決選投票にもつれ込んだフランス大統領選挙は、激戦の末、無所属のマクロン氏が約66%の得票率で、対立候補・急進右派のルペン氏を大きく引き離し勝利した。
勝利演説でマクロン氏は「私はどの困難一つとっても知らないものはない。経済的な困難、社会の溝、民主主義の行き詰まり、我が国のモラルの弱体化も。私の責任は、女性も男性も全員を、私たちを待ち受ける巨大な困難に打ち勝つべくまとめることだ。これからの挑戦はチャンスでもある。デジタル改革や、環境の変遷、ヨーロッパの再出発なのだ。それ以外の挑戦はテロなどの脅しに立ち向かう闘いだ。フランスを愛しましょう、今夜から5年間」と語りかけた。
マクロン氏の支持者は「ずっと長い間待っていた。これはフランスにとって大きな希望。これからは良い方向に進める」「素晴らしいのは、これが新しい出発になること。一度全てを白紙に戻さないといけない。前から存在しているシステムをちょっと修正、調整するのではなく。これは新しいチャンスだ」と喜びの声をあげた。
マクロン氏は、フランス北部出身の39歳。出身学校はシラク氏やオランド大統領など多くの政治家を輩出した名門で、卒業後は投資銀行に勤務した経験があるという。また、オランド大統領の下で経済相を務めた経験をもち、公約にはEUの再活性化や規制緩和などを掲げ、雇用問題についても失業保険の改革をアピールしていた。
一方、大差をつけられた急進右派のルペン氏は、これまで徹底して移民排斥を訴え、負けたとはいえ3割以上の票を獲得。敗北宣言では「私を信頼し、投票してくださった1100万人のフランス人たちにお礼を言いたい。この大量な票獲得という歴史的な結果はつまり、愛国精神、共和主義が新しい大統領の計画に対立しうる一番の勢力であるということだ」と語り、一定の収穫を得た自信からか、笑顔も見せた。
ルペン氏の支持者も「国民戦線にとっては歴史的な数字だ。フランス国民が我々に信頼を置き始めている。私たちを悪者にしようとしたのは失敗だった」「3人に1人がルペン氏に票を入れたのだから、私たちは結局前進している」と今回の選挙を前向きに捉えている。
津田塾大学教授の萱野稔人氏は、今回の選挙の背景に、どれくらい移民問題が要素としてあったのかを判断するは難しい。ただ、世論調査では移民問題についてルペンの主張を信じるという声は非常に多い。程度は別として、何らかのかたちで治安の維持を徹底しなければならないという点では皆一致している。昔からフランスにはアラブやイスラムが怖いという人はとても多い。キリスト教とイスラム教の何世紀にもわたる対立とも重なって、非常に根深い問題」と話す。
また、萱野氏は「福祉予算も削られる中、なぜ移民を入れなければいけないんだという疑問が広がっている。効率的な捜査のためにも人種別の犯罪傾向を調べろという意見や、そうしたデータを出さないメディアに対する不信感も出てきている。EUのせいで、フランスは移民の数もコントロールできない」と、移民問題の観点からもEUとは距離を置くべきだ、という風潮が現れているのだと説明した。
移民問題に対する両者の考え方の違いがクローズアップされ、極右vsマクロンという構図に見えているが、隠れたテーマは「EUに反対するのか、推進するのか」という対立だったと指摘する。そんな中、マクロン氏は、EU推進の立場を掲げてきた。
「知識人も含め、EU推進に懐疑的な人はものすごく増えている。1回目の結果を見るとわかるが、明確にEU推進反対を唱えた候補者の得票を足すと46~48%にも達した。今後、EUの求心力が低下、衰退していく中、マクロン氏はEUを推進、ユーロの価値を下げないために、各国に対して緊縮財政を求めるだろう。フランス国内でも、企業が解雇しやすくする政策、失業公務員削減や福祉予算の削減など、実行に移せば"やっぱりあいつは生活壊す"と、かなりの反発を受けるだろうし、国内政治が行き詰まる可能性もある」(萱野氏)。
また、もともと社会党政権の閣僚だったマクロン氏は、シリアに対して積極的に介入していく可能性も高いのだという。
「左派=反戦というイメージがあるが、フランスでは左派の方が人道的軍事介入については熱心。ただ、EU推進派の立場としてはロシアと距離を取らなければいけないので実際のところは未知数」(萱野氏)
フランスでは来月には国民議会選挙を控え、今回敗れたルペン氏率いる「国民戦線」が大幅に議席を増やすことが確実視されていて、マクロン氏にとって無視できない存在となる。また、政党に属さないマクロン氏は議会に後ろ盾がなく、既成政党に一定の配慮をしなければ政策の実現はままならない。
萱野氏は「マクロン氏が立ちあげた政党『前進』が6月の選挙でどれだけ票を伸ばせるかで、マクロン氏が国政でどれだけ力を発揮できるか決まるだろう。大統領選では、ルペンにしたくないから渋々マクロンに投票した人もいる。マクロン氏が総選挙では勝てない可能性もあるし、EU推進を打ち出せば打ち出すほど反EU派が増えて5年後には国民戦線が躍進する可能性は非常に高い。そういう意味で、ルペン氏にはまだ伸びしろがあるとも言える」と指摘。
世界的に排外主義的な主張が発言権を増し、リベラル派に対する懐疑的な見方が広がっている。萱野氏は「人間にはもともと排外的な部分があるというところから出発して、どのようにしてそれが大きくならないか考えたり、歩み寄れるかを考えたりした方がいい。差別したり、ルペンに投票するのは間違った人間なんだというところから出発すると、抑圧された感情が溜まり、何かの拍子に爆発してしまうことにつながる」と話した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)