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Lick-Gの最新アルバム「Trainspotting」が好評だ。よく言われるのは「圧倒的なラップスキル」云々かんぬん。実際ちょっと聴けば、ヒップホップのことをよく知らない人でも彼のラップがすごいのはわかるはず。なので、今回はLick-Gのラップのどこがどうすごいのかを具体的に解説してみよう。 

トラップって何?

「Trainspotting」では現行USヒップホップのトレンドになっているトラップが全面的に導入されている。トラップは皆さんが普通に想像するヒップホップよりも遅いビートを使っているのが特徴だ。もともとはアメリカ南部のヒップホップ、サウスが発展したもの。90年代~00年代初期のいわゆる王道なNYヒップホップがBPM90だとしたら、トラップは60くらい。BPM60で普通にビートを作ると遅すぎて間延びしてしまうので、ハイハットをキックの倍のBPM120にしたりと工夫して曲に抑揚をつけている。アメリカ南部といえば、ブルースやロックンロール発祥の地なので、彼らにはあの重く遅いビート感が身体に染み付いているのかもしれない。 

遅いビートでラップするのに必要なスキル

これは年齢的なものかもしれないが、王道なヒップホップのビート感が染み付いている人にとってトラップは遅すぎる。さらに日本では歴史的にアメリカほどサウスやトラップのビートが普及しなかったこともあり、この遅いビートを日本語でラップする方法論は確立されていなかった。トラップのビートではBPM60とBPM120という2つのビート感を使いこなす必要がある。 

1小節の中で「生麦生米生卵」をどのスピードで言うかというのを想像してもらえればわかりやすい。BPM90を標準速度と仮定すると、60だと「なぁ~まぁ~むぅ~ぎぃ~」と間延びしてしまうし、120では滑舌が追いつかない。日本語は英語より音節(音の区切り)が多いので、スムーズにラップするのが難しい。これはラップに限ったことではなくて、ロックでも雰囲気を出すために日本語を英語っぽく発音したりもする。この音節数の多い言語をいかにスムーズにメロディやビートに乗せるか。これは日本の歌唱法にとって、永遠の課題でもある。 

Lick-Gが発明したラップスキル

トラップのリズムの取り方で一般的なのは「三連符」だ。その名の通り一拍を3で取る。「『1』、『2』、『3』、『4』」を「『123』、『223』、『323』、『423』」とする。日本語は音節数が多いので、多くのラッパーは「『1』、『2』、『323』、『4』」とか「『123』、『2』、『3』、『4』」というリズムでビートに乗る。 

しかしこれに対しLick-Gは「日本人のラッパーは三連譜の仕組みをまったくわかってない。これ言っていいのかわかんないけど、三連譜っていうのは母音と『ん』を省略しないと綺麗にならないんですよ。この省略がないと言語障害みたいなラップになる。みんなそれに気づいてないから、フリースタイルで三連符を使うとどんどんぎこちなくなっていって、途中で止まっちゃうんです。逆に省略に気づいてれば、三連符なんて簡単なんですよ」と語っている。 

どういうことか? USのラッパーは基本的に「『123』、『223』、『323』」のリズムでラップする。英語は音節数が少ないので、このリズムの取り方が比較的難しくない。しかし日本語は普通に歌うと単語の音節(音の区切り)が多いから「『123』、『223』、『323』」のリズムだと、徐々に滑舌が追いつかなくなる。上記の発言の「フリースタイルで三連符を使うとどんどんぎこちなくなっていって、途中で止まっちゃう」というのはそういう意味。そこでLick-Gは音の区切りになる母音と「ん」の発音を省略するという技を編み出した。これなら音節が少なくなって、スムーズにラップできる。 

Lick-G「Trainspotting」はリアルなタイム感で聴くべき

Lick-Gは17歳。YouTubeやApple Musicがあって当たり前の世代なので、彼はテクノロジーのおかげで音楽の歴史や時間軸から解放されている。USヒップホップのMIGOSを聴いて、こういうのを日本語でやりたいと思って前述の方法を思いついた。それは「ロックとかでよくある、巻き舌で日本語を英語っぽく発音するのが生理的に受け付けないんですよ。無理。アメリカ人は普通に英語の発音で喋ってるのに、なんで日本人が英語っぽい発音で喋らなければいけないのかっていう。ラップだろうが歌だろうが、日本語も英語も正しく発音すべきだと思う」という発言にも表れている。 

しかもLick-Gはこのスキルをベースにリリックも組み立てている。「たぶん人によっては、トラックにうまく乗らないから歌詞を変えることがあると思うんですけど、僕はそこで言葉を変えたくないんです。変えるんじゃなくて、どうやってくっつけるかってことを考える。言葉が足りてればそのままでいいけど、多かったら繋げちゃう。例えば『俺は』って言うにしても『おれは』が小節に収まらない場合は、『れは』とか『ぉれは』みたいに発音する。でもそういうのって日常生活でもあるでしょ? だから僕はわかる範囲で融通を利かせて、言葉を繋げちゃう。そうすると無理に英語の発音に近づけなくても、ちゃんと日本語だけでも音にハマるんですよね」。Lick-Gの音楽はメッセージもフロウもスキルも、ヒップホップの美味しいところを丸ごと楽しむことができるのだ。ぜひリアルなタイム感で「Trainspotting」を聴いてもらいたい。

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Lick-Gインタビュー「日本人はヒップホップがボーダレスだと気づいてない」(前編)
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17歳のラッパー・Lick-Gが1stミニアルバム『Trainspotting』を完成させた。クオリティには徹底的にこだわりつつも、あくまで自分の好きなことだけを詰め込んだという本作。USヒップホップ
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Lick-Gインタビュー「日本人はヒップホップがボーダレスだと気づいてない」(後編)
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