■"亡命説"記事の信ぴょう性には疑問符も‥韓国国内には衝撃
朝鮮半島情勢をめぐって緊張感が高まる中、11日、韓国の大手新聞・朝鮮日報が、情報誌に記載された内容をもとにした記事を掲載した。その内容は「4月末までに中国当局が金正恩委員長の亡命を説得し、失敗に終われば米国が先制攻撃に出る」というもの。
この記事はSNSでも拡散され、韓国国内に大きな衝撃が広がった。『時事ウィーク』紙のジョン・ギェソン記者も「かなり騒然としました。韓国政府は事実とは違うという立場を表明しています。しかし、今回これほど大きく出回った背景には、金正恩氏が亡命しない場合、アメリカが先制攻撃することもありうる、という内容が含まれていたことが考えられます。韓国政府も事実関係を確認することは難しいと思いますし、この緊張状態は4月末まで行われる韓米合同軍事演習が終わるまで続くでしょう」と話す。
今回の報道で金正恩氏を説得しているとされた中国は、ベトナム戦争中の1970年、カンボジアのシハヌーク国家元首が親米右派によるクーデタから逃れるための亡命を援助したといわれている。
金正恩委員長の亡命はあり得るのだろうか。
コリア国際研究所所長の朴斗鎮氏は「大手紙といっても、願望も入っているかもしれない。すでに情報戦・謀略戦の段階にあるため、簡単に信用してはいけない」と話す。また、元韓国海軍少佐で、韓国国防部で北朝鮮の分析官を務めた経験も持つ高永喆氏も「あくまで情報誌をもとにした引用の形で、ソースも分からず、信憑性は低い」とした。
■すでに"金正恩排除"で米中が合意?
ただ、両氏とも「亡命の可能性自体が無いとは言い切れない」と口をそろえる。
背景には、北朝鮮内部の事情と、米中の思惑があるようだ。朴氏は「この身分制度から抜け出すためにも、外から一撃を加えてくれれば変化が期待できる」という国内の空気があるとし、高氏もクーデターの可能性を示唆するとともに「中国側から北朝鮮側に、斬首作戦でやられるよりは亡命したほうがいいと提案した可能性はある」と話す。また、先の米中首脳会談で、核を放棄させることと金正恩氏の除去について両国の合意があったのではないかとの見方を示した。
ジャーナリストの山口敬之氏も「根拠がないことと、真実か否かは別問題」だとした上で、「金正男氏が暗殺されたのは、アメリカによる"斬首作戦"などで自分が排除されることについて相当リアリティを持って受け止めていたからではないか」と指摘する。
「"オバマのやり方が間違っていた"というトランプの発言の意味は、自分の任期中に金正恩がアメリカ本土に到達する核ミサイルを完成させてしまう可能性がある。そんな厄介な時限爆弾をオバマが自分に渡した、という思いがある。それを回避するためには、核を放棄させるか金正恩を排除するかのいずれか、もしくはその両方かだ。そこで金正恩の"亡命"が実現すれば、"金正恩に核を持たせない"という条件は少なくとも満たす。また、中国には資本主義国と国境を接しないという基本方針がある。その意味で、朝鮮半島において北朝鮮の存在は譲れない。そこで、朝鮮労働党の一党支配体制は維持しつつ、金正恩だけ取り替えるというのは、米中が折り合えるぎりぎりの線だ」として、米中の立場からも"金正恩亡命"という選択肢がありうるとの認識を示した。
■米中が次期リーダーとしてキム・ハンソル氏を支援?
もし、金正恩氏の亡命、もしくは"排除"が実現した場合、米中はその後のシナリオをどう描いているのだろうか。
山口氏は、金正男氏の長男・キム・ハンソル氏がYouTubeに投稿した動画にひとつのヒントがあると指摘する。
「"安全な所に暮らしています"と明かしたことと、"アメリカと中国とオランダともう一つの政府に深く感謝する"と述べたこと。金正恩が自分の後に指導者になるのが、金正男だと考えて暗殺したのだとすれば、ハンソル氏はその次の"有資格者"ということになる。そのハンソル氏の脱出と保護を米中が共同で支援したとすれば、同氏を次のリーダーとして支えていく可能性がある」(山口氏)
北朝鮮の政治体制を立て直しに当たっては、韓国、そして経済的には日本や周辺諸国の協力が必要不可欠。山口氏は「だからペンス副大統領や、マティス国防長官、ティラーソン国務長官といった要人が日韓を頻繁に訪れている」と指摘。朴氏も、今回のペンス副大統領の訪韓・訪日の目的のひとつに、そうした問題について話し合うということがあったのではないかと推測した。
■"金正恩氏が亡命の提案を受け入れる可能性は低い"
では、当の金正恩氏が"亡命"の提案を受け入れる可能性はあるのだろうか。それとも"斬首作戦"が実行されてしまうのだろうか。
朴氏は「今の状況では亡命を受け入れさせるのは難しいだろう。金正恩氏はアメリカとの戦争に勝てると思っている。若いから年長者への疑心暗鬼もあるし、出自にまつわるコンプレックスもある」と話す。また、朴氏は金正恩体制になって以来、自らのおじである張成沢氏を始め、自身を諌めようとする100名以上の高官が粛清されており、幹部の家には盗聴器がついているという話もあるとして、核を放棄させるには"除去"するしか方法はないとの認識を示す。
山口氏も「金正恩氏は、核を持っていない反米のリーダーたちが無残な最期を遂げてきたことを知っており、核開発は金日成の時代から始めたという歴史もある。今でも朝鮮半島から米軍を撤退させる夢を描いているので、核の放棄は非常に難しい」とした。
17日、ニューヨークでの会見で北朝鮮の国連次席大使は「アメリカが軍事行動を選択した場合、北朝鮮はアメリカが強く望むいかなる形の戦争にも対応する用意がある」と述べ、朝鮮半島の緊張を煽っているのはアメリカだと強く非難した。
徹底抗戦の構えをみせる北朝鮮。そして武力行使をちらつかせながらも、中国とともに平和的解決の姿勢を模索するアメリカ。次の"Xデー"とされる25日が迫る中、事態は好転するのだろうか。(AbemaTV/AbemaTIMESより)