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 中東で劣勢が伝えられる過激派組織ISが、フィリピンで勢力を伸ばしていると報じられている。先月23日からはミンダナオ島のマラウィで政府軍とイスラム武装勢力との戦闘が始まり、ドゥテルテ大統領は「彼らがISの旗を掲げることは決して許されない。私はミンダナオ島の苦しみに終止符を打つ」と宣言した。

 軍と交戦する武装勢力は、ISに忠誠を示す「マウテグループ」という組織だ。マレーシア、インドネシア、サウジアラビア、イエメンなどの外国人戦闘員が参加しているとみられ、マラウィで育ったオマークハヤム・マウテとアブドゥラ・マウテの兄弟が指揮を執っているという。名家の出身だったというマウテ兄弟は、カレッジを卒業し中東に留学していた際、タリバン流の過激なイスラム神学に傾倒していったのだという。10年を経てミンダナオ島に帰国した兄弟はISに忠誠を誓い、地元の若者を先導して政府軍への攻撃を続けているというのだ。

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 今月12日、彼らは住宅を襲い民間人5人を射殺、8人を人質にした。いまだ戦闘が続く市街地では約1000人の民間人が取り残されているという。

 AFP通信によると、ドゥテルテ大統領は「ISがミンダナオ島に拠点を作ろうとしている企ての一環」だと指摘。掃討作戦のため、ミンダナオ島全土と周辺の島に、統治権の一部を軍に移行する戒厳令を布告した。マラウィではすでに過激派戦闘員225人と軍兵士59人、民間人26人の計310人が戦闘で死亡しており、30万9000人以上が避難していると報じられている。

 難を逃れた住民たちからは「私たちも銃撃戦に巻き込まれるのではと恐ろしかった」「マラウィはISがたくさんいて、ひどい状態なので避難することにした」といった声も聞かれる。

 事態の解決に向けドゥテルテ大統領は「大統領としてこの問題に立ち向かうことができないのであれば辞任する」と強い決意を示しており、今月14日には、アメリカ軍がフィリピン軍の支援を開始している。

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 フィリピンはASEAN唯一のキリスト教国だが、南部にあるミンダナオ島では人口の約2割がイスラム教徒だ。今もイスラム教の信仰が残る背景について、公共政策調査会研究センター長の板橋功氏は、「フィリピン南部はイスラム教の国々に囲まれている。今は国民の90%以上がキリスト教徒だが、もともと14~15世紀ごろはイスラム教の国だった。そこにスペインが入ってきて、キリスト教の国になっていった」と話す。

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 板橋氏によると、もともとISには、東南アジアやアフリカにまで勢力を拡大する構想があったのだという。そうした思想が各地の過激派に伝播していった結果、現在のような状況が生み出されたのだという。

 今回の問題についても「もちろん外国人戦闘員も入ってきているとは思うが、ISが侵攻してきているというよりも、もともと存在した過激派がISに忠誠を誓っているのだと思う。過激派組織アブサヤフが中核だろう」と指摘した。

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 マニラ在住のフリージャーナリスト・水谷竹秀氏は「連日、新聞は一面で大きく報じている。今月上旬にはマニラでもカジノが襲撃される事件もあった。テロではなかったが、不穏な動きはいくつかあるので、遠い所の話、とは言いきれない」と話す。

 ISの影響力が日本へも拡大する危険性はあるのだろうか。

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 板橋氏は「ISが組織的に戦闘員を送り込んでいるわけではない」としながらも、「過去、成田空港経由の航空機を使ったテロ計画があった。ISが日本をターゲットになっていることも確かだ。これからオリンピックに向けて日本のプレゼンスが高まる中、ISに感化されたテロリストたちによる単独型のテロに注意が必要」と警鐘を鳴らした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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