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 11日で発生から6年が経つ東日本大震災。発生直後に行われた約2万4000人のアメリカ軍兵士による大規模な被災地支援活動により、多くの被災者が救われた。今もなお感謝し続けている日本人も多いこの活動は“トモダチ作戦”として美談で語られることも多い。しかし、その兵士達の現状は意外なものだった。

 トモダチ作戦の終了後、作戦に参加した原子力空母「ロナルド・レーガン」の乗組員の一部が健康状態の悪化を訴えていたのだ。作戦中、福島県沖で放射線に被ばくしたという彼らは「原発事故について正確な情報を知らされていなかった」として2012年12月に東京電力などに対して損害賠償を求めてアメリカ連邦地裁に裁判を起こした。

 しかし、彼らの訴えに対してアメリカ国防総省は、2014年に公表した報告書において「被ばくは極めて低線量で健康被害との因果関係は認められない」と突き返していた。

 そんな彼らの現状を見かねて立ち上がったのが、小泉純一郎元総理(75)だ。去年5月カリフォルニア州にて米軍兵士らと面会し、その後の会見では涙ながらにこう訴えた。

 「彼らは自分たちの任務を果たした。だから、我々は出来ることをしなくちゃいかん」

 なぜ、彼はトモダチ作戦の兵士のために立ち上がったのか。震災から6年経った今、政界を引退し表舞台から姿を消した小泉氏は「3月11日の地震で津波、福島原発のメルトダウンが起き、日本政府はアメリカ政府に救援活動を要請した。当時、第七艦隊空母『ロナルド・レーガン』は韓国に向けて太平洋を航行していたにも関わらず、それを中断して日本の要請に応えてすぐ東北沖に来て救援活動をしてくれた」と話した。

 日本原子力研究開発機構のシミュレーションによると、震災の2日後放射性物質は風に乗って海側に拡散されたと推測されている。当時、福島沖にて任務にあたっていた「ロナルド・レーガン」がいたのはちょうどその風向きの方向だった。

 作戦に従事している際、すでに異変に気付いていた兵士もいたという。当時のトモダチ作戦の様子を「海兵隊員は休憩時間に機体の整備もするので、機体の除染や清掃もしたし、多くの除染された部品にも触れた。そのため、指揮官は機体が汚染した時のマニュアルを作った」と語った兵士は、変性椎間板疾患を発症した。「家族にそんな病歴はないし発症するような事故にもあっていない。消化器官の問題や腹痛もある」と、放射性物質による影響だと主張する。

 また、航空機の発着を担当した別の乗組員は「飛行デッキの上に出るとすぐにアルミホイルのような味の空気を感じた。寒くて、なんだか異様な空気だった。私が下の階で水を大きなキャメルバックに詰めて肩に背負って上に戻ろうとした時、船長がやってきて『緊急事態だ』と話し、その後『水は全箇所で汚染されている』。これまで皆、水を飲んだりシャワーを浴びたり水に頼っていたのに」と話し、今は、体重増加や甲状腺障害など様々な身体の問題を抱えており「これからどうなるか不安だ」と胸の内を明かした。

 米軍兵士達が病に苦しんでいるという予想もしなかった事実に直面した小泉氏は去年5月、アメリカに渡り実際に元兵士との面会を行い涙を流した。「兵士たちは面会で『現地に行って溺れかけている人を助けたり救援物資を送ったり、現地に行かずに航空母艦の甲板で帰ってきたヘリコプターを整備したりといった活動を、防護服を着ないでやっていた』と自分たちの任務ばかり説明していた」と思い起こす。

 「こんな窮状をなんとかしてくれ」と頼まれると思っていたという小泉氏は「日本にしてほしいことは?」と聞いたところ元兵士は黙ってしまったという。そこで、質問を変え「何か言いたいことは?」と聞くと、しばらく黙って予想もしなかった言葉を発したという。「彼らは『自分は日本が大好きなんだ。日本人はみんな我々に温かく接してくれた』と伝えてくれた。『何をしろ』と言わなかった。たいしたもんだと」と話した。

