東京都の小池百合子知事と"都議会のドン"といわれる内田茂都議の代理戦争とも呼ばれた千代田区長選挙。自民党の推薦を受け出馬した与謝野信氏は、与謝野馨元官房長官の甥で、外資系金融会社ドイツ証券勤務という華やかな経歴の持ち主であることも話題になった。
今月5日の投開票では、現職の石川雅巳区長に3倍以上の差をつけられ落選した与謝野氏だが、すでに出馬前に勤務していたドイツ証券に復職しているという。実は与謝野氏は出馬にあたり、会社を退職ではなく、休職していたのだ。
官僚などの公務員は退職、たとえ現職議員であっても、落選すれば"ただの人"と言われるなど、退路を断って立候補するイメージが強い選挙。与謝野氏のケースは、そうした日本の選挙のイメージを払拭するロールモデルとなるのだろうか。
実際に会社員として選挙に出馬した過去を持つ浜田浩樹さん。「会社員の代表も議会にいていいのではと思って。あえて会社員のまま選挙に出て休職という道を選んで挑戦した」という。
浜田さんは2003年、サラリーマンのまま渋谷区議選に出馬。このときは落選したものの、2007年に再挑戦し、見事当選を果たした。しかし2期目に入った2012年、会社から解雇されてしまった。
現行法では、立候補しただけでは解雇はされないものの、「制度的に立候補のために休職を設けている会社があるかというと少ない」と指摘する浜田さん。「一定の休職期間を認めるような制度があってもいいと思う」と訴える。
現行の制度では、
- 公職選挙法、地方自治法などは、会社員の身分での立候補や議員との兼業を禁止してはいない
- ただし、地方公共団体などと請負関係にある個人の兼業は禁止
- また、公務員は議員との兼業が禁止されている
となっており、仕事を休職して立候補し、落選すれば戻れるものの、当選を考えて退職・立候補しても落選の可能性もある。休職するか退職するかの判断は、政治の世界に進出しようとする人たちにとって、大きな分かれ道となる。
慶應義塾大学特任講師の若新雄純氏は、与謝野氏が働いているのが、勤続年数よりも成績が重視され、一度外に出ても戻ってきても結果を出せれば良いという考え方の外資系金融会社であることを指摘。「一定の可能性がある人、会社に置いておくだけではもったいないというような一定の評価をされた人なら(選挙に)出てもいいとなってくると、それを目指す励みになるかもしれない。チャレンジの部分は寛容であるといい」としながらも、日本企業が変わっていくのは簡単ではないのではないか、との認識を示した。
「私も、休職制度を使ってサラリーマンの代表が議会に出られるようにしたほうがいいと思う」と話す浜田さん。しかし、実際の選挙戦で「"私は休職していますから落選しても会社に戻れます"と言えば、なかなかみんな応援しようという空気にならない」とし、有権者の中には、退路を断っているかどうか、立候補者の"本気度"を試す人もいると、難しさを明かした。
政治への挑戦がしやすい社会になれるのか。法制度もさることながら、有権者一人一人の意識も重要になってきそうだ。(AbemaTV/AbemaPrimeより)