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■「はしたない。日本人の恥だ」との批判も浴びた

前編からの続き)当時アメリカに無かった"甘辛い味付け"で一大旋風を巻き起こした「ヨシダソース」。その発明の親が吉田潤喜氏だ。19歳で単身渡米し、空手道場を開き、一時は200人の生徒を抱えるも、不況で苦境に立たされる。その後クリスマスのお返しのプレゼントでたまたま作った実家のソースが生徒に大人気となり、いよいよ自らソースの販売に乗り出すことになった。

 ソースを売るために吉田が行ったのが実演販売だった。自ら店頭に立ち、ソースの購入を呼びかけた。しかし、もともと空手で生計を立てていた身である上、当時のアメリカでは店頭販売自体に馴染みがなかった。試食してもらうところまでこぎつければ、絶対に買わせる自信はあったにもかかわらず誰も手に取ってくれない。

 「ちっとも売れませんでした。それどころか白い目で見られてね。今まで頭を下げたこともない。ソースの売り方なんてわからなかった」。

 そこで閃いたのが生まれ故郷の京都の下町の風景だ。「寄ってらっしゃい!おばはん!」と、威勢よく声を張り上げる下町の商店を思い出した。「徹底的に目立ったろ」。吉田はすぐさまカウボーイハットに着物、下駄という出で立ちで店頭に立った。そこからヨシダソースの"名物"とも言うべき、あの奇抜なパフォーマンスが始まった。

 ある時はバニーガールの衣装を着て店頭に立ったこともある。しかし、空手道場に通う日本人生徒の親から「はしたない。日本人の恥だ」との批判の声も上がった。だが、そんな声ではくじけない。「ほんならもっと目立ったろ」と、エルビス・プレスリーの衣装で登場したのだ。さらにはピンクのバレリーナの衣装でCMに現れ、ソースを売りまくった。

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 そして、この大胆な販売戦略がついに実を結ぶ。店内で撮影が行われていたテレビの映像に、吉田が見切れていたのだ。次の日にはすべてのソースが品切れに。

 「とにかくギャーギャーわめいて目立ちまくる。自分を売り込みまくったんや」。

 結果、地元の料理番組にもレギュラーで出演するように声がかかった。料理はズブの素人の吉田だったが、ここでもそのキャラクターを遺憾なく発揮、打ち合わせもほとんどない状態で番組に出演し、頻繁に起きるハプニングも"コンテンツ"にしてしまった。

 「料理番組っていうより、コメディショーやね。おでこが火傷したり、フライパンに入れたゴマが爆発したりね」と笑いながら振り返る。番組は大人気になり、6年も続いた。

■深夜に38口径のピストルを頭に突きつけていたことも

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 かくして「ヨシダソース」は、DELLやIntel、FedExとともに、今や中小企業局が選出する全米24社の殿堂入りを果たしている。

 かつての空手の教え子の中にナイキ創業者の次男がいたことも幸いし、エアソール部分の輸送の独占契約を締結。年間2億足分を輸送するきっかけも掴んだ。「人生は全部アクシデント。ソースを思いついたのだって、貧しくてクリスマスのお返しが無いから手作りした"アクシデント"がきっかけだったからね」。どんな状況でも「アクシデント」から次なる一手を見出すのが吉田の考え方だ。

 しかし、「アクシデント」に襲われたこともある。住宅付きゴルフ場の投資への失敗だ。当時バブルの渦中にあった日本人の仲間とともに大規模投資を行ったが、日本のバブル崩壊により相次いで撤退、残されたのは月間維持費300万円という、建設中のゴルフ場だった。自宅を売却、ゴルフ場の中の小さな家に引っ越し、「ソース事業も売ろうかと思った」というほど追い込まれた。深夜に38口径のピストルを頭に突きつけていたこともある。

■「もっと飲め」酒に溺れる吉田を叱咤した妻

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 これまで吉田は4度も破産危機に瀕している。「1回目、2回目の破産危機はね、ホントに銀行の奴ら全員殺したろかと思っていた」。

 「週明け破産申し立てしよう」。そう思って酒を飲み干し、さらには料理酒まで飲み、すべてを嘔吐するほど追い込まれていた。そんな吉田を支えてきたのが妻・リンダの存在だ。酒に溺れた吉田を見たリンダは玄関先でウイスキー片手に「もっと飲め。明日この家を売ってアパートに移るから」と叱咤した。「この女には勝てない」。気づくと吉田は涙を流していたという。

 二人の出会いは吉田が大学で空手を教えていた頃にさかのぼる。見学に来ていたリンダに惚れた吉田は、わずか2回のデートで求婚。戸惑うリンダの前で吉田は当時吸っていたマルボロのタバコを自分の手に押し当て「お前がOKと言うまで、俺はこうしているとプロポーズした。

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 それから44年が過ぎた。リンダ夫人は吉田との結婚生活をこう振り返る。「エキサイティングで、楽しくて、こんなにたくさんのことが起きるなんて、はじめはわからなかった。だからいろんなことにチャレンジしないと退屈しちゃうの。潤喜と結婚して、素晴らしい旅は続いているわ」。

■アメリカって国はもう一回やり直せる文化がある

 「崖っぷちに立たなアカンねん。『これ以上行ったら潰れる』っていう時にポッと扉が開くんや。だから、『絶対成功するんや』っていうパッションが大事」と経営理念を語る吉田。山あり谷ありの人生を送り、まさにアメリカンドリームを体現している。

 そんな吉田は、日本とアメリカの決定的な差を指摘する。「敗者復活戦があることや。スティーブ・ジョブズだって会社を追い出された時期がある。それでもアメリカって国はもう一回やり直せる文化がある」。

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 「Keep on Dreaming 夢を追い続けろ。小さくても夢を追い続けなさい。夢がある限りエネルギーがあるから。それを確認するのはListen your heart」と吉田。「もうすぐ天からお迎えが来る年になった」と豪快に笑う吉田の旅は、まだまだ終わりそうにない。(AbemaTV/「創業バカ一代より」)

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極めたければバカになれ!創業バカ一代
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