ブラジル人が多く住んでいることで知られている、群馬県大泉町。人口およそ4万人、面積は群馬県で一番小さいこの町で今日、「あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例」が施行される。
全6条からなる条例では「町および町民等の責務を明らかにし性別や年齢、国籍等にかかわらず新たな人権侵害が生じることのないあらゆる差別のない社会をつくることを目的としています」として、差別のない社会の実現が目的で、町の責務は人権が擁護された町づくりをすることが謳われている。罰則規定はないものの、差別をしない・させない・見過ごさない自覚を持つよう町民にも求めている。
実は大泉町は全国で2番目に外国人比率が高く、人口の16.3%が外国人だ。中でもブラジル人はその半分以上を占めている。条例は町に住む外国人のために、日本語だけでなく、英語とポルトガル語に翻訳されたものも用意された。
大泉町に外国人が増えたのは、1980年代後半のバブル時代だ。労働力不足を解消するため、大手企業のある大泉に、多くの外国人が出稼ぎにやってきた。1990年に改正入管法が施行されると、日系3世までが定住者として在留資格が与えられた。1989年には1万4528人だったブラジル人の外国人登録者数は91年に11万9333人と、2年間で8倍以上に急増した。
去年5月には国会で特定の人種や民族への差別を煽ることを禁じたヘイトスピーチ対策法が可決・成立した。外国人との共存が進む大泉町にとって、今回の条例はどのような意味を持つのだろうか。
大泉町に住む日系3世の秋元ヴィニシウスさん(29)は、「町民全員が知っているかというと、そうではないのではないか。みんなにとってどんなメリットになるか、知りたいと思っているのではないか」と話し、条例が報じられることによって、むしろ大泉町は差別の多い町、というイメージが付いてしまう可能性も指摘した。
■高い離婚率・生活保護受給率
一方、秋元さんは外国人定住者たち自身の課題を指摘する。
まずは、日本語の習得問題だ。満足に日本語を習得することができていない外国人が一定数存在するという。在日外国人の子どものほとんどが公立学校に通っているものの、両親が日本語を習得できていなかった場合、勉強のサポートが困難となり、学習に遅れが生じてしまうケースが多いのだという。
もう一つは、貧困の問題だ。大泉町で生活保護を受けている外国人は109人と、同町の受給者全体(446人)の24.4%にあたる。秋元さんによると、生活保護を受けざるを得ない世帯では、子どもたちが学校で問題を起こしたり、非行に走ってしまったり、ということにも繋がっているという。受給者の高齢化も深刻だ。
また、秋元さんは外国人たちの離婚率の高さを憂慮する。
「労働時間が長いと子供が学校から帰っても親がいない。帰宅時間が遅いと夫婦でいる時間も取れず、夫婦関係も悪くなる。そのために家庭がうまくいかず、ストレスを抱え離婚したり、子供の教育も手に負えない」。
正社員として雇われているわけではなく、派遣社員として働いている場合がほとんどで、いつ契約を切られてもおかしくないという状況の中、成果を上げようと努力し、結果として残業や長時間労働につながってしまうというのだ。
秋元さんによると、かつては日本で働き、貯めたお金で帰国後に起業・投資していた人も多いというが、今は日本に定住し、帰国しないという意識の人がほとんどだという。
「(定住するならば)日本語や日本の法律やマナーを勉強し、身につけることで仕事の選択肢も増えるし、日本に対してさらに貢献することも可能になる。もちろん労働環境も改善すべきだが、"日本の社会人"としての認識を持っていくことも重要」と話した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)
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