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 政府が推し進める働き方改革、そのメスはついにAV業界にも入った。菅官房長官は、「いわゆる、アダルトビデオへの出演を本人の意に反して強要される問題やJKビジネス問題など、若年層の女性を狙った性的な暴力の問題は極めて重大な人権侵害である」と見解を示している。

 内閣府の調査では、モデルとして契約した女性のうち約4人に1人が契約時に聞いていない性的な行為などの撮影を求められている実態も明らかになり、ついには政府が対策に乗り出す事態に発展。一部では、撮影時の本番行為自体を禁止する話まで飛び出している。

 統計学者の鳥越規央氏によると、「現在のAV業界の市場は年間売り上げが550億円。10年前の800億円から比べると下がっている。売り上げは下がっているが、販売されるタイトルは約10年前の月1000本に対して現在は月4500本と多くなっており、AV女優の人数も10年前から倍増し約1万人いるとも言われている。単価が下がっているのはなく、格差が生まれている」という。

■AVの帝王・村西とおる氏「当時は年商100億円」

 そもそもAV業界とはどのような業界なのか。

 日本のアダルトビデオの一時代を築き上げ「AV界の帝王」と呼ばれる村西とおる氏に、AV業界の現状について話を聞いた。

 村西氏は1948年、福島県生まれ。英会話のセットセールス、テレビゲームリース業を経て「裏本の帝王」となり、その後AV監督になる。これまで3000本以上のAVを制作してきた時代の寵児だ。

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 監督時代は「ナイスですね~」のフレーズでお馴染み。規制が強かった当時の日本で「ぶっかけ」を生み出し、今ではアメリカでも「bukkake」で通用するほどメジャーになった。また、「リアルの性を証明しなければいけない」との動機から、AVに“本番”を持ち込んだのも村西氏だ。

 村西氏に当時の話を聞くと、「当時のビデオは1万5000~6000円。あるビデオはレンタルショップ向けに1万本くらい売れ、その上、直接現金封筒で8万人が申し込んできた。年商で100億円くらいだった」と豪語する。

 製作費は今ほどかからず、アンダーヘアーが規制されていた当時は、わき毛を売り出したビデオでブームを起こすなどアイデアで勝負した。また、直接女優と雇用契約を結ぶ専属契約制度を導入するなどビジネスとして確立。当時の有名女優で、最盛期には1本800万円、1年間で9600万円の収入があったという。

 村西氏は、「AV女優はすごくハードルが高い。見てくれだけではダメ。脱いでOK、テクニックも心も頭もよくなければいけない。自己申告では成り立たず、需要がなければAV女優として存在できない。需要とは厳しい視聴者の目で、AV女優のハイクラスは1000人に1人。総合力が求められる」と力説する。

 元日経新聞記者で元セクシー女優でもある作家の鈴木涼美氏は、AV出演強要問題について、「悪いプロダクションの社長がちゃんと詳しい説明をせず強要する場合が多い」という。村西氏も「AV業界全体が忌まわしい、おぞましい業界だという見方はしないで頂きたい」と話した。

■AV女優になる理由は「風俗単価をあげる」ため?

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 実態が掴みづらいAV業界のナゾについて、鈴木涼美氏が解説してくれた。

(1)「AV女優になる理由」

 鈴木氏によると、「有名になりたい」「まとまったお金が入る」「ホスト・スカウトと色恋になる」「強要される」といったほかに、最近では「風俗単価を上げるため」という理由が多いという。「たとえばソープランドで『現役のAV女優』というと人気があがる。それでAV女優としてみたいという一般男性から需要があり、風俗で人気が出ない子が箔をつけるために出る。ほかにも、『アイドルがAVデビュー』という肩書きのために、売れる・売れないは別としてアイドル活動をする子も結構いる」と話した。

(2)「AV女優の契約形態」

 単体と企画女優の違いについて鈴木氏は、「単体は1人で出ている女優、企画女優は何人も出ているうちの1人とよく勘違いしている人がいるが、単体は1つのメーカーと専属契約を結び、月に1本そのメーカーからAVに出ている女優のこと。女優を縛っている分ギャラも比較的高い。一方で、企画女優はそういった契約がなく何本出てもいい。ギャラもピンからキリまで」と説明する。そして、両形態ともAVに出る前に細かく多岐に渡る質問事項があるようだ。鳥越氏は、「AV女優の過多の現在、メーカーでは毎月100人位面接しており、合格率は1~2%」と厳しい世界になっているという。

 また、AV業界と裏社会との関わりについて質問された村西監督は、「AV業界はヤクザ的な人達とは一切関わりがないから今日まで来た。ヤクザ的な人達は女性を商品として見られない。自分の女だとか囲い込む対象として見てしまう。我々は非常にクール。ビジネスライク、スクラップアンドビルドの世界。マーケティングも含めてできたから、その筋の人達は参入できない」と説明した。

(3)「撮影現場の実態」

 鈴木氏によると、「昔と違い今はテレビドラマの撮影現場とほとんど変わらない。大勢のスタッフが周りに居て、その中でAV女優(特に新人)はお姫様状態」だという。スタッフはとても優しく待遇はいい。村西監督は「今は女優が力を持ち過ぎ、そのうえ慎重になり過ぎて、作品がつまらなくなっている」と憂えた。

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 では、撮影契約は本当に守られているのか。

 ある現役AV女優は、「現場に行くとNGが撮影項目に入っていたことも。事務所を通して折り合いがつけば受け、折り合いがつかなければ削ってもらった。自分で意見を言えない女優は守られないこともあると思う。単体女優契約の場合、本数とギャラが決まっている。でも企画の場合は体調不良で現場がバラシになれば、メーカーからスタジオ代・スタッフ代など請求がくる。少なくとも10万円~100万円位になる。これをすべて女優が持つか、事務所との折半か、あいまいでグレーゾーン」と明かした。

■村西氏、AVは「嘘でなければ真実を描けない世界」

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 村西氏は、AVを「嘘でなければ真実を描けない世界」と語る。近親相姦の経験がある親子が面接にきたエピソードを明かし、「実際に見ると全然興奮しないしエキサイトもしない。日常的にやっているから。背徳の世界を描こうとすると、セリフやシチュエーションがあってこそ盛り上がる。高橋さんたちの世界と同じ」と芸人に例えて説明した。

 今後のAVの課題について村西氏は、「知り合いの芸能リポーターに聞くと、AV女優にインタビューすると騙されちゃってとか、無理やりやらされた、とか訴える女優が多い。なぜそんなことを言いながら今でもAV女優をやっているんだと。毅然としてほしい。女優で濡れ場をやらない女優はいない。人間の男と女の愛を描くときには自然だ。それを描かずして、人間を描くことはできない。AV女優、プロダクションなど皆で意識改革をしていかないと、蔑まれる存在になってしまう」と語った。

 また、鈴木氏は「昔と違って映像がネットに残ることが問題。誰でもたやすく手に入れられる。もちろん過去のAV出演は消せない。それを承知で出ていると言われればそれまでだが、19歳や20歳の子に一生残るものを判断する力がついていない場合も多い。たとえば10年経って申請したら配信を止められる制度があればいい。後から背負うものが大き過ぎる」と話した。(AbemaTV/「勝手に出口調査」より)

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