9日に投開票が行われた韓国の大統領選挙。元大統領朴槿恵氏の罷免に伴う大統領選とあって関心は高く、暫定投票率は期日前投票分も合わせると77.2%と、前回より1.4ポイント増え、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補が得票率41%あまりを獲得、大統領に就任した。
文氏は、朝鮮戦争で北朝鮮から避難した両親を持ち、学生時代、民主化運動に関わった容疑で逮捕されるものの、その後大統領となる廬武鉉氏と弁護士事務所を立ち上げ、人権派弁護士として活躍。のちに廬武鉉氏が大統領に就任すると、大統領秘書室長などを歴任。日本に対しては強硬派と目されている。
デイリーNKジャパン編集長の高英起氏は、文氏について「非常に紳士的で、人当たりの良い人だった」と印象を語る。さらに、「確かに、北に対して相対的に融和派で、周辺には左派の人たちもいるが、日本で騒がれているほど反日派ではないので、安心しても良いとは思う」と話す。
文氏の勝利について、共同通信の元ソウル支局長・平井久志氏は「文氏の個人的な魅力というよりは、朴槿恵氏を辞めさせた力を次の時代にどうつないでいくのかを示した結果だと思う。しかしそれゆえに文氏への国民の期待は大きい。国民の閉塞感を打開できるような政策を打たないと厳しいのではないか」と話す。
実際に、投票所では「朴槿恵政権は不正などがとても多かったのできれいな政治をしてほしい」「国民が一票を使って選ばないといけない、だから今回は意を決して投票にきました、前は関心が無かったけど今回はある」といった声が有権者たちから聞かれた。
では、今回の選挙を韓国の若者はどう考えるのか。ソウル在住のソ・ジオンさんは「若者みんなが次の大統領の話題で持ち切り。投票に行く人も多く、投票の際に使うスタンプを自らの手に押してSNSに写真をアップするということも流行っていました。北朝鮮との関係がどうなるかよりも、仕事など、自分たちの問題のほうが大事だと考えています。韓国と日本の関係をより良くなれば嬉しい」と話す。
有権者たちにとっては、北朝鮮問題は一番の論点ではなかったようだ。
高氏は「朴槿恵政権でクローズアップされた貧富の格差や、財閥だけがいい思いをするような状況に対して、若い人たちは損をしているという思いが強い。どの候補者も、雇用・経済政策、若者向け政策を打ち出さざるを得なかった」と説明、平井氏も「通常、韓国の大統領選は地域ごとの対立が激しいが、今回は世代ごとの対立が激しい。若い人たちは北朝鮮との戦争になること、徴兵されることを恐れて親北朝鮮派になっているのに対して、高齢の方々は文在寅氏が北朝鮮の言いなりになるかもしれないと恐れている」とした。
元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏は「若者だけでなく、年金制度に対しては高齢者も不満を持っている。韓国経済は非常に厳しく、誰も解決できない状況になっているので、誰が大統領になっても、経済の面では混乱がずっと続くだろう」と話す。
文氏の今後について平井氏は「韓国で議案を通すには国会議員の5分の3以上が必要。現在、文氏の『共に民主党』だけではその数に足りないので、第二野党の国民党などと連携しなければいけない」と指摘。高氏も「野党になったセヌリ党も反撃を開始するだろう。相当厳しい状況が待っている」と話した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)