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未曾有の被害をもたらした東日本大震災、そして福島第一原発の事故から6年が経過した。今回AbemaTVでは、小泉純一郎元総理の単独インタビューに成功。後編では、小泉元総理が打ち込んできた原発ゼロ運動、そして小泉進次郎氏に託す思いなどを聞いた。(聞き手:小松靖・テレビ朝日アナウンサー)。

■反省の意味も込めて、運動を展開しようと思った

ーー(前編のつづき)そもそも小泉さんが原発問題に関心を持ったのはなぜなのでしょうか。


 あの事故のあと、テレビ・新聞の報道で、津波の状況が連日流されたよね。あれを見ていて、「原発は絶対安全」というのは嘘だったんじゃないか、そういう感じを持ったから。引退して時間もあったし、勉強のつもりで本を読み出したんだよ。どういう形で原発を導入したのか、なぜ安全だと言っていたのか。

 読めば読むほど、勉強すればするほどね、推進論者が言っていた、「絶対安全」「コストは一番安い」「永遠のクリーンエネルギー」、この三大"大義名分"、これが全部嘘だとわかった。俺は総理のとき「原発は必要だ」と言っていたよ。どうしてこんな嘘を信じてしまったのかと、自分に対して悔しかったんだな。

 まあ、そう信じたのが馬鹿だと言われればそうだけどね、しかしこのまま黙ってていいんだろうか、間違ってたということを言わなくていいんだろうか、これは是非とも国民に知らせないといけないなと。「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ。過ちを改めざる、これを過ちと謂う」という言葉を思い出してね。そうだなあと。お恥ずかしい事だけれども、総理の時代に言っていたことは間違っていたという反省の意味も込めてね、運動を展開しようと思ったんですよ。

■とても日本じゃ無理だ。だからゼロだ

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 いろいろ本を読んでいるとね、核のゴミの捨て場所は世界どこにもない。たったひとつだけ、フィンランドの「オンカロ」というー洞窟とか隠れ家とかそういう意味らしいんだが、そこに処分場を作っているということがわかったんだ。それで(顧問を務める)国際公共政策研究センター主催で、経済界の人たちと視察に行こうかと言ったんです。2013年の8月のことだった。一緒に行った人には、原発を作っている三菱重工業、日立製作所、東芝の幹部もいた。

 ヘルシンキで飛行機を乗り換えて1時間半、空港を降りて車で沿岸から船に乗ると、オンカロのある島がある。フィンランドってのは岩盤で出来ているから、それを地下400メートルほどまで掘って、2キロ四方の広場を作っていた。すでに完成しているように見えたんだけど、「あとひとつ審査が必要だ。壁を見てくれ」という。よく見ると、壁に湿気がある。10万年保管しないといけないから、その影響がないかという審査が残っていたんだ。10万年だよ?そうしないと毒性が消えないっていうんだ。気の遠くなるような話だよね。

 しかも2キロ四方の広場も、たった2基分のゴミの容量でしかない。フィンランドには原発が4基あるから、あと2基分の場所はまだ見つかってないということなんだ。日本には原発が54基ある。これを見てね、日本じゃ1基分もできないなと。しかも今までの廃棄物の処分場もない。これは無理だなと思った。

 それで、視察に参加した経済界の幹部たち、中には原発の専門家たちもいるから「これはもう日本は原発ゼロにしなきゃだめだな」と言ったら、「いやいや、困ります」と言うんだよね。「いや、小泉さんには"やっぱり原発必要だ"と言ってもらえるとありがたいんですが」って。「いや、それはできない」と言ったよ。

 この視察の話を毎日新聞の山田孝男記者が聞きつけて、毎週月曜日の『風知草』というコラムに『小泉純一郎の「原発ゼロ」』っていう見出しで出した。それからですよ。"総理のときに原発を推進していた小泉が原発ゼロを言い出した"と、あっちこっちから講演の以来が殺到ですよ。マスコミの力は凄いなと思ったね。前から言ってたのに、全然報道してくれなったなかったんだけど(笑)。

