<東京女子プロレスのエース・山下。アプガがDDT初登場を果たした2013年8月の両国大会でリングデビューしたという縁もある>
現在のプロレス界では大会にアイドルがゲスト出演することも少なくないが、“文化系プロレス”DDTはさらに一歩踏み込んだ企画を打ち出してきた。
5月29日の会見で発表されたのは、アイドルグループ・アップアップガールズ(仮)、通称アプガとの新プロジェクト。「アップアップガールズ(プロレス)新メンバーオーディション」として、真剣にアイドルを目指し、同時に真剣にプロレスラーを目指す人材を発掘・育成しようというものだ。
合格者はアプガの妹分グループとして夏にアイドルデビュー、年内にCDデビュー、さらにレスラーとしても来年1月に予定される東京女子プロレス(DDT系列の女子団体)後楽園ホール大会でデビューすることになる模様。アプガにはすでに妹分グループのアップアップガールズ(2)=2期がいるから、3番目のアプガ系グループだ。
東京女子プロレスではLinQの伊藤麻希、筋肉アイドルこと才木玲佳がプロレスラーとして活躍中。芸能人がプロレスにチャレンジしたり、レスラーがアイドル的人気を獲得して歌手デビューしたりというパターンはこれまでにもあったが、今回のプロジェクトは完全同時進行なのがポイントだ。歌って踊って闘える、そんな新たなスターを発掘、育成しようという試みである。
会見では、アプガの新井愛瞳が「アイドル戦国時代から、アイドルプロレス戦国時代へと盛り上げていきたいです」とコメント。東京女子プロレスのエースである山下実優もアイドルを目指していた時期があるだけに「アイドルは(リング上でも)キラキラしているのが強み」と言う。
<アプガ(プロレス)企画を知らされ驚愕のメンバーたち。しかし表情は喜んでいる。前列左から2番目の佐保は「佐保黒帯」としてデビューか>
もちろん、プロレスが芸能と絡むことに拒否反応を示すファンもいるだろうし、ましてアイドルとなると偏見を持たれる可能性もある。「またアプガが変なことやってる」と思うアイドルファンもいるはず。
とはいえ、アプガはもともと独自のスタンスで活動してきたグループ。ハロー!プロジェクトの研修生ハロプロエッグを「やめさせられて」(仙石みなみ)集まったメンバーが負けん気を武器にステップアップしてきた。昨年は日本武道館公演も行なっている。
その活動は、まさに気合い&体力勝負。「富士登山をして山頂でライブ」、「“陸の孤島”でステージも自ら設営して泊まり込みでライブ」、「MCを挟まないノンストップライブ」などチャレンジの連続だった。
メンバーの森咲樹はアイドルイベントのアームレスリング大会で優勝。また佐保明梨は“破壊王”のニックネームで知られ、空手黒帯である。ライブではバット折りや氷柱割りを披露。最近では今後の目標として「亀田興毅と闘って1000万円取りたい」とも語っており、精神的にアイドルというよりファイターなのはファンならよく知るところ。
古川小夏はダンスのキレ、激しさがアイドル界でも随一と言われる存在。アプガの特徴の一つが鍛え上げた「アスリート脚」であることは自他ともに認めている。また関根梓は現在、公開ダイエット中で、本格的なトレーニング姿も披露。実はアプガにはフィジカルトレーナーがついており、担当する足立光氏はオカダ・カズチカら一流選手への指導でも知られる名トレーナーだ。足立氏はアプガ(プロレス)にもトレーニングを施すことになる。
そんなアプガの“アスリートアイドル”ぶりはDDTとの相性もよく、2013年の両国国技館大会にゲストで登場したのをきっかけに、『アップアップDDT(仮)』という合同イベントも開催。その第2回では、工場を舞台にした路上プロレスにも挑んだ。また最近では破壊王・佐保がDDT勢登場のネット番組『ぶらり路上プロレス』で大乱闘を展開している。
そうしたコラボの歴史を踏まえた上で、DDT・高木三四郎“大社長”の「もう一つ上のステージに」という思いもあって、今回のアプガ(プロレス)プロジェクトとなった。『豆腐プロレス』で女子プロレス、アイドルとプロレスが注目されているという背景も意識しているという。
<5月29日の会見に出席した高木大社長、アプガ(仮)メンバー、アプガ(2)吉川、東京女子プロレス・山下、足立トレーナー>
DDTはアプガだけでなく芸能界とのコラボが抜群にうまい。赤井沙希をデビューさせ、LiLiCoも活躍。アプガ初登場の両国大会では、坂口征夫&坂口憲二の“兄弟合体攻撃”も実現している。昨年はプロレスと音楽を融合させた『DDTフェス』開催も話題になった。付け加えると、東京女子プロレスの代表を務める甲田哲也氏は業界屈指のアイドル好きで、新人募集に『「元気印」オーディション』、『新世紀オーディション』、キャッチコピーに「今すぐ飛び込む勇気」とつけるほど。それだけに、今回の企画でもアイドルファンが嫌がるようなことはしないと断言していい。
会見でプロジェクトを聞き、最初は驚いていたアプガメンバーだったが、何にでも前向きなのがアプガらしさ。アプガ(プロレス)にも参加してほしいという大社長の勧誘に、佐保はつい引き込まれてしまい、「佐保黒帯」というリングネーム(仮)まで披露することに。また大社長は卒業を控えた仙石、佐藤綾乃、さらに2期の吉川茉優も誘うと、佐藤は「検討します」、吉川は2期に合格した嬉しさがあるためか「合格という言葉には弱いので」と、まんざらでもない感じに。
あげく、このニュースを聞きつけたLinQ・伊藤まで「センターになりたい」とツイッターで立候補するなど業界にもファンにもインパクトを与えているアプガ(プロレス)企画。大社長によれば、有望な応募者が多ければグループでのデビューだけでなく新団体旗揚げの可能性もあるという力の入れようだ。
実際のところ「プロレスもアイドルも両方やりたい」という女性がどれだけいるかは未知数。しかし“技術だけでは評価しきれない世界”“努力する姿勢こそがファンから愛される”“どれだけ自分を表現できるかが最大の勝負”など、アイドルと女子プロレスには共通点も多い。
「アプガに憧れてプロレスラーになった」、「DDTが好きでアプガの妹分アイドルに」というと意味不明かもしれないが、だからこそ新しい魅力を持ったレスラー/アイドルになるのかもしれない。
文・橋本宗洋