いよいよ開催されるアメリカの総合格闘技団体「ベラトール」が送る最大イベント「ベラトール180/NYC」。総合格闘技の興行が解禁になったニューヨークで、UFCに追随するようにアナウンスされた本大会には、総合格闘技のレジェンド・ファイターの夢のスーパー・ファイトや、現在進行系でベラトールが推しているトップファイターのタイトルマッチが数多く組まれているが、とくに日本のファンにとっても興味深いのはエメリヤーエンコ・ヒョードルの復帰戦となるマット・ミトリオンの対戦だろう。
2月の「ベラトール172」ですでに決定していたものの、対戦相手のミトリオンが試合開催日に「結石の手術が必要」という不可解な理由でキャンセル。4ヶ月後の団体の命運をかけたイベントのラインナップに加えられた。そんな「ベラトール180/NYC」開催を前に盛んに煽りCMが大量露出されているが、中でも興味深いのヒョードルの「伝説のセーター」いじり倒したものだ。この映像、2月の大会向けに用意されたもので、試合自体がお蔵入りしてしまったのでなんとも切ない感じで宙ぶらりんになっていた作品だ。
皇帝と言われたヒョードルだが、普段の質素なファッションスタイルは度々話題になっていた。特に、何度も試合会場で目撃されることで「あれを着ると勝てる」冗談交じりでその存在が大きくなった「栄光のセーター」は、あることも無いことも含め彼の代名詞のように語られて来た。
ベージュ色に緑とブルーなどのストライプ柄のセーター、至って普通というか、ややおじさんっぽいものの「あれはどこで買えるの?」や実際レプリカを作ったMMAチームなども登場したり、ネットで通販商品にもなった。
煽り映像では「何か神秘的な、人知を超越した輝きを感じる」とドキュメンタリー調にセーターにまつわる逸話を選手や関係者たちが語りはじめる。
ホイス・グレイシーが「あのセーターは黒帯ものだ」、ハルク・ホーガンの長女ブルックが「ハルクマニアの始まりはあのセーターよ、父も言っていた。あのセーターをコピーしたいと」、ベラトール代表のスコット・コーカーは「交渉はセーターとしてくれと言われた」、元UFCヘビー級王者で映画スターのランティー・クートアが「セーターに2発殴られたよ」と次々と著名なビックネームが、セーターをネタに熱く語る。
挙げ句の果てに対戦相手のマット・ミトリオンまでが登場した。「彼は子どもの頃、殴られたのを忘れないために着てるんだよ、あれを着ていたのさ(子ども時代のヒョードルがセーター姿で登場)。この試合を受けたのは、勝てばあのセーターをもらえるからだ。契約書にもある」と真顔で答えている。
これぞアメリカン・ジョーク、「笑いのポイントがどこにあるのか判らない」という日本のファンも少なくないだろうが、アメリカの格闘系メディアでは一時期「ヒョードルがいつものセーターで登場」はトップニュースになる位、定番の話題となっていた。「そこまで笑えるかな・・・」と正直なところ思う部分もあるが、このような伝説がひとり歩きすることも、「最後の皇帝」と言われたヒョードルへの期待のあらわれなのだろう・・・
なお「勝利を約束された栄光のセーター」は、2月に予定されていた試合を前にベラトールとの連名でオークションに出され非営利団体に寄付されるというニュースの後、消息を経っている。もしゲンの良いセーターを手放したのだとしたら今回の試合少しだけ心配にもなる。
いずれにしてもヒョードルは、2011年に参戦していたストライクフォースで、ファブリシオ・ヴェウドゥム、アントニオ・シウバ、ダン・ヘンダーソンと3連敗し、皇帝伝説が崩れ落ちた鬼門の地・アメリカに6年越しで挑むことになる。いよいよ彼のキャリアのクライマックス、まさに最終章がはじまろうとしているのだ。
(「ベラトール(Bellator)180」/AbemaTV格闘チャンネル)