衝撃的なタイトル、Amazonの文芸書売り上げランキングでは村上春樹を超える人気、タイトルが載らない新聞広告など、発売してから波紋を広げ続けている私小説『夫のちんぽが入らない』。
出版史上類を見ないこの作品はなぜ生まれたのか? 作者のこだま氏と編集担当の高石智一氏に話を聞いた。
◆こだまさんの文章を「ずっと読んでいたい」と思った
(写真左:編集担当の高石智一氏、右:作者のこだま氏)
――まず、おふたりが初めて出会ったのはいつですか?
高石:僕とこだまさんが初めて顔を合わせたのは、「文学フリマ」でしたよね。
こだま:はい。たしか2015年11月でしたね。
高石:「週刊SPA!」の映画コラムの連載が始まったのが、その3カ月前。今でも執筆依頼のメールをしたとき、こだまさんの反応が良くなかったのを覚えています。メールの文面から「関わってくれるな」オーラが出ていた。
こだま:(笑)。メールを頂いたときは、「田舎暮らしで田舎育ち。映画もあまり観ていない私がこんな連載できるわけない」と思って。だから、遠回しに「できません」と返事をしたんです。でも、高石さんは「映画とは関係なく、エッセイのような感覚で書きませんか?」と提案してくれて。そのアドバイスのおかげで、今も書き続けられています。
--なぜこだまさんに連載をお願いしようと思ったんですか?
高石:こだまさんの前にコラムを連載していた漫画家のまんしゅうきつこさんが、『アル中ワンダーランド』を出版してから仕事が忙しくなって連載をやめることになったんです。で、「次は誰がいいですかね」とまんしゅうさんに相談したら、こだまさんの名前が挙がって。そこで初めて同人誌『なし水』に掲載されたエッセイ『夫のちんぽが入らない』のことを知りました。
ネットに上げられていた序文を読んだとき、まずタイトルから予想していた内容とは、まったく違うことに驚きました。そして、いちばんの衝撃はその文章の美しさ。読んでいて心地よいというか、もっとずっと読んでいたい、そう思わせられる文章でした。一緒に仕事をしてみたい。そう思って、こだまさんに連載をお願いしたわけです。当時から「本を出したい」という気持ちはありました。
こだま:最初高石さんから出版のお話を頂いたときは、夫や家族のことをさらけ出しているから、「この内容を本にするのは抵抗がある」と渋ったと思います。でもお仕事を一緒にさせてもらっているうちに、段々と気持ちが傾いてきて。高石さんが「最高のちんぽにしましょう」と仰ってくださった2016年2月には、自分の中で出版する意志も固まっていました。
◆誰も賛成しなかった『夫のちんぽが入らない』というタイトル
--本の制作にあたっては、どんな苦労がありましたか?
こだま:同人誌時代の『夫のちんぽが入らない』はエッセイとして書きました。一方書籍では、私小説として書くことを意識しています。だから、風景描写や心理描写をできる限り丁寧に書きました。すごく悲しいことや辛いことは書きやすかったんですが、「夫との出会い」や「恋人時代の思い出」について書くときは、恥ずかしくて書きづらかったですね。今までそんな文章を書いた経験もなかったので。
高石:僕にとっては苦労と言うより、むしろ楽しい作業でした。自分が一読者として読みたい文章をこだまさんに書いてもらっているわけですから。ただ、不安はありました。絶対にいい本を作っている自信はあったんですが、社内の人に原作を読んでもらっても反応が薄くて。
こだま:微妙な反応だったんですね……。
高石:こだまさんの文章は間違いなくおもしろいんです。でも、タイトルがこのタイトルなだけに、中身の良さを知ってもらわないとちゃんと読者の手に届かない可能性のある本だと、社内の反応を見て実感しました。
こだま:発売直前まで「タイトルを差し替える話」もありましたよね。
高石:ええ。『夫のちんぽが入らない』というタイトルについては「真剣に売るつもりはあるのか」「読者や書店員を困らせてどうする」など、いろいろ言われました。最初社内には、タイトルについて賛同してくれる人は誰もいませんでした。
『夫のちんぽが入らない』は、普通に生きることができないことに悩むこだまさんが「普通じゃなくてもいいんだ」という考え方を受け入れていく過程を描いた作品。タイトルだって、普通である必要なんてないと思ったんです。それに「ちんぽ」ってポップでいいじゃないですか。売れたとしてもコケたとしても、それはそれでおもしろい。
こだま:(笑)。
(※後編は近日公開)
【プロフィール】
▼ こだま
主婦。2014年、同人誌即売会「文学フリマ」に参加し、『なし水』に寄稿した短編「夫のちんぽが入らない」が大きな話題となる。2015年、同じく「文学フリマ」で頒布したブログ本『塩で揉む』は異例の大行列を生んだ。現在、『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』で連載中。短編『夫のちんぽが入らない』が、初の著書になる。
※注)Amazonの文芸書売り上げランキングは2017年1月22日~28日までの数字
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