19日、野党の怒号が響く中、衆議院法務委員会で「テロ等準備罪」、いわゆる「共謀罪」法案の採決が強行された。
そもそもこの「共謀罪」は小泉政権時代、思想や内心を処罰すると世論の激しい批判を浴びて3回にわたり廃案に追い込まれている。政府は今回、「テロ等準備罪」と名前を変え、オリンピック開催国の責務だとしてリベンジにうって出た。野党側の最大の懸念は一般人が監視されることだ。一般の人と犯罪集団を区別する基準はあいまいで、捜査権の乱用が懸念される。
元警察官僚の平沢勝栄衆議院議員は「もし反対があるとすれば、警察が与えられた権限を無茶に使って捜査権を乱用するのではないかとか、そういったことだと思うので、そこは捜査当局を信頼してほしい」とインタビューに答えている。
しかし戦前の治安維持法のように言論が封じられ、監視社会になってしまう危険性を指摘する声もある。ジャーナリストの田原総一朗氏は今年4月、「戦争を知っている最後の世代としてはどうしても治安維持法を思い浮かべます。そっくりです、構造が」と述べ、漫画家の小林よしのり氏は「権力の恣意的な形で『こいつらはテロ集団だ。テロ集団に変容したから監視してもいい』っていう世の中にするとまずいです」と懸念を示した。
例えば、辺野古の基地移転反対運動や一昨年の安保法制反対デモが監視され、市民運動家や労働組合関係者への弾圧が厳しくなり、運動が萎縮することを危惧している。
「共謀罪」の処罰対象は、テロ集団その他の組織的犯罪集団だが、元々正当な活動をしていた団体でも犯罪目的に性質が変わった場合は監視対象となるとされている。捜査機関の判断次第で一般人や市民団体も対象となる可能性がある。
また、「犯罪の計画」に加え、資金手配や下見など「準備行為」をした場合という適用要件が加わった。この「犯罪を計画した段階で罪に問う」という点が過去の共謀罪と同じだという指摘もある。さらに対象となる犯罪の数は計277。テロの実行では組織的殺人やハイジャックなど110の罪があげられている。他には薬物犯罪が29、人身売買、強制労働、臓器売買などが28、その他資金源など101の罪があげられている。この中には切手の偽造や文化財の損壊、希少動植物の捕獲なども含まれる。このようにテロの実行に対するものが半分以下でその他の対象犯罪が含まれているため、テロ対策になるのかと疑問が投げかけられている。
自民党・参議院議員の青山繁晴氏は「そもそも共謀罪ではなく、テロ等準備罪。悪質な犯罪集団で、暴力団とか人身売買、薬物の取引をしているとか、その組織に参加していないといけない。その組織で犯罪を目的として計画しないといけない。そして計画だけではなくて、その実際の準備、例えばテロの場合だったら爆弾の準備をしないといけない。仮に人のタケノコを取るということなら、窃盗罪」と説明し、一般市民が対象になるという懸念はあたらないとの見方を示した。
さらに「なぜ暴力団とテロの話になるかというと、そもそも国連で議論した。その時にテロの根っこの一つは資金源だと。かつては中東の王様がおカネを渡したりしていたが、油の値段が安くなったこともあって、そのおカネを作れなくなった。暴力団と結託して誘拐したり、ヘロインをやったり、覚醒剤をやったり、文化財を盗って、売ってテロ組織におカネを渡すことがあるから、それを止めようと国際社会で話をした」と経緯について説明した。
民進党・衆議院議員の逢坂誠二氏は「組織に入っているか入ってないかということは調べないと分からない。『捜査』が必要。その時に問題になるのは、一般の方々を調べなければ、本当にこの組織に入っているかどうかは分からないということ」と問題点を指摘した。
さらに逢坂氏は「テロ等準備罪の呼称は正式名称でも何でもない。最初は法文の中にテロという言葉は一つもなかった。ところが途中でテロ集団その他の組織的犯罪集団という文言が法律の中に入った。ところがテロ集団という言葉に対する定義が法律上ない。なぜないのかというと、これは単なる例示であると。例示だから定義はいらないと。だからテロ集団の所を暴力団と置き換えてもいいし、薬物組織犯罪と置き換えてもいい。これは単なる例示で、テロということを前面に押し出したいという政権側の意図が透けて見える。だから本当はテロとは関係のない法律なのではないか」と議論の経過を述べ、懸念を示した。
ジャーナリストの江川紹子氏は「青山さんは『調べられたら何が悪いんですか』とおっしゃった。それだったら、そう言えばいい。一般人が調べられることもあるけれど、こういう法律が必要なんだということをちゃんと説明すればいい。ところが法務大臣は『一般人が捜査の対象にならない』と。『嫌疑があるかどうかの調査の対象にすらならない』と言った。警察官は人の心の中とか全生活が分かるわけじゃないから、やっぱりどうかなと思った時にはちゃんと調査をしたりしないといけない。そういうことがあるけれども、必要なんだとちゃんと言えばいいのに(言わない)」と政府の説明に対して疑問を呈した。
青山氏は「資金源をどうやって断つかという問題などたくさんの要素がある。」「テロ対策の一種。おカネのこともあれば、人のこともある」と「共謀罪」法案がテロ対策であることを強調した。
江川氏は「この法律を使ってどうやってテロを止めるのか。例えば、法案審議で出てきたのはタレコミということ。組織の中の人が通報した場合。他には、別の事件を捜査していた時にたまたま見つかった場合。この2つくらいしか法務省はこの法律の活用方法を言えない。実際にテロが起きそうな計画がされている時に、この法律で具体的に止めるのか」と法案の実効性に疑問を呈した。
江川氏の疑問に対し青山氏は「この法律だけでテロを全部止めることはできない。テロ対策は誇張ではなく何百とある。それぞれの分野の専門家も細かく分かれている。その中で資金の問題は大きい。江川さんのおっしゃることは分かるが、このまま日本がTOC条約、この条約に入っていないと、仮に日本でテロが起こってその犯人が外国に逃げたとすると追いかけられない。引き渡しを受けられない。仮にこの法案が国会を通らないとすると、日本で(テロ組織が)資金を作ることができる」と答え、この法案がテロ対策であることを重ねて強調した。
逢坂氏は「条約に入ることは我々も賛成している。だが条約に入るためになぜこれほど広範囲に277もの罪について共謀罪を設定する必要があるのかが理解できない。条約にはすぐに入ったらいい」と述べた。
青山氏は「花火の打ち上げ場所を下見に行ったら罪になるのかという議論があった。花火の現場で爆弾を爆発させる計画があって、その計画を(捜査当局が)確認できて、下見に行っていることが確認できないと取り締まれない」と述べ、国会でも議論された準備行為に対する懸念はないとの見方を示した。
それに対し逢坂氏は「それ(準備行為の規定)が非常にあいまい。金田大臣はこういった。『ビールと弁当なら花見だ。双眼鏡とメモと地図ならこれが下見だ』と」と反論した。逢坂氏は「今回の共謀罪の問題点は、犯罪をしていないのに罪になる範囲が広がること」と述べ、捜査の手法が変わることへの懸念を示した。この点の議論がまだ深まっていないという。
江川氏は「メリット、デメリット両方ある。例えば監視カメラがあれば犯人が早く見つかるメリットがあるけれど、逆にプライバシーの問題もある」と述べ、議論を深めて、世論を形成すべきだとの認識を示した。
様々な論点がある「共謀罪」法案。参議院での審議にも注目される。(AbemaTV/みのもんたのよるバズ!より)
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