■「仕事の割に給料が安いイメージがある」
きょうは国家公務員試験総合職、いわゆる「国家I種」の第1次試験の合格発表日。しかし、この"キャリア官僚の登竜門"に挑む学生は年々減少しており、今年度の志願者数は2万591人と、前年から6%も減った。これは1970年度以来、47年ぶりの低水準だ。直近のピークだった1996年度の約4万5000人と比べると、ほぼ半減したことになる。また、都内のある公務員試験予備校によると、国家公務員対策の受講者数は、約2割減だったという。一方、今年度の申込者のうち、女性の割合は35.1%と、6年連続で3割を超え、過去最高を記録している。
キャリア官僚とは、国家公務員30万人のうち、各省の事務次官を頂点とする、およそ1万5000人ほどの人たちのことを指す。政策を作ったり、国会質問に対応したり、予算案を作成するのが主な業務で、試験の合格者たちは将来の幹部候補生だ。
そんなキャリア官僚という職業が不人気になった理由の一つとされているのが、長時間労働だ。国会の開会中は深夜勤務も当たり前で、国会答弁への対応に追われる。国会中継で大臣の後ろを駆け回るイメージとも相まって、敬遠する学生が増えているようだ。
毎年「国家I種」試験の合格者を多数輩出する東大前で学生に話を聞くと、
「父も官僚なので子どもの頃から憧れてるんですけど、仕事の割に給料が安いイメージがある。周りの友達も外資など、民間企業に行く人が多くて、公務員志望はあまりいません」
「なるのが大変な割には外資や大手銀行に比べて給料がよくないので、ちょっとコスパが悪いのかなって」
「気持ちが強い人じゃない仕事だと思う。薄給だけれど、仕事はそれなりに大変」
と、あまり良いイメージを持たれていないようだ。
そんなキャリア官僚の実態について、元経済産業省に15年間勤務した後、ベンチャー企業を立ち上げた伊藤慎介氏に話を聞いた。
伊藤氏は「裏方の仕事に近く、実態がなかなか詳らかにされないので、批判の対象になりやすいと思う。森友学園の問題などを見ていても、何か裏で悪いこといっぱいしてるのかなっていう、イメージが付きやすい仕事なのだと思う」と話し、自身の官僚時代を振り返って「外部からのイメージは悪いと感じていました。誤解されている気がしたし、親戚からも"給料いいんでしょ?"って言われました」と苦笑する。
給与についても、「実際は、45歳を過ぎて課長になって、やっと1000万円に届くかなというくらいで、民間の大企業で働いたほうがもらえるかなと思う。よく言われる官舎についても、かなり偉くならないと、23区内のいい官舎には住めない。私も入省当時、神奈川県の金沢八景や東村山などの物件を勧められたが、1、2年目のものすごく残業多い時期に、通勤に片道2時間もかけるわけにはいかないので…」。
■「与野党のかけひきに法案が使われているのを見ると、やめてほしいなと…」
大きな問題が起きた際や、国会会期中は答弁作成のための徹夜続きも当たり前。霞が関の官庁街は「不夜城」とも言われる。
「本当は1週間くらい前に質問が出されればゆっくり考えられるんですが、野党の先生なんかは前日の夕方ギリギリに出してくるケースも多く、若手は明け方4時、5時までやっていることもあります。特に大臣が答えるとなると、事前に多くの人への説明や確認、許可が必要になってくるので、積極的に答弁を書きたいという官僚はいないのではないでしょうか。政策に精通している議員や大臣経験者の先生の場合、いちいち説明したり、手間をかけた資料を準備したりしなくても大丈夫というパターンも多いんです。でも、頼りない人が大臣だった場合は、どう答弁を作るか悩みますね(笑)」。
ただ、行政としては、法案を国会で成立させることも大きな責務だ。
「政策について国会で聞かれそうなことについて事前に準備しておくのは大前提です。スムーズに国会を通るようにしたいという気持ちがあるので、何百問も想定問答つくって準備しておきます。でも、突発的なことで審議が遅れ、廃案になってしまうと事前の準備が全部無駄になってしまいますし、法案が与野党のかけひきの材料に使われているのを見ると、やめてほしいと思います」。
そんな伊藤氏が経産省のキャリア官僚になろうと思ったのは「面白い発想を持っている人も多く、会う人が皆さん面白くかった」からだという。
「5、6年目になると、大企業の部長さんなどと直接交渉ができるなど、本当に面白くて、やりがいも相当ありました」。それでも伊藤氏が官僚を辞めて起業の道を歩んだのは「元気のあるうちに新しいことに挑戦したかったから」だという。「立ち上げたベンチャーを成功させないと戻るに戻れませんが、機会があれば、また国のために働きたいと思いますね」。
■「もう少し待遇の差は埋まらないか…」
キャリア官僚を志望する若者が増えるためには、どうすれば良いのか。
「外資系企業や国会議員は役人と違って安定した職業ではなく、突然辞めなければならないというリスクもありますが、それでも、もう少し待遇の差は埋まらないかなと思います。また、国家公務員倫理法が出来て、もちろん経費もあるにはあるのですが、公開文書に残さなければならないので、企業秘密に関わる折衝に夜の時間を使う場合、自腹を切るしかありません。政策に関係する企業と飲むときは全て割り勘です」。
また、政治に望むこととして、また、「自民党から民主党への政権交代で、差し入れのカップラーメンが無くなったんです。大臣の部屋に1年目の若手が取りに行き、カレーヌードルかシーフードかの取り合いになるのが恒例で。カップラーメンごときと思うかもしれませんが、そういう小さな楽しみでも、無くなると士気は下がるんです(笑)」と、経験者ならではのエピソードも披露。「国会の構造を変えられないかと思う。企業の場合、社員は皆同じ方向を向いている。本来、国をどうしていくかを建設的に考えていくべきなので、"全員与党"のようにならないか」とも話した。
経済評論家の上念司氏は「景気が悪い時はみんな安定した公務員になりたがるが、いまはアベノミクスで景気が良くなり民間が盛り上がっているので、そっち(民間)に流れている」と指摘する。実際に2018年度春採用の計画調査によると、主要企業の大卒採用は今年に比べて8.3%増加するという。また、「アメリカのように答弁や法律は議会スタッフが書くという仕組みにしたり、民間企業と公務員が行き来できる制度にしたりすべき」と指摘した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)
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