 私の話はわかりやすいからね。例えば産業廃棄物があるでしょう。ゴミを処理する会社を作りたいと思ったら、まず自分で処分場を見つけない限り都道府県知事は認可を出さない。ところが原発のゴミは毒性が産廃どころじゃないにも関わらず、日本中どこにも処分場がないのに政府は許可するんだ。どれだけ危険か。不思議でしょうがないと。事故から6年経ってタンクも汚染水でいっぱいでしょう。除染で出た廃棄物も置き場所がないくらい。とても日本じゃ無理だ。だからゼロだと主張したんだ。

 そしたらね、経済界の推進論者の人たちが「小泉さんね、将来ならともかく、直ちににゼロなんて、とんでもないですよ」という。「2、3ヶ月くらいは我慢できるでしょうけど、寒い冬、暑い夏、エアコンなしにはやっていけませんよ。経済活動もできません。ほとんどが原発の電気使ってるんですから」と。彼らは今でもそういうこと言ってるよ。「直ちにゼロなんて無責任だ。30年後とか50年後とか、先の話だ」って。最近、民進党の中でも30年代にゼロという勢力と、直ちにゼロだという勢力がもめているよね。何を考えてるんだと言いたいね。

 事故が起こった2011年3月から2013年の9月まで、原発はたった2基しか動いていなかった。そこから2015年の9月まではゼロ。今は愛媛の伊方、鹿児島の川内の2基だけ。つまり、6年間でたった2基しか動いていないんだ。

 推進論者は以前「太陽光や風力は原発に替わるエネルギーにはならないよ。太陽光は全電源の2%。原発の30%分なんて賄えないだろう」と言っていた。ところが推進論者が馬鹿にしてた2%にも原発は行ってないんだ。自然エネルギー以下だ。しかも、北海道から九州・沖縄まで、電気が足りなくて停電になったことは一日もない。暑い夏も、寒い冬も。「直ちにゼロ」ってのを、もう証明しちゃってるんだ。原発ゼロでも6年間、十分生活できる、電力が余ってるという状況を作っちゃっているんだ。

 こういうこともわかってるのに推進論者は「直ちにゼロなんて無責任だ」という。どっちが無責任だ。経産省も資源エネルギー庁も原発会社も、「小泉さん、嘘を言わないでくださいよ」って一言も言ってこない。私の言っていることが本当だとわかってるからだ。当時は日本政府も依存度を減らすと言っていたんだけど、いまは、将来は基幹エネルギーとして20%台を維持するというようになったでしょ?動かそうという気がしれない。もうおかしいね。

 「原発は安い」と言うのも嘘だとわかってきた。東電だけで損害賠償、除染活動、まして廃炉なんて、世界で最も進んでいるイギリスだって100年くらいかかると言ってるんだ。日本でも事故が起きた頃は廃炉費用は1兆円くらいじゃないかと言ってたのがどんどん増えて、今は8兆円かかるという。損害賠償も東電で出せない、除染費用も政府に支援を求めてくる。廃炉だって追加支援を求めてくる、安いどころじゃないんだよ。今いくらかかっても原発を維持したいという風に変わってきちゃったんだよ。これもおかしいよ。

 「もんじゅ」だって結局ダメだった。「無限のエネルギー、夢の原子炉」じゃない。「幻の原子炉」だよ。1985年に始めて94年に完成したけど、故障してだめ。名前は良いんだよ(笑)。でも30年経っても"文殊の知恵"が出なかったんだよ。3人寄ろうが300人寄ろうが、"文殊の知恵"は出なかった。その間、1兆1千億円税金がダメになりましたね。コストが安いなんてとんでもないよ。

