現在、新日本プロレス、いや日本プロレス界全体を見渡してもトップの人気を誇るのが内藤哲也だ。ファンからの支持の熱さは、IWGPヘビー級王者であるオカダ・カズチカと同等、あるいはそれ以上と言ってもいい。
“制御不能”な軍団ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンを率いる内藤の闘いぶりは、まさに型にはまらないもの。インサイドワークに長け、セコンドの介入も当たり前。それでいて絶妙な返し技もあれば寝技も飛び技も。
加えてファンを楽しませているのは、その言動だ。人を食った決め台詞「トランキーロ(焦んなよ)」は有名だが、インタビューや試合後のコメントでも怖いものなし。
マッチメイクに関して団体を批判し、中邑真輔が新日本を離れる際の壮行試合についても「そんなに誇らしいことなのか?」と苦言を呈した。中邑はアメリカに渡り、現在はWWEで活躍中。その中邑をキレイに送り出す必要があるのか。アメリカに対抗する気はないのか、という思いが込められたもので、毒舌であると同時に正論でもあった。
さらに内藤は木谷高明オーナーが新聞紙上で語った、オカダ売り出しの「2億円プロジェクト」についても批判。会社側が最初からプッシュする選手を決めていいのか、というわけだ。
最近ではチャンピオンが出ないトーナメント「NEW JAPAN CUP」にIWGPインターコンチネンタル王者として出場すると言い出すなど、とにかく闘いぶりも言葉も“制御不能”で、その自由さがウケている。
だが、そんな内藤もブーイングを浴びた時代があった。元はといえば正統派、誰よりも新日本に憧れ、棚橋弘至を尊敬していた。しかし個性あふれる選手たちがしのぎを削る新日本にあって、正統派は“無個性”あるいは“つまらない優等生”にもつながってしまう。
2013年、負傷欠場からカムバックし、G1クライマックスを制した時でさえ、内藤はブレイクすることができなかった。翌年1月4日の東京ドーム大会でオカダのIWGP王座に挑戦した際には、ファン投票によって試合順が中邑vs棚橋の前になるという悔しさも味わっている。
そういうところから、内藤はメキシコ遠征でロス・インゴベルナブレス入りし、自分を解放してみせたのだ。武器の一つが毒舌であるだけに、一歩間違えれば観客に引かれてしまう危険性もある。
そんな賭けに勝っての、現在の大ブレイク。内藤の人気、その背景には、ドラマチックな歴史があるのだ。
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