公正取引委員会は6日、企業がデータを囲い込み、消費者や取引先が不利益を被る場合には独占禁止法を適用する考えを示した。
公表された報告書では、アメリカのフェイスブックやグーグルなどを念頭に「大量のデータが一部の事業者に集中しつつある」と指摘した上で、「巨大企業のデータ独占状態が続けば、他の企業による技術やサービスの提供機会が狭められ、企業間の競争が阻害される可能性がある」とし、少数企業によるデータの囲い込みや不当なデータの収集、別用途での使用などが問題点であると指摘している。
インターネットの巨大企業は、登録された個人情報とネット検索や買い物の履歴などの膨大なデータを蓄積し、利益に繋げている。経済評論家の川口一晃氏は「ビッグデータを持つことで販売方法やビジネスチャンスの形態も変わってくる。今後、ビッグデータを持っている、持っていないで企業間格差が生じてくる可能性もある」と指摘する。
そんな"データの独占"にメスが入るかもしれないという今回の報告書。
立教大学ビジネススクールで企業戦略やマーケティングを専門に研究している田中道昭教授は「ビッグデータが世の中にとって非常に有用性の高い資産になってきた。囲い込みをされると公正な競争や自由な競争を阻害するだろうという問題意識があるのではないか」との見方を示す。
「"メガテック企業"と呼ばれるグーグルやアップルなどのサービスには、他の企業では有料になるものが無料で使えるケースが多い。一度使ってしまうと、ユーザーが他の会社に乗り換えるのが難しい状況が生まれる」と指摘、「その企業が規約を変更し、『今後はこういった情報を提供しないとサービスが使えない』という要求をした場合、選択肢がない消費者は受け入れるしかない」と話す。
株式時価総額の世界ランキング(今年5月末現在)を見れば、上位企業にはこうしたデータを収集・活用しているメガテック企業の名前が並んでおり、その影響力は一目瞭然だ。
1位 アップル
2位 アルファベット(グーグルの持ち株会社)
3位 マイクロソフト
4位 アマゾン・ドット・コム
5位 フェイスブック
BuzzFeedJapan副編集長の伊藤大地氏は「これらはいずれもアメリカの会社。公正取引委員会としては、日本の国益を考えているのかなという気もする」と指摘する。
田中教授は「次の主力になりつつあるのは音声データで、Amazonなどが先攻している。経産省なども含め、次のAIのプラットフォーム市場に日本が入り込む余地もあるのではないかと意識もあり、ここで歯止めをかけておこうとしているのではないか」と推測する。
企業と公正取引員会の対立構造について、弁護士の福井健策氏は「IT企業は独禁法を適用されることは避けたい。公取委の調査だけでも相当な牽制になる。まして排除命令などは特に絶対に避けたいだろう」とし、AI分野で圧倒的に負けている日本がで巻き返すためにも、データの公正利用は重要と話している。
しかし、企業活動で得た資産ともいえるデータを囲うのを政府が禁止するのはおかしいという見方もできる。田中教授は「独禁法が『公正な競争を維持する』と謳っているように、消費者、企業、あるいは社会にとって何が公正なのか、という倫理的な議論まで呼び込むような話だと思う」とした。
また、ビッグデータは集まれば集まるほどAIは賢くなり、ユーザーの利便性も高まることから、日本の公正取引員会の動きは時代に逆行するものではないかとの見方もある。
田中教授は「EUはポータビリティという概念がある。消費者がメガテック企業に対して自分が何か購買するときにインプットしたデータを取り戻す権利や、あるいはソーシャルネットワークに投稿したものを消す権利とか。EUはインターネット上の権利意識が日本以上に進んでいる」と、制度面の充実の必要性を示唆した。(AbemaTV/AbemaPrime)