全国公開中の映画『愚行録』の大ヒット御礼舞台挨拶が3月28日、新宿ピカデリーで行われた。これは3月9日に開催された満島ひかりと石川慶監督のトーク&ティーチ・インイベントの第二弾で、妻夫木聡と石川監督が登壇した。

同作の原作は、ミステリー文学界の魔術師・貫井徳郎による直木賞候補作の同名小説。主人公で週刊誌の記者である田中役を妻夫木聡、田中の妹・光子役を満島ひかりが務めた。イベントでは妻夫木聡と石川監督が、観客から寄せられた映画に関する質問に答え、現場でのエピソードや共演者の裏話を披露した。

周りからは「胸糞悪い」の褒め言葉
ーー映画に対して周りの方から反響はありましたか?
妻夫木:同業者や小説家の方、周りの人からメールがきました。面白いと言う表現が正しいのかは分からないですが「素晴らしい作品で面白かった」と言ってくださいますね。
石川監督:みなさんから「胸糞悪い」「週末が台無し」と、褒め言葉には聞こえないような褒め言葉をいただいています(笑)
満島ひかりは「自由奔放な人」

ーー満島さんとは何度も共演されていて、兄妹役も何度かされていますが、今回は普通の兄妹とは違った関係でしたよね。何か意識していたことはありましたか?前回のティーチ・インで、満島さんは「あまり話さないようにしていた」「妻夫木さんの黒い部分を捉えるようにしていた」とおっしゃっていました。
妻夫木:黒い部分は誰しも持ち合わせているんじゃないですかね。そういう意味では、僕にもあると思います。
ひかりちゃんとは兄妹役が多いのでわりと普段からも相談を受けたりするんですけど、「大人っぽい返事してるけど、お前そんな強くないだろ」って思われていたんでしょうね。相談しといて、僕の人間性の裏の部分を見ていたという(笑)
兄妹役を演じる上では、特に意識していないです。ただ、心を通わせるっていうのを極力しないようにはしていたかもしれません。ひかりちゃんは普通に話しかけてきましたけどね。「元気~?」みたいな感じで。気のせいかな。「あまり話さないようにしてた」って言っているけど。自由奔放な人なんですよ。あの人は。南の方の人だからね。陽気なんですよ(笑)
ーー田中さんを演じる時に意識したことは?どんな人だと思いますか?
妻夫木:演じている時に、その役について「こういう人だ」って思って演じたことはないです。人間の性格って「こうだ」って決めてしまえるものではないので。
原作自体に僕の役柄がはっきりと描かれていないので、監督とも最初によく話したんですけど、同じ思いを持っていました。存在感がありすぎてもよくないし、なさすぎても良くない。
公開1週間前まで悩んだラストシーン

ーー客観的に見て、一番衝撃を受けたシーンは?
妻夫木:やはりラストですかね。後ろからナイフで刺された感じがしました。
あのラストシーンは僕自身にとってもすごく悩ましくて。あの表情でよかったのか。もうちょっとお客さんにわかりやすい表情にした方がよかったんじゃないか。いや、想像させる表情の方がいいのじゃないか。泣いた方がいいのか、笑った方がいいのか。監督に相談しても「いや、そういうことじゃないんですよぉ」って曖昧で。
すべての撮影が終わった後にも「大丈夫ですか?」って監督に確認して。「大丈夫です!OKです!」って言ってくださるんですけど。完成した作品を観た後も「あれって本当によかったんですかね?」って。公開1週間前までメールで聞きました(笑)「最後のシーンなんですけど…もっとこう…」って。そしたら「いや、妻夫木さん、そうしちゃうと答えを出しすぎちゃうから」って。2月中までそんなやり取りをしていました(笑)
妻夫木聡は共演者の魅力を引き出す「映画役者」

ーー妻夫木さんをキャスティングした理由は?
石川監督:妻夫木さんに関しましては、「妻夫木さんしかいない」っていう。実は、どの役かもシナリオも決まっていない段階で、「とにかく妻夫木さんじゃないか」って打診させていただいたんです。
妻夫木さんって、いろんな方と共演されているんですけれど、妻夫木さんと共演された役者さんもすごい違って見えてくるんです。「主演をはる」ってこういうことなんだって思います。妻夫木さんがいるだけでフレームになってくる。「映画役者」なんだなと。
この企画は妻夫木さんありきで始まったんです。この間もプライベートで観に行ったんですけれど、やっぱり妻夫木さんの映画だなって思いました。
震える声は演技ではない「田中になろうとしていた」

ーー妻夫木さん演じる田中は感情をコントロールする役に見えました。しかし、声が震えてしまっているシーンが幾つかあったと思うのですが、それは演技ですか?溢れてきたものですか?
妻夫木:溢れてきたという言葉の方が正しいのかもしれません。
臼田あさ美さんとのカフェのシーンが、かなり車通りの激しい場所での撮影で。音がかぶってしまうので、後からアフレコをとったんです。実際使われたかは分からないんですけど。
その声を聞いたときに「僕、できないですわ」と言っちゃいましたもんね。もう田中の声になってしまっているんです。微妙なブレスのとり方だったり、発声の感じもはっきり言葉を喋らない感じ。声のトーンが違うんです。なるべく寄せようとしたんですけど、なかなかならない。どうやったか分からなくて、ただのダミ声になっちゃう。それくらい田中になろうとしていた。テクニックじゃない。震えも、その時溢れてきたんだと思います。

イベントの最後に、「これはひっかけて敗れたわけではないんです。デザインです」とダメージ加工のされたパンツについて茶目っ気たっぷりに説明。関係者や観客への感謝を語り、「映画は生き物。皆さんの心の中で渦巻いていく『愚行』を未来永劫考えていってほしいと思います」と語った。
【STORY】
閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件。被害者・田向浩樹(小出恵介)は大手デベロッパーに勤めるエリートサリーマン。妻の友季恵(松本若菜)は物腰が柔らかく、近所からも慕われる上品な美人。ふたりは娘とよく買い物に出かけるなど、誰もが羨む仲睦まじい≪理想の家族≫として知られていたが、田向は1階で友季恵と娘は2階寝室で刺殺された姿で発見され、世間を騒然とさせた。未解決のまま一年が過ぎ、風化していく事件。週刊誌記者の田中(妻夫木聡)は改めて真相を探ろうと関係者の証言を追い始める。しかし、そこから浮かび上がってきたのは田向夫妻の外見からは想像もできない噂の数々だった-。
出演:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田 満
原作:『愚行録』貫井徳郎
脚本:向井康介
音楽:大間々昂
監督:石川慶
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
テキスト:堤茜子
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