■2カ月でおよそ1200万円の寄付が集まる
近年受け入れ額が増加傾向にある「ふるさと納税」。税金が控除されたり、返礼品がもらえることから。2009年度の件数は5万3千件、受入額は81.3億円だったが、2015年度には726万件、受入額も20倍の1652.9億円と、過去最高を記録した。その一方、自治体間の過剰な返礼品競争が話題になり、国が「寄付金額の3割以下に」などの自粛を求めるようにもなっている。
そんな中、北海道函館市のふるさと納税が話題を呼んでいる。返礼品は、ウニやイクラなど新鮮な海産物だが、選択できる6つの使い道のうち、「大間原子力発電所の建設凍結のために」というものに寄付が殺到しているというのだ。
函館市は津軽海峡を隔てた青森県の大間原発建設地の30キロ圏内に含まれていることから、住民の生命や財産を守るためとして、2014年に国と事業者を相手に建設差し止め訴訟を起こしていた。今年4月に「ふるさと納税」で裁判費用を項目に入れたところ、2カ月でおよそ1200万円の寄付が集まった。去年の函館市のふるさと納税の受入額はおよそ1100万円。裁判費用分だけで、前年の額をすでに上回ったことになる。
函館市によると、裁判費用に関してはふるさと納税で支援を募る前から寄付金を募っていた。2014年度には4580万円の寄付が集まっていたものの、その後、激減していたのだという。
市財務部の西谷光一・管理課長は「訴訟提起から3年も経ったので関心が薄れてきている。ふるさと納税の使い道として取り上げることで、国民的な関心を高めていきたい」と話している。
この函館市のふるさと納税に対する意見は賛否両論だ。
「函館市凄い。こういう使い道でふるさと納税集めることができるんだ」
「原発工事差し止めの訴訟費用っておかしくね?政治的な意図を感じるんだけど」
「原発訴訟が主目的なら納税するわけにはいかない」
こうした意見に対し、市の担当者は「賛否があるというのは承知しているが、賛同された方の善意でやっているので、賛同の意見は確実にあるものとして承知。私どもは問題がないと思ってやっている」と回答している。
■根室では北方領土問題、隠岐では竹島問題に
神戸大大学院の保田隆明准教授は今回の問題について「ふるさと納税の一番の目的は、"地域振興"になるかどうか。函館市民が他地域にふるさと納税をすることで住民税は減っていた経緯もあるので、こういう議論が起きていること自体に意味があるかもしれない」と話す。ただ、政治色が強いかもしれないという点で"少しグレー"だと指摘、原発に隣接している地域が「右へならえ」する可能性があるかもしれないと指摘、「ふるさと納税が原発問題を考えるものになってしまいそう」と懸念を示した。
また、東京工業大学の西田亮介准教授は「ある種、目的税に近い性質を持っているので、一般財源から使うより合理的なようにも見える。とりわけ工藤市長の一期目の目玉政策の一つが訴訟だったこともあり、市の取り組みは直ちに否定されるべきことものではない。ただ、多くの自治体で同じようなケースが出てきたり、ふるさと納税の使い道が原発訴訟のみに限定されているということが起きれば、やや本来の目的とずれてきてしまうのではないか」と指摘した。
函館市のようにユニークなふるさと納税の使い方をしている自治体は他にもある。同じ北海道でも根室市が北方領土返還事業、島根県隠岐の島町では竹島の領土権の確立に充てるという名目で集めており、昨年度は約512万円が集まっている。
実際に現地に足を運んだというジャーナリストの堀潤氏は「仮に原発事故が起きて放射性物質が降り注ぐようなことがあれば、観光や農林水産業への損害は計り知れないという危機意識がある。プラスの"振興"ではないが、いざ何かおきたときの損失から守るためのもの」と理解を示し、「寄付する側が返礼品目当てというのではなく、状況を理解した上で投じるのであれば問題ないと思う」とコメントした。
博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏はそもそも自分のふるさとでもないのに「ふるさと納税」というネーミングはおかしいとして、「応援納税」のような名前に変えた方が良いと指摘。制度の趣旨・運用については、今後も議論が必要だろう。(AbemaTV/AbemaPrimeより)