大学の入学式で、読み上げられた式辞の中に、有名な曲の歌詞が使われた場合、著作権料を払わなければならないのか。ネット上での、著作権管理の難しさが浮き彫りになる出来事が起こった。
事の発端は、京都大学で4月に行われた入学式だ。総長の山極寿一(やまぎわ・じゅいち)氏は、「自由な発想」を示す1つの例として、アメリカの歌手・ボブ・ディランの代表曲の1つ「風に吹かれて」の歌詞を引用して式辞を述べ、その内容を大学のHPにそのまま掲載した。
しかし、これに対して音楽の著作権を管理するJASRACは、「『歌詞の引用・掲載』の手続き方法の確認を…」と直接大学に連絡。するとネット上などでは、「そこまでするのか」などと批判が殺到する事態となった。
こうしたなか、JASRACは5月24日、定例会見を実施した。JASRAC側は会見中、今後、著作権料を求めるかどうか明言を避け続けたが、会見後に「請求しない」と断言。JASRACの浅石道夫理事長は「(請求は)してない。請求するなんて一切言ってない。いろんなケースバイケースで決めなきゃいけないわけですよ。主従の関係だとか、出典の表示とか。非常に難しい問題です。『引用』については」と、難しい判断を迫られたことを印象づけた。
■歌詞引用に重要なのは「明瞭区別性」と「主従関係」
今回、JASRAC側が「請求しない」と判断した根拠は、掲載された歌詞が、著作権法が定める「引用」の範囲内だったということにある。
一般のネットユーザーでも、ウェブサイトに「歌詞」を掲載する可能性は十分に考えられるが、どう掲載すれば引用とみなされるのか。骨董通り法律事務所の岡本健太郎弁護士は、特に大事なことが2つあるという。
「1つ目が『明瞭区別性』というものです。これは引用する側と引用される側が明確に区別されているということ。2つ目が『主従関係』と呼ばれるものになります。今回でいえば、総長自身の発言が主(メイン)であって、ボブ・ディランさんの詞が従(サブ)である必要があります。これは“誰が作ったどういった作品”ということを表示することも1つのポイント」と述べた。
■ハフポスト竹下氏「JASRACの考えが古い」
今回は、JASRACと京大の間で一定の方向性が出たかたちだが、これとは別に「音楽教室での演奏」をめぐっても、JASRACと音楽教室を経営するYAMAHAとの間で対立が起こっている。
この問題の争点は「演奏権」だ。「公衆に見せたり聞かせたりする目的で演奏する場合、その曲の作曲家や作詞家の許諾をとる必要がある」という観点では著作権料が発生するが、JASRAC側が「公衆に聞かせる目的」と主張するのに対し、ヤマハなど音楽教室を運営する一部の団体は、あくまで「教育目的」として反対している。
一方で、「音楽文化の発展」という視点では、音楽教室側が「レッスン料の値上がりにつながる」「著作権のきれた曲、たとえばクラシック音楽ばかりの演奏になる」と文化発展の妨げにつながると考える一方で、JASRACは「徴収した料金を著作者に分配することが音楽文化の発展」という立場をとっている。
これに対して、ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏は「JASRACの考えが古い」と話す。「今はネットが出てきてユーザーの時代になっている。ユーザーがコンテンツを広げる大きなパワーを持っていることにJASRACは気づいていないのかなと。音楽をプレイしてネット上にあげて、その歌手が有名になったりする。それによって産業が成り立っていく」と話した。
また、アーティストにお金が入るルートが変わっていることに触れ、「例えば、アメリカではタダで自分の音楽を公開するが、代わりにライブを開いてそこでお金を取る“方向転換”が少しずつ起こっている。JASRACも権利は大事だが、そういった新しいビジネスについてどう考えているのかが見えない。そこが説明されていないので不信感があり、権利を守ろうとしている団体に見えてしまう。『著作権料を払ってください』というときに、将来的にはこう考えている、ネット時代にはこういう意見を持っている、ということを主張する必要がある」と指摘した。
(AbemaTV/『けやきヒル’sNEWS』より)