4月21日に開催されたアメリカの総合格闘技団体「Bellator MMA」(以下:ベラトール)のナンバー大会「ベラトール178」は、これまでUFCに次ぐ「第2の団体」と言われてきたベラトールが、ここ数年蓄えてきたノウハウや、選手育成とベテラン起用という形を象徴するような充実したイベントとなった。
ざっと試合結果を紹介すると、メインイベントで対戦した、フェザー級タイトル戦パトリシオ・ピットブルとダニエル・ストラウスの4度目の対戦をメインにすえ、ピットブルのギロチンチョークで完全決着。セミには間もなく新設される女子フライ級のタイトル前哨戦ともいえるイリマレイ・マクファーレンとジェシカ・ミドルトンの無敗対決は、アームバーでマクファーレンが一本勝ち。
その他にもメインのフェザー級タイトルを狙うネクスト・ジェネレーションといえるA.Jマッキーの鮮烈な蹴りによるKO、ミドル級の有望株でNCAAの3タイム王者エド・ルースの圧倒的な強さなど、若手の台頭も確認できた。
1年ほど前までは「UFCをリリースされた選手の集まり」もしくは「UFCと契約できなかった選手たちのセカンドチョイス」という印象もあったベラトールだが、6月に控えるニューヨークでの一大興行「Bellator NYC」を前に選手の充実度や、KO決着の多い試合内容と、面白い戰いを繰り広げる選手たちにより、競技性を深めているトップ団体UFCよりも「エンタメ系MMA」という立ち位置を確立しつつある。
じわじわと世界のMMAのシーンで存在感を示す「ベラトール」。その抜け目ない戦略は、代表をつとめるスコット・コーカーが、UFCに吸収合併された、かつての第2の団体「ストライクフォース」の代表だったことも影響しているだろう。
UFCは2000年台半ばからWFAやWEC、そして日本のPRIDEなどを傘下に入れ徐々に有力なファイターの引き抜きに成功した。結果WECからはアンソニー・ペティス、ジョゼ・アルド、ドミニク・クルーズ、WFAからはランペイジ・ジャクソン、リョート・マチダ、PRIDEからは、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、ミルコ・クロコップといった具合に世界中のトップをかき集めることに成功した。
そんなUFCの牙城を崩すべくコーカーが率いた「ストライクフォース」は、エメリオ・エンコ・ヒョードルを獲得、後に大スターとなる女子王者ロンダ・ラウジーやミーシャ・テイトなどいち早く女子MMAの礎を築いたものの、資金難から売却されることとなり、志半ばで撤退することとなった。そんな経緯からも再チャレンジとなる「ベラトール」の運営には、コーカーの過去の苦い経験が活きているように思える。
現在のベラトールだが、アメリカの一大メディア企業バイアコム傘下のSpikeによって試合が全米中継される、過去1度PPV放送を2014年に行い好評を得ているが、今度の「Bellator NYC」で2度目のPPV大会に向けてベストなカードを用意している。そのラインナップを見ると、UFCからリリースや離脱組であるチェール・ソネン、ライアン・ベイダー、フィル・デイヴィスといった実力者に、「ベラトール」叩き上げの実力者ドゥグラス・リマやマイケル・チャンドラー、そして何よりコーカーの「ストライクフォース」時代最大の不良債権だったヒョードルのアメリカでの再チャレンジといえる試合が組まれているなど、歴史を知れば感慨深い。
このニューヨークでの興行以外にも興味深いニュースが飛び込んでいる。4月28日に新設される女子フライ級戦線に加わるべく、さらに6人の女子選手を補強したことを発表した。UFCでストロー級戦線から離脱したベテラン、ヴァレリー・レターノー、中国の格闘技イベント「武林風」からナ・リャン、ラス・ヴェガスの老舗独立系MMA団体「Tuff-N-Uff」のクリスティ・ロペス、トルコ人キックボクサー、サブリエ・セングル、そしてアントニオ・ ホドリゴ・ノゲイラ率いるチーム・ノゲイラからジュリアーナ・ベラスケスと多彩な国籍と顔ぶれは、既存のフライ級ファイターたちにも脅威の存在となる。「ストライクフォース」の売却のタイミングを考えると、女子MMAに関してはコーカーに先見の明があったものの、実の部分はUFCに全て持っていかれた感があるだけに、今回UFCが創設していない階級「女子フライ級」にかけるベラトールの本気度を垣間見るような発表だ。
いまだトップ団体は規模、実力ともにUFCが他を圧倒している、そんな状況はまだまだ続きそうだが、近年一部のトップ選手への高額ギャランティに対し、既存のファイターが反旗を翻したり不満、そして離脱が次々とニュースなったりと「UFC独占」の牙城も徐々に崩れそうな雰囲気があるだけに、ここ数年の「ベラトール」の躍進がそろそろ無視できない状況になっているのは確かだ。