戦場カメラマン、渡部陽一。各国の戦場を記録し続けて20年以上。だが、カメラに収めてきたのは悲惨な風景だけではない。そこに生きる、幼い子どもたちの姿にもレンズを向けてきた。
そんな渡部が今、注目しているのはトルコだ。
去年6月にはイスタンブールの国際空港で過激派組織ISによるとされる自爆テロが起き、44人が死亡、200人以上が怪我をした。今年1月には イスタンブールのナイトクラブで39名が死亡する銃乱射事件が発生、ISはこの事件でも犯行声明を出している。このように、ここ1,2年、トルコではテロとみられる事件が相次いでいるが、その犯行はイスラム国によるものだけではない。去年12月、イスタンブールのサッカースタジアム周辺で起きた爆弾テロで犯行声明を出したのは、トルコからの分離独立を目指すクルド系武装組織「クルド解放のタカ」だった。
そんなトルコ国内の民族間の衝突は日本にも飛び火した。一昨年、トルコ総選挙の在外投票の為に東京のトルコ大使館前に集まったトルコ人とクルド人が路上で衝突するという事件も起きた。
渡部は「今のトルコの姿は"世界の縮図"だ」と表現する。
■トルコは独裁国家へと姿を変えてしまうのか
今月7日、トランプ政権がシリアに対して初めて軍事的行動に出たことで、さらに中東の緊張は高まった。中東はいつも大国が土地や利権、軍事的な利益を得るための戦争を仕掛ける"代理戦争の場"となってきた。
今月16日、トルコでは憲法改正案の是非を問う国民投票が行われる。エルドアン大統領が承認した憲法改正案は、本来、儀礼的な立場の大統領の権限を大幅に強めるもので、国内でも賛否が二分。ヨーロッパ各国は「独裁色が強すぎる」として反発を強めている。
かつて"東西の十字路"と呼ばれた国は独裁国家へと大きく姿を変えてしまうのか。渡部は「もともとトルコという国は中東とヨーロッパを結ぶ架け橋のような国だった」と話す。
「中立の立場だったトルコに周辺国の問題が飛び火、国内で過激派がテロを起こしたり、それに連鎖するようにクルド人の独立問題が起こったりした。さらにエルドアン大統領は政教分離の考え方を改め政治と宗教を絡ませてようとしている。エルドアン大統領に批判的な若者たちがデモを行ったり、国内は分裂状態になってきている。放っておけば内戦が起き、崩壊する可能性もあることから、エルドアン大統領は自分に権力を集中させ、反対勢力を抑え込もうとしている」(渡部氏)。
国民投票で憲法改正が決定した場合について渡部は「今までの政教分離の考え方や、中東と欧米とのバランスがすべてなくなってしまう。エルドアン大統領が考えているのは、中東とも、ヨーロッパとも全て一度分断をして、"トルコファースト"として、国益を最優先する方向に進んでいく」と指摘する。
東京・六本木でトルコ料理店を経営する男性は、「国内で国民投票に反対する声はあまりない。賛成多数の結果となるに違いない」と話す。男性によると、背景には、首相時代に教育インフラ、交通インフラ、医療インフラなど、トルコの生活の基盤を一気に引き上げたという実績があるエルドアン大統領の人気が根強いことがあるという。。「ヨーロッパに対してもアメリカに対しても強く発言できるようになった。、変わらずこのまま行って欲しい」。
いま、世界中で"強いリーダー"、そして"自国ファースト"の風潮が強まりつつあるのだ。
■子どもたちの姿を撮影する理由
中東、そして北朝鮮と、国際政治が緊迫の度合いをますます高める中、紛争や戦争で犠牲になってしまうのはいつも、これからの世界を創るはずの幼い子どもたちだ。渡部が取材で特に子どもたちの姿を撮影するのには、強い思いがあるという。
悲惨な現場の中であっても前向きな力を生み出しているのは、5年後、10年後、教師やエンジニア、あるいは政治家として、国を建て直したいと願う子どもたちの姿だと話す渡部。
「やっぱり自分が生まれ育った国や土地、民族の血を大切に守ろうとする子どもたちが多い。イラクでも内戦はいまだ続いているが、回復してきている地域もある。声を聞けば聞くほど、戦争をしたいと思っている人はどこにもいなかった。国境や民族の問題で紛争が起こり、いつも犠牲になるのは、前線に立つ子どもたち。戦争や紛争で生き残った子どもたちのそうした声を少しでも世界に届けていくことが、カメラマンとして大切な仕事だと感じている」と訴える。
渡部は、これからもそのような視点を持ちながら、シリアやトルコの取材を続ける。(AbemaTV/AbemaPrimeより)