「無料Wi-Fiについては無くすべきかなと思っています。最近は」
21日に行われたソフトバンクグループの第37回定時株主総会で、株主から東京オリンピックでの無料Wi-Fiスポットの提供について尋ねられた孫正義社長のこの発言が、波紋を広げている。
理由について孫社長は「オリンピックの度に無料Wi-Fiで様々な被害が起きているんですね。それはセキュリティーの問題です。無料Wi-Fiスポットを名乗ってですね、セキュリティーの穴をうまく活用して、悪さをするという被害が大量に発生しています」と指摘。また、「無料Wi-Fiを使わなくても、日本のLTEは世界で最も優れたカバー率と容量を持っていると思います。むしろ世界中の携帯事業者と一緒にアンリミテッドなローミングをすることによって、セキュリティーを保てて、かつ面倒くさくないんじゃないか」と問題提起した。
海外と比べ、Wi-Fi環境が遅れているという日本。政府はオリンピックに向けて無料Wi-Fiのスポット整備を急いでいるが、この動きに真っ向から対立する姿勢を見せた格好だ。
外国人観光客の増加などに伴い、日本各地で駅や店舗、主要空港など、多くの場所に無料Wi-Fiのアクセスポイントはここ数年で急速に普及した。「日本では無料Wi-Fiが使える場所が少なく、いつでも利用できるわけではない。接続サービスを探すのが大変です」(ドイツ人観光客)と話す人がいる一方、「日本の方が便利ですね。無料Wi-Fiのようなサービスが利用できないと観光客には不便ですよね。今日も無料Wi-Fiのおかげで友人と待ち合わせできました」(イギリス人)、「日本は無料Wi-Fiスポットがどこにもあってすごく便利です」(フランス人)、「ホテルや大きなレストランなどで無料Wi-Fiを使っています」(中国人)という具合に、観光客たちからの評判はまずますのようだ。
ITジャーナリストの三上洋氏は、孫社長の指摘するセキュリティ上の問題点について「ものすごく危ないです」と話す。
無料のものに限らず、一般的に公衆無線Wi-Fiのアクセスポイントを利用することで、他のユーザによる覗き見や"なりすまし"、不正目的のインフラ利用のおそれがあり、「例えば私が犯人だとしたら、無線ルーターを買い、カフェやホテルのIDとパスワードを同じにして設置します。もしユーザーが私の設置した方に接続してしまったとしたら、データを取得したり、ウイルスに感染させたりすることも可能です」と指摘した。
実際、リオ五輪では会場周辺に偽のアクセスポイントが乱立。国際空港の中でも発見されたのだという。
ソフトバンクで元社長室長を務め、孫社長の人となりにも詳しい三木雄信氏は「3日や1週間のSIMカードを買うことができるようになっていますし、ローミングを利用している人も増えているので、おそらく今後はWi-Fiを使う人のパーセンテージも下がっていくのでは」と話す。
「結局、ルーターの耐用年数なんて4年ももたないですし、暗号化の方法もどんどん更新されていきますから、そのために機材を交換してメンテナンスしなければなりません。それに比べて、携帯電話のネットワーク自体はどんどん速くなっていきますから、果たしてどっちに投資するのが日本のためになるのか、という問題」と孫社長の発言の意図を推測。三上氏も「今年度は無料Wi-Fiに31.9億円の予算がついていますが、それなら空港などで入手できる安いSIMレンタルサービスの方に補助金を出した方が早いんじゃないかという意見もあります」と補足した。
ソフトバンクが日本の通信業界に参入したのは2001年のこと。実は当時、NTTからの協力を得ることができず、工事は遅々として進まなかったという。孫社長は総務省に話をするも、門前払い。すると「ガソリンをかぶって火をつけて死ぬぞ」と一言。その熱意が伝わったのか、工事は急速に進み、あれよあれよという間に、ブロードバンド普及の大きなきっかけになった逸話が残っている
さらに、ソフトバンクが携帯電話事業に新規参入を考えていた2004年。なぜかソフトバンクだけが総務省から電波を割り当ててもらえないとして、今度は孫社長、なんと総務省を提訴し最終的に電波を獲得した。その後の2008年。日本で初めてiPhoneの販売を成功させたのは周知の通りだ。
三木氏は「ADSLによって日本の通信速度を世界基準にうまくもっていった、というのがソフトバンクのチャレンジです」。三上氏は、「孫社長は力技でぶっ壊しにいく人です。結果的にはうまくいっている。世界を基準にして野望を持っていると思います」と話した。
孫氏の問題提起が、再び日本の通信環境を変えていくきっかけになるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)