ニューヨーク、マジソン・スクエア・ガーデンで開催された格闘技団体ベラトールの一大イベント、「ベラトール180/NYC」。メインカードの一つ、エメリヤーエンコ・ヒョードル対マット・ミトリオンは1ラウンド、1分14秒でミトリオンがKO勝利した。
巷では「衝撃のKOシーン」「信じられない」といった声も聞こえるが、近年のMMAの急激な進化を考えると冷静に受け入れた格闘ファンも少なくないだろう。
やはりヒョードルにとってