「現代プロレス」対「伝統的なプロレス」―そんな対立構造を煽りながら両国大会になだれこんだ、オカダ・カズチカvs柴田勝頼のIWGPヘビー級タイトルマッチは、柴田のクラシックスタイルの技を受けに受けたがしのぎ切った王者・オカダが、挑戦者・柴田を退けた。
このシリーズの柴田vsオカダの一大テーマであった伝統的なストロングスタイルと、オカダが牽引するモダンなプロレスというイデオロギー闘争、新旧ファンの関心に異常なまでに実直に応える試合内容だった。
試合を通じての凄まじい数の「シバタコール」は、ストロングスタイルへのシンパシーと、「ストップ・オカダ」への期待感が入り交じったものだ。誰もオカダを止められない状況に対する観客の大多数の「柴田推し」の心理は理解できる。
試合開始10分まで繰り広げられたグランドを交えた攻防から、いつものIWGP戦との空気感の違いを感じたものも少なくないだろう。
前半から柴田が古き良きプロレスを体現するような攻勢を仕掛ける、フェイスロック、足四の字、ボード・アンド・アロー、インディアンデスロック、コブラツイストと往年の大技に追い詰められるオカダだが、体全身でこれらのワザを受け、最後の最後で踏みとどまる。
試合の半ば、さらに壮絶さを極めた。柴田の2発の前蹴りに対し、耐えるオカダがレインメーカー、これを柴田が身体全身で受け頭突き、額から出血し仁王立ちする柴田が卍固め、崩れた形でグランドでオカダが固められあわやというシーンも凌ぎきる。
一見、柴田の懐に入ったように見せた張り手やパンチ合戦だが、パワーで勝る王者が試合経過と共にペースを握っていく。柴田優勢かにみえるとオカダのキツい一撃と、振り返るとオカダのコントロール下で試合は経過していったように見える、
後半、柴田がスリーパーで締め上げ、意識朦朧のところをバックに投げ、腕を掴んでレインメーカー式張り手、腕を掴んだPKキックとオカダ流のスタイルを踏襲したなりふり構わないスタイルで最後の追い込みをかける。対するオカダも柴田ばりの前蹴り3発、レインメーカー、それでも後ろに倒れずに前のめりの柴田に渾身のレインメーカー、これで30分を超える死闘に終止符を打った。
敗れたものの柴田この試合で見せた「俺の育った新日本」は、オールドスクールなプロレスいわゆる懐古主義で片付けられない位に非常に魅力的に映った。奇しくも、2試合前の後藤対ジャック・セイバー・ジュニア戦で魅せた関節技やオールドスタイルなプロレス技の数々に対する観客の盛り上がりを見ると、この大会で新日本がもう一つの「未来のプロレス」への可能性を提示したような気がする。地味だが面白い、高度なテクニックにファンが声援を贈る、そんな攻防にブーイングひとつ出るわけではなく、会場全員が固唾を呑んだ。
試合後、柴田勝頼の硬膜下血腫での緊急搬送と手術が明らかになった。「壮絶な試合」と言葉にするのは簡単だがザ・レスラーが全身全霊をかけたIWGP戦は、プロレスの面白さや奥深さを提示できたことは実の多い大会だったといえる。
名勝負だっただけに試合後の余韻をすべてぶち壊したファレの乱入は残念でならないが、、休む間もなくオカダは5月の福岡での対戦が決定。これもまた絶対王者へ定期政権ゆえの宿命であろう。
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