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 古本屋やスポーツ用品店が立ち並ぶ東京・神田。ここに注目の宇宙ベンチャー・アクセルスペースはある。

 これまでの宇宙事業は国家プロジェクトだったが、アクセルスペースは世界で初めて商業用の超小型人工衛星の製作に成功。去年打ち上げられた気象衛星ひまわりと比べるとサイズ(質量)は50分の1となった。NASAやJAXAの人工衛星は一度に多くの研究を行うために大型で、開発期間は5年から10年。費用は150億円から500億円と莫大。アクセルスペースでは、その衛星を超小型化し開発期間は従来の5分の1、費用は100分の1以下とすることに成功した。

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 なぜこれほどのコストカットができたのか。AbemaTV『AbemaPrime』の「2021 未来のテラピコ」に出演した代表取締役の中村友哉氏は「例えばネジがありますよね。その1個1個は東急ハンズでも売っているものです」。身近なものを使うことでコストを下げ、過剰な品質を求めず、徹底してシンプルに作ることで量産化につなげた。埃を嫌う衛星のための社内のクリーンブースも自らが組み立てたものだ。中村氏は「いわゆる大きな衛星ですと高いから長くもたせないといけないということで、(耐久性も)10年とか15年とか。そうすると中の機器もそれくらいもたせないといけないので、コストが上がる原因にもなります」と説明する。

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 アクセルスペースは創業8年で社員は27名だが、その技術力は認められている。昨年にはJAXAから人工衛星の開発、製造、運用の全てを委託された。しかし一体なぜ、中村氏は人工衛星を“超小形化”できたのだろうか。中村氏は「国が作るような大きな衛星でも元をたどれば、ひとつの電子部品から成り立っています」。さらに「誰もやっていないということは、そこにビジネスがないから。私自身は小さな衛星に関わってきて、価値を社会の人に分かってもらいたい思いが強くて」と事業を始めるきっかけを話した。

 中村氏は東京大学を卒業後、特任教授を経て2008年にアクセルスペースを創業した。アクセルスペースの衛星が撮影した地球の写真を見ると、身近な部品で作ったとは思えない美しさだ。宇宙で得たデータを蓄積し、情報のプラットフォームを作ろうとしている。ただ衛星写真はグーグルも提供している。それでも中村氏は「(重要なのは)やはり更新頻度だと思います。グーグルマップなどは確かに衛星画像を貼ってありますが、東京であっても1年前とか2年前の画像。我々は今後、50機の衛星を打ち上げることによって、世界中どこでも毎日画像が更新されるような仕組みを作ろうと思っています。そうすると常に今日の地球が見られる」と語る。

■国が作る衛星はバスで、我々が作るのは軽自動車

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 アクセルスペースの衛星「GRUS」は開発期間1年から2年、費用は約2億円から3億円、質量は100キログラムだ。民間企業が宇宙開発をする難しさについて中村氏は「これまでの宇宙開発は国主導で、国のための開発が中心でした。民間がやる場合は、民間に対してサービスを提供していかないといけない。そうすると、宇宙を使ったことのある人はまだそれほどいないので、どうやって使うかも一緒に考える必要があります。ゼロから全てを作っていかないといけない点が難しい」と話す。

 衛星を超小型化できた理由について「国が作るような大きな衛星を頑張って小さくしたわけではありません。元々、大学時代に手の平に乗るような大きさの衛星を開発していました。2003年に打ち上げて、成功させて、もっと複雑なことがしたくなり、結果として今のサイズになった」「いわば、国が作る衛星はバスで、我々が作っているのは軽自動車と考えてもらえば良い」。単純な小形化ではなく、必要な用途に特化したものとして作っている。

 アクセルスペースには、三井物産、スカパーJSAT、グローバル・ブレインなどが19億円出資し、衛星3機の開発費用にあてている。宇宙ビジネスの種類は衛星、ロケット、惑星探査、資源探査、機器開発、打ち上げ、輸送サービス、宇宙旅行など多岐にわたるが中村氏は「まずは衛星を使ったビジネスが広がっていく。そして徐々にその周辺に広がっていく」と話す。

 民間企業の宇宙への進出に伴い、法規制も進みつつある。去年の11月には宇宙活動法が成立。「人工衛星打ち上げの許可制」「打ち上げ失敗の賠償保険への加入義務化」「保険以上の損害を政府が補償する」などが記載。中村氏は「この法律ができる前は、そもそも法律がなかった。なぜかというと宇宙開発というものは一般的に国がするものだという認識があった。まさか民間が宇宙でビジネスをするなんてという時代だった。そうすると法律なんていらない。だけど日本にも宇宙ベンチャーが10社、20社出てきているが、そうすると勝手にいろんなことをされると困るということで、こういう法律ができた。ただし、規制されるので手放しで喜ぶわけではないが、我々の活動に根拠法がありませんでした。それができたことによって、ビジネスの信頼性、国がお墨付きを与えたビジネスだ、という位置付けにしてもらいました。今後はより安心してビジネスを展開していけます」と話す。

■デジタル航海士、衛星情報活用 コスト90%減

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 衛星を打ち上げて得たデータは実際、どのように活用されているのか。国内外に気象情報を提供している世界最大規模の民間気象情報会社・ウェザーニューズには4年前に打ち上げた第一号がある。同社にはリアルタイムで気象情報や波の高さを分析する航海気象チームがあり、安全で経済的に運航できる航路を随時配信。衛星の情報は“デジタル航海士”のために活用されている。

 同社では1日に世界中の船、約6000隻をサポートしているといい、広報担当者は「ここ数年、地球温暖化で北極海の氷がどんどん小さくなっており、今まで通れなかった欧州とアジアをつなぐ第3の航路が通れるようになってきている」。これまで日本からヨーロッパに船で行く場合、中東を通るスエズ運河航路と南アフリカをまわる喜望峰航路の2航路しか存在しなかったいう。

 しかし、第3の航路として注目されているのが北極海の溶けた氷の間を通る北極海航路だ。遠回りの喜望峰航路よりもコストが4割安く、通行料が莫大にかかるスエズ運河を通らない夢の北極海航路。こうしたコスト削減によって日本に輸入される石油や食糧などが安くなる可能性もある。つまり、運送料を低減できる北極海航路が衛星によって開拓されたことになる。

 ウェザーニューズでは北極海の海氷専門に打ち上げられている衛星がなかったため、アクセルスペースに衛星打ち上げを依頼。既存の衛星では1航海に数千万円の費用がかかるといい、アクセルスペースの衛星を使うとコストを90%も抑えられるという。同社は今年の春に2号機の衛星を打ち上げ、今後10年で10機の打ち上げを目指している。

 超小型衛星の利点は、情報を毎日アップデートできる点だ。広大な畑の生育状況や火山活動の状況もチェックでき、都市部においては渋滞の分析や商業施設を作るための都市の動態調査にも活用できる。そして開運では港を出入りする船の数がわかるだけでなく、貿易の動向まで把握可能だ。

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 衛星写真もインフラの一部という中村氏は「使い方は決まってなくて、我々としてはApple的なビジネススタイルを目指していきたい。つまり、軌道上に衛星を50機持っているが、その毎日の情報がわかるデータに世界中からアクセスができる。いろんな業界の人が、そのデータを使って独自のビジネスをする。つまり、B to B to Bというか農業、林業、都市、経済予測とか、そういった分野で宇宙を使った新しいサービスが出てくる」「気づかないうちに宇宙のデータが使われているという時代が確実に来ると思っています。そのベースを我々が作っていきたい。2022年を目標に頑張っています」と話した。

 アクセルスペースは今年の年末に3機を打ち上げる予定。宇宙ビジネス拡大へ、期待も高まっている。(AbemaTV/AbemaPrimeより)

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