 日本みたいに狭い島国で、地震も多くて火山の噴火もある国では、安全対策にますます金がかかる。太陽光とか風量くとか地熱とかはコストはますます安くなってくる。原発に頼らないで太陽、風、地熱、水力、潮力、さまざまな自然エネルギーを使って経済発展させるほうが遥かに安全でいい国になると思うんだ。

 ドイツやスペインは自然エネルギーだけで30%まで行っちゃってる。太陽光にしても風力にしても外国の方が進んでいるね。日本も政府が「原発をやめる、自然エネルギーでやっていこう」と宣言して奨励策を取れば30年もかかんないと思うね。

■騙された方がアホなんだろうな

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ーー現役の総理大臣だった時代に、そういう話は聞かなかったんですか?

 俺、専門家に聞いたんだよ。将来、核の廃棄物の無害化技術が出てくるんじゃないかという話が出ていたから。「100年、200年後には出てくるかもしれないけど、今の段階ではわからない」と。「ただ、最終処分場じゃなくても、何百年かの間、外に漏れないように保管する場所はできるんじゃないか」という話だった。「そうか」と思ったよ。

ーー自分は騙されていたと?

 まあ、騙された方がアホなんだろうな。それは反省しているよ。

 よく推進論者は「どんな産業だって、どんな機械だって事故が起こる」と言う。「事故のリスクとその産業・機械から受ける恩恵を秤にかけ、プラスの方を考えて科学技術は発展してきたんじゃないか」と言う。だけどね、福島を見るとね、多くの人が二度と故郷に帰れないんだよ。放射能は病気も長く続くの。事故を起こしちゃいけない産業なんだ。

 原子力規制委員会は事故後のあと新しい基準を作って、合格したものは動かすと言っている。政府も合格したら動かす、日本の新基準は世界で一番厳しい基準ですと言っている。ところが去年だったかな、委員長は「新しい基準に合格した。だけど安全とは申し上げられない」と言ってるんだよ。フランスともアメリカとも比べてないのに、なんで日本が世界一厳しいといえるのか。

 アメリカは住民の避難計画を立てなかったら許可しないし、最近はテロも多い。原発に飛行機の自爆テロなんてあったら大変だ。軍隊を置いておかないといけないと言っている。日本は避難計画も作ってないし、各原発に自衛隊を張り付けても居ない。そういう点から見てもね、世界一厳しい安全基準とは言えません。原発持ってるんだったら、テロ組織、あるいはそういう意図をもった勢力は基地なんか攻撃する必要ないんだ。各地の原発狙えば、日本中、すぐだよ。それも国民にわかるように説明すればいいじゃないか。

■安倍総理は苦笑してるだけだったよ

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ーー日本が原発を海外に売るというのは?

 どうかしてるよ。安全でもないのに。その発想がわからない。ますますコストは高くなりますよ。しかもゼロで十分生活していけるのもわかった。安全対策だってきちんとしてなかったのは東電の事故でわかったよね。

ーー安倍さんが転向する可能性は?

 もうここまで行っちゃってるんだから無理だろう。ここまで推進して、輸出の売り込みに言ってるんだから。もちろんいまから変えても遅くないよ。だけど、あそこまで言っちゃってんだから…。無理だろうな。

 俺は「今からでも転向できるからやったほうがいい」って言ったよ。でも苦笑してるだけだったよ。反論はしてこない(笑)。安倍さんも信じちゃってるんだ。ここまで来たからやるしかないと思ってるのかね。それはわからないけどね。

ーー去年、安倍総理に原発ゼロを直訴したというのが報道されていました。

 会ったから話しただけなんだ。「原発推進論者に騙されんなよ」って(笑)。その時も苦笑してるだけだったよ。短い時間だったからね。

ーー何か大きい流れに乗らざるを得ないということですか?

