余裕は感じられない。
開始直後の攻防10秒で試合は決していた。ヌネスの左ローに、ロンダが合わせ左ジャブ。対するヌネスは前蹴りから軽快にワンツー、さらに強力な右が入る。これが効き後ろに下がるロンダに、ヌネスがハンマーのように振り回す右フック、至近距離からもう一発ヌネスの右がほおをかすめ、ロンダが組み合おうとするが、ここも圧倒的なパワーで振り払われる。
ダメージのあるロンダに、さらに追い打ちをかけるようにヌネスの左右のワンツーが容赦なく襲いかかる。組み合おうと必死で相手を掴もうとしがみつくロンダだが振り払われ、ボディと顔面に連打を浴び、サンドバック状態で逃げるロンダ、追うヌネス。
ロンダもパンチで応戦しようとするがパンチを軽く片手でガードされ、倍の数のヌネスの速いワンツーが、腕の間を抜け的確に顔面を襲う。計27発のパンチを浴びケージによろめきながら寄りかかるロンダを見たハーブ・ディーンがレフィリーストップを宣告し、勝者ヌネスは、どよめく観客に指を一本立て口元で「シーツ(黙れ)」のポーズで答えた。
年末の「UFC207」に至るまで、ロンダの復帰および復活というシナリオで進行していたムードがあった年末最後のUFCのナンバーカードだが、待ち受けていたのは残酷につきつけられた「ロンダ時代の終焉」だった。
約1年前圧倒的な強さを誇った彼女が、なに一つできずに現王者のヌネスにこっぱ微塵に粉砕されたことは確かにショッキングな出来事ではあるが、ロンダ不在の女子MMA1年間が、我々が思っている以上の速さで進化していた何よりの証拠と言えるだろう。
この1年の間に、ロンダ・ラウジーを倒したホーリー・ホルムが、ミーシャ・テイトの寝技に屈し、そのテイトが、アマンダ・ヌネスに敗れ女子バンタム級の女王は目まぐるしく移動していったが、その間の女子MMAの世界はロンダがブランクを克服できないレベルに達していた。試合前に彼女が「私がいなくてももう大丈夫」とインタビューで冗談半分に応えていたことが現実となったのだ。
ここ数年の女子格闘界のスター、ミーシャ・テイトは、この秋弟子のラケル・ペニントンに破れ「私の時代は終わりました」とリング上で自らその引き際を明確にしリングを去った。
その最大最強のライバルの元女王ロンダ・ラウジーもキャリアの幕が間も無く降りようとしている。
黎明期からメインカードまで目覚ましい発展を遂げて来た女子MMAを牽引してきたロンダの貢献は計り知れないものがある。
今回のヌネス戦で彼女は300万ドル(3億5000万円)という破格のファイトマネーが払われたと報じられ一部では批判が聞こえてくるがデイナ・ホワイト代表は「ロンダを倒すまでアマンダ・ヌネスが誰だか皆んな知らなかったはずさ。この試合には1億ドルの広告にも匹敵する、だってロンダ・ラウジーを倒したアマンダなのだから」と答えたそうだ。余りにも貢献者にとって残酷すぎる仕打ちにも感じられるが、これがロンダ・ラウジーが偉大な第一人者であったという何よりの証拠だろう。