■「肛門」の診察に特化、注目を集める"セクシャルヘルス外来"
今月1日から7日までは「HIV検査普及期間」だった。HIV・エイズの新たな感染者はここ数年、年間1500人前後で横ばいが続いていて、同性間の性的接触が原因の7割を占めている。新たなHIV感染者が減らない現状に取り組む人たちを取材した。
今年1月、東京・新宿にある国内最大規模のHIV・エイズの研究拠点、国立国際医療研究センター病院に開設されたセクシャルヘルス外来、通称「SH外来」。これまでと違ったアプローチでHIVの感染拡大防止に取り組んでおり、注目を集めている。
「SH外来」の対象者は、HIVに感染していない、ゲイやバイセクシャルの人たち。しかも「肛門」の診察に特化している。これまでHIVの治療は、最初に感染の有無を検査、陽性と判明し免疫の指標「CD4」の値が一定のレベルを下回った場合などに投薬を始めるのが一般的だった。しかし、「SH外来」はその手前で歯止めをかける「予防」が目的だ。
担当の水島大輔医師は「肛門に性感染症があるとHIVの感染リスクも上がってしまう。ただ、肛門の性感染症は自覚症状がないので、定期的に診ていく必要がある。少しでもできることからやっていこう、ゲイの方のリスクを減らしていこうという取り組み」と話す。
検査は3カ月に1回。肛門に検査棒を挿入、淋菌やクラミジアなどの性感染症に感染していないか確認する。ただ、肛門の検査は保険の適用外で、研究として行っているという。
水島医師によると、これまで50人を超える人が来院。きっかけはネット広告なのだという。「最近は出会い系アプリを使う方が多いちう印象があるので、そこに広告を出している」(水島医師)。
診察を通じて水島医師は「妊娠などがないことから(コンドームを)使うのがわずらわしいと考える人が多いのではないか」と感じているという。
■自らHIV感染の予防に取り組む人たちも
新宿2丁目の一角に拠点を置き、コンドームの配布などHIV感染の予防に取り組むNPO法人「akta」。自身もゲイを公表している岩橋恒太理事長も「SNSはインフラみたいになっているので、そこで感染の可能性がある出会いもある。啓発のメッセージを出すのはとても大事」と指摘する。
スタッフの木南拓也氏は「"mrmr"と書いてムラムラ。ムラムラしているからという意味で、これをつぶやくとセックスしたい人たちがアプローチしてくる。最近では"セックスをするなら私はゴム派"とプロフィールに書く人も増えてきているというが、中には"nm"と、コンドームなしでのセックスを求めている人たちもまだまだ少なくはない」と話す。
岩橋氏はコンドームを使用して性行為をすることを事前に相手に伝えるといい、木南氏も「小さな傷が口の中にでき、オーラルセックスで感染の可能性があるので、セックスの前の歯磨きはしない」と話す。
岩橋氏や木南氏は、そうした予防策を発信する活動を通じて、この街ではタブーだったHIVの話題が話しやすくなってきたと感じている。
「2丁目に来ている人の方が安全を心がけている。街にいろいろな情報があるので、気を付けようという意識に繋がっている」と木南氏。岩橋氏も「予防啓発は地味な活動かもしれないが、継続するのが若い人たちにとって非常に大事」とコメントした。
一方、情報がネットに偏りがちな地方では、まだまだ啓発活動が足りない部分もある。また、日本そのものが海外よりも遅れがちだ。
水島医師は「基本的にHIVの感染力は弱く、うつりにくい病気であるので、正しい知識を持って正しく予防すれば防げるはずだが、年間の新規感染者数が横ばいとなっているのは、まだ対策が不十分だという証拠」と話す。
海外では本来HIVの治療薬である「ツルバダ」などを感染前から服用して予防するというものだが、日本国内で導入の動きはほとんどないという。また、「治療すれば長生きするという時代になってきて、危機感が薄れている方もいる。ただ、発見が遅れるといまだに死に至ることはあるので、やはり注意が必要だ」と話し、誰もがHIVに関する知識を持つことの重要性を訴えた。(AbemaTV/AbemaPrimeより)