 大きな流れじゃないんだよ。国民は原発ゼロを支持してる人の方が多いよ。原発産業に従事している人達は仕事が増えるし、会社の利益も上がるから、離したくないんだろうな。経産省も資源エネルギー庁も原子力技術者も頭いい人ばっかりだよ。学業優秀な人達がどうしてこんな簡単なことわからないんだと不思議でしょうがない。一生を原発に賭けてきた科学技術者にしても、そういう気持ちが強いんだろうな。

ーー専門家を持っておくためにも維持しておくことが大事だと言われていますが。

 廃炉の研究者は養成しないといけないんだ。だから原発技術者はこれからもちゃんと確保していかなきゃならない。時間のかかることだからね。研究も続けていく必要があるだろうね。原発ゼロと原子力の技術者を養成することは矛盾しないんだ。

■郵政民営化よりも原発ゼロの方が簡単だよ

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ーー今は火力発電で補填する形になっているので、化石燃料に頼る形です。エネルギー行政は安全保障行政にもつながりますが…。

 だから自然エネルギーでやっていけるようになれば輸入しなくていいじゃない。自然エネルギーは無限にあるんだから。アイスランドだって日本の技術でやっているんだよ。デンマークだって風力ですよ。それを原発業界が妨害しているんだよ。

 "自然エネルギーだけで日本は発展できる国にしよう"。これは大きな事業ですよ。夢があります。空想じゃない、幻想じゃない事業。やればできる。政府が音頭を取れば国民も協力しますよ。どうしてそれがわからないかな。

ーー政府・与党にも、そういう考えに賛同する人がいるんじゃないですか。

 内心ではね。自民党だって半分くらいいるんじゃないかな。総理が「やる」って言えばできるよ。経産省だって資源エネルギー庁だって、反対できないよ。そんなに難しいことじゃない。

ーー総理にそんな権力がありますか?

 ある。国民だって支持するよ。郵政民営化よりも原発ゼロの方が簡単だよ(笑)。郵政民営化は全政党反対だったんだから。

■進次郎は私より慎重だよ

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ーー進次郎さんは、復興担当をなさっていた経緯もありますが、原発推進派とは一線を引いている気がします。

 いや、私の講演なんかはインターネットで見ていると言ってたよ。わかってんだよ。でも、今は農林部会長でしょ。あっちこっち手を出さないで、それに専念しようとしてるから。若造だからそれでいいんだよ。あっちこっち行ったって相手にされないんだから。自分でもそれをわきまえてるんじゃないかな。私は一切あしろこうしろとは言わないから。

 自分に与えられた仕事を一生懸命やる。あっちこっち手を出すと収拾付かなくなるから。それをわかってんだよ。私より慎重だよ(笑)一人前の政治家なんだから。

ーー政治の話自体は?

 聞かれればするけどね。「こうしろ」とは言わない。

ーーどんなことを聞かれるんですか?

 それは様々な問題があるけど。農林部会長は自分で求めた役職じゃないんだよ。「こういうことになったけど、いい仕事だ」、「若いときにこういう仕事に携わってすごく良かった、これは一生かける仕事だ」と言ってやってるよ。農業、食料問題は、全国民にとって大事なことなんだから。若い時でないと、なかなか現場も見られないからね。わからないこともたくさんあると思うけど、「こういう役職を与えられたから。全国の現場の話を聞く大事な仕事だ」といって頑張ってるよ。「今、この仕事だけで精一杯だ」と言ってたよ。

ーー原発ゼロは、政界引退された後の最大にして最後のライフワークの一つだと思います。次を担っていく息子さんに託す思いもあったりするのかなと思うんですが。

 自分で思い立って、「これやろう!」っていう気がないとできない問題だよ。それが大事なんだよ。言われたことをきちんとやるのは当たり前なんだよ。自分に与えられた立場で、今、何ができるか。起業だろうが経営だろうが、スポーツ選手であろうが音楽家であろうが、今、自分は何をすればいいか、自分で思い立たないとね。なかなか成長はしないですよ。(AbemaTV/AbemaPrimeより)

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