 それでも裁判は進まず、その兵士たちは医療費の高いアメリカで治療を受けることも出来ていなかった。帰国した小泉氏は“民間人”として『トモダチ作戦被害者支援基金』を設立し、2017年3月末までの寄付金額の目標を1億円に設定。建築家の安藤忠雄氏、H.I.S.の澤田秀雄社長、ニトリの似鳥昭雄会長らの支援により現在2億5000万円以上集まっているという。

 「米軍兵士達に『日本人も本当に感謝しているんだよ、ありがとう』って気持ちが伝わればいいなと思って。やってよかったよ」と小泉氏は嬉しそうに目を細めた。裁判を起こした原告団は当初8人だったが、年を追うごとに被害を訴える人数が増えていき、現在は400人を超えている。そして、これまでに8人が白血病などで死亡しているという。

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「郵政民営化よりも原発ゼロの方が簡単だよ」 進次郎氏への思いも…小泉純一郎独占インタビュー(後編)

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 裁判で原告が訴えているのは『東電が正しい情報を出さなかったことが原因で被ばくした』という点だ。しかし、ジャーナリストの津田大介氏は「現場の兵士達が指示をどれだけ理解していたかという点も問題だ」と指摘する。

 「もちろん現場の兵士は日本を助けたいという気持ちで任務を行っていたと思う」と前置きした上で「当時、官邸にはあらゆる原子力の専門家が集められ対策が練られていたのだが、その中にアメリカ政府や米軍の原発関係者もいたし、福島原発周辺にもアメリカの原発関係者がいて調査していた。これは、日本にとってもありがたい助けではあるがアメリカというのはものすごく現実主義的な国。自国の国益を最優先に考える国でもあるので、日本を助けると同時に、アメリカでも大規模な原発事故が起きた場合や核戦争が起こった場合のシミュレーションのデータを取るという両面からトモダチ作戦を行っていたのでは。この上層部の判断が現場の兵士に伝わっていなかった可能性があり、この両面性の犠牲になったとも言える」との見方を示した。

 また津田氏は米軍兵士の健康被害について「ふたつの考えがある。ひとつは、『ロナルド・レーガン』に乗っていた人は当初津波で流された人の救助をしていた際原発の近くで作業していたので、一度に大量の被ばくをする高線量ひばくをした可能性があるということ。ふたつ目は、そこかしこに遺体が転がっているようなストレスフルな状況で作業していたため、任務についた後メンタルを病んでしまい精神疾患に患ってしまった可能性があるということ」と持論を展開した。

 専門家の中でも「風向きや放射能の広がり方などからすると被ばくの可能性はゼロではない」という意見を持つ者と「放射性物質が流れた先にいた場合多少の被ばくの可能性はあるが健康を害することは考えにくい」とする者で分かれている。

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■原発ゼロ運動へ 小泉純一郎元総理「原発推進論者に騙された」

 また、小泉氏は原発ゼロ運動にも力を入れている。しかし総理時代、原発推進派だったことについて「騙されていた」と振り返る。きっかけは3月11日の東日本大震災。連日震災の状況がテレビで放送されるなかで「これは『原発は絶対安全だ』は嘘だったんじゃないかと、そういう感情をもった」という。それから日本は原発をどういう形で導入したのか、なぜ安全と言っていたのかを、もう一度じっくり本を読み勉強し始めたという。

 「勉強すればするほど推進論者が言っていた『原発は絶対安全』『コストは他の電源に比べて一番安い』『永遠のクリーンエネルギー』。これが全部嘘だってわかった」

 さらに、小泉氏は事故が起こった2011年3月から2013年の9月まで原発がたった2基しか稼動していなかったこと、そこから2015年の9月まではゼロ、現在は愛媛の伊方、鹿児島の川内の2基つまり、6年間でたった2基しか動いていないと指摘。「日本も政府が「原発をやめる、自然エネルギーでやっていこう」と宣言して奨励策を取れば30年もかかんないと思うね」と話した。

 「推進論者は以前、『太陽光や風力は原発に替わるエネルギーにはならないよ。太陽光は全電源の2%。原発の30%分なんて賄えないだろう』と言っていた。ところが推進論者が馬鹿にしてた2%にも原発は届いていないんだ。自然エネルギー以下だ。しかも、北海道から九州、沖縄まで電気が足りなくて停電になったことは1日もない。暑い夏も、寒い冬も。「直ちにゼロ」ってのを、もう証明しちゃってるんだ。原発ゼロでも6年間、十分生活できる、電力が余ってるという状況を作っちゃっているんだ」

 原発をめぐる世界の状況を見てみると、IAEA(国際原子力機関)によれば去年の12月時点で、31の国と地域で営業運転中、または運転可能な状態だという。99基のアメリカ、58基のフランス、そして43基の日本と続く。また、イタリア、ドイツ、デンマーク、台湾といった脱原発を推進する国がある一方で、フランス、英国、中国、インドといった原発を推進する国もある。

 原発ゼロは本当に可能なのだろうか。ジャーナリストの津田大介氏は「原発なしでも供給という面ではやっていけるが、問題なのは経営問題だ」と指摘。「原発をすべて国策としてやめるとなると原発のプラント、核燃料、使用済み核燃料、それらが全部資産ではなく、不良債権になってしまう。そうなると電力会社が潰れるかもしれず、経営問題になる」と話した。

 一方で津田氏は、それは政治家が決断し、対策を講じれば解決できる問題だとも話す。そして「6年間で原発推進派の理屈が変わってきた」と指摘する。最初は電力が逼迫するという理屈、その次は火力発電のための燃料輸入にともない国富が流出するという理屈、燃料を輸入に頼ることで安全保障上の問題が生じるという理屈、そしてCO2問題が生じるという理屈だ。

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 小泉氏の「原発ゼロ発言」を報道した毎日新聞特別編集委員の山田孝男氏は「小泉元総理は脱原発が世界の潮流になると考えておられるだろうけれども、現実には中国、インド、フランスは推進しており混沌としている」。脱原発の壁になっているのは、原発を廃止したことで生じる経済への影響で電力会社、その周辺企業、すべてに余波が届き雇用や訴訟の問題が生じてしまう。しかし山田氏は強いリーダーの元でなら脱原発は可能だと話す。

 「産業の構造が非常に難しいから(脱原発に)抵抗がある。現にドイツは脱原発をやってから訴訟が起きている。でもそれ(脱原発)をやる意味はある。総理大臣がトライすればできる。強い総理大臣で選挙に勝つ、人気がある、権力を握っている総理大臣であれば号令をかければできる」

 小泉氏の原発ゼロの訴えとは逆に、現在の安倍政権は原発推進の立場をとっている。一昨年、2030年度時点の電源構成の見通しで原発の割合を20~22%程度にする政府方針を明らかにした。政府の方針に合わせるかのように、先月定期検査中だった川内原発2号機が再稼働を開始、大飯原発3、4号機も再稼働の規制基準に事実上合格した。現役時代、安倍総理を要職にすえ、自らの歩む背中を見せた小泉氏は現政権に対して何を思っているのだろうか。

 「もうここまでいっちゃってるんだから無理だろう。ここまで(原発を)推進して、輸出の売り込みに行ってるんだから。もちろん今から変えても遅くないよ。だけど、あそこまでいっちゃってんだから…。無理だろうな」

 原発をめぐっては世界中で議論が巻き起こっている。津田氏によれば原発には寿命があり「新たに作らなければ少なくともあと60年後とかには自動的に脱原発できる。今すぐではなく、ゆるやかに脱原発に舵を切っていく議論も必要。小泉元総理はそういったことへの問題提起もしている」と話す。

 東日本大震災、そして福島第一原発の事故から6年が経とうとしているが、原発のみではなく、未来のエネルギー政策全体をみて、包括的な議論をしていく必要がある。(AbemaTV/AbemaPrimeより)

(C)AbemaTV

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