11月3日、国立代々木競技場第二体育館で開催されたK-1 WORLD GPフェザー級(57.5kg)トーナメントを制し、初代チャンピオンになったのは武尊だった。
武尊はスーパー・バンタム級(55kg)のベルトを返上してこの大会に臨み、2階級制覇を達成。新階級に挑むことから「自分はあくまでもいち挑戦者」だと語っていたのだが、周囲はそうは見てくれない。
階級が下とはいえチャンピオンだった武尊は、トーナメント優勝候補の筆頭。まして現在のK-1で最大のスターだから、出場選手たちは誰もが武尊を意識する。つまりは「首を獲ってやろう」という気持ちで向かってくる。ファイトスタイルやテクニックに関しても、研究し尽くされていたのではないか。
それでも、武尊は優勝を果たした。トーナメント3試合でKO勝ちが1つに判定勝ちが2つ。しかし判定の試合でもダウンを奪っているから、これは“完全優勝”と言っていいだろう。武尊の強さは、明らかに図抜けていた。
一回戦では、これまでダウンを喫したことがないというジェイミー・ウィーランからダウンを奪って判定勝ち。準決勝では中国のユン・チーをKOしてみせた。
どちらの試合でも、目立ったのは武尊の圧力だ。どんどん前に出て、相手をロープ際に追い詰めていく。そして、そこから怒涛のラッシュ。大会前日の記者会見で、1日3試合の過酷なトーナメントを勝ち抜くために必要なものは「気持ち」だと言っていた武尊。その言葉どおり、この日の武尊は気持ちで対戦相手を圧倒していた。
もちろん、ただ闇雲に前進していたわけではない。パンチによる豪快なKOの印象が強い武尊だが、実は蹴り技も得意とするタイプだ。特にヒザ蹴りを使わせたらK-1でも最高級。この日は前蹴りで相手を下がらせる動きも目立った。さらに、爪先を相手のボディに突き刺す三日月蹴りも多様。
こうした多彩な蹴りがあるから、それを意識して顔面のガードが空いた相手にパンチがヒットしやすくなるのだ。さらに付け加えると、武尊はパンチの打ち分けもうまい。左右のフックをボディに当てて、ガードが下がったところへ今度は顔面への連打。必ずコンビネーションで攻撃するから、相手はディフェンスしにくい。
決勝戦で闘ったのは、6月にも対戦している小澤海斗。リベンジを期して決勝まで上がってきた。だが武尊は、そんな小澤を圧倒してみせた。ダウンを2度、奪っての圧勝。“追われる側”の武尊が、前回以上の差をつけて引き離したのだ。
この試合でも、武尊が圧力をかけ、前進する場面が目立った。小澤もカウンターを狙っていたのだろうが、なかなか手が出ない。それだけ武尊に隙がなかったのだ。
ワンサイドの展開に、「これじゃ面白くないだろ」とばかりノーガードで挑発する場面もあった武尊。そんな余裕も、油断にはつながらなかった。なにしろ、その直後に2度のダウンを奪っているのだ。
その後も武尊のペースで試合が進み、ジャッジ3者とも30-25の大差をつける形で武尊が2階級制覇を達成した。
試合が終わると、武尊は人目をはばからず泣いた。それだけ大きなプレッシャーと闘い続けてきたのだ。逆に言えば、それだけ精神的に追い詰められていながら、なお気持ちの強さが光る試合をしたのだからおそろしい。
試合中に足をケガしたこともあり「正直、今回はキツかった」と取材陣の前で苦笑いした武尊。しかしどれだけ精神的に苦しくても、負傷があっても、誰もが納得する圧巻の優勝劇を見せてくれた。
常に武尊が言っている「有言実行」だ。武尊に言わせれば、それができるのが「スーパースターなんで」ということになる。そんな言葉を聞いても、まったく大げさには感じなかった。それくらいの輝きを、彼は放っていた。
文・橋本宗洋