『ハードヒット』はパンクラス所属として全日本プロレスなどで活躍する佐藤光留がプロデュースする“UWF系”プロレスイベントだ。
ダウン、ロープエスケープでポイントを失うロストポイント制、勝敗はギブアップもしくはKOでつき、反則も厳しく取る。
といっても、プロ格闘技が確立した今“格闘技に見せかけたプロレス”をやっても意味がない。『ハードヒット』は、いわば“厳密なルールの下で行なわれる、縛りのきついプロレス”であり、試合では付け焼刃ではない格闘技術こそ大きな武器となる。
(3.25新木場大会。メインで壮絶な打ち合いを展開したロッキー川村と野村卓矢)
そんな『ハードヒット』には、佐藤とその右腕であるロッキー川村(現パンクラス王者)に加えて元修斗世界王者の勝村周一朗、元パンクラス王者の和田拓也などベテラン格闘家がこぞって参戦してくる。3月25日に開催された新木場1st RING大会には、元DEEP王者の桜井隆多が初登場を果たした。
桜井に用意されたマッチメイクは、全日本プロレスのジュニアヘビー級を代表する選手、青木篤志とタッグを組み、佐藤光留&藤原喜明とグラップリングルール(打撃なし)で対戦するというもの。若き日にプロレスラーを志したこともある桜井は、藤原組長とアキレス腱固めの取り合いを展開。試合後に「夢が叶ったような気持ちです」と笑顔を見せた。
プロレスファンから格闘家になった選手たちが『ハードヒット』をいう場を得てプロレスのリングに上がる。そのことで、現在進行形、最前線のテクニックがプロレス界にもたらされるという面もある。80年代、佐山聡や前田日明がキックボクシングの打撃、サンボの関節技を取り入れたように、MMAの技術が持ち込まれることは、プロレス界にとってプラスではないか。
また『ハードヒット』では、自衛隊までレスリングに打ち込んだ青木のようなバックボーンを持つプロレスラーの試合も多い。柔道経験者の岩本煌史はカウンターの払い腰“孤高の芸術”と肩固めを必殺技にハードヒットで注目され、全日本プロレスに入団するとジュニアリーグ戦で優勝するまでに出世した。レスリングベースの服部健太も有望株だ。
(初参戦の元DEEP王者・桜井隆多は藤原組長と足関節の取り合い)
3.25新木場大会のメインでは、キックボクシングの経験がある大日本プロレスの野村卓矢がロッキー川村とスタンドでもグラウンドでも真っ向勝負を展開。同ロストポイントでドローとなった。MMAとはルールもジャンルも違い、川村は掌底しか使わなかったとはいえ、現役パンクラス王者に大日本プロレスの若手がメインで引き分けたのだから大健闘だ。
佐藤はプロデューサーとして、自身のプロレス観をこう語った。
「バックボーンがあるなら、それを出せばいい。“プロレスだからこうしなきゃいけない”なんてことはないはずなんです。ムエタイのベースがあるなら思い切り蹴る。それでいいんですよ」
バックボーンがないからこそ“強さ”の必要性を感じ、『ハードヒット』に上がってくる選手もいる。名古屋の団体スポルティーバ・エンターテイメントから東京に出て連日のように試合に出ている阿部史典も3.25新木場に出場。レスラーとしてのキャリアを積みながら、格闘技の練習にも熱心に取り組んでいるようだ。
(総合格闘家相手にバックを取られながらアームロックを狙うSUSHI。他のリングでは見られない光景だ)
キャラ重視に見られているマスクマン・SUSHIも、何度も『ハードヒット』に出場している。今回は総合格闘家の小林裕と対戦、序盤に掌底を食らって出血しながらも慣れないルールの中で奮闘していた。敗れはしたが、ヘッドロックまで見せた闘いぶりは、まさに必死という言葉がふさわしいもの。そんなSUSHIに激を飛ばす仲間のレスラーたちの姿も印象的だった。
「普段やってるプロレスとは全然違うルール、スタイルですけど、このリングに上がると、もっと強くならなきゃって気持ちになれるんですよ」
(大会をプロデュースする佐藤光留。「有刺鉄線バットを使うのもプロレスなら、格闘技として強さを追求するのもプロレス」と言う)
プロレスラーとしての人気獲得には一見、必要なさそうな『ハードヒット』出場について、そう語ったSUSHI。今のプロレスには“闘い”がない。今のレスラーはエンタメばかりで“強さ”を追求していない。そう嘆くプロレスファンがいたら、ぜひ『ハードヒット』を見てほしい。
文・橋本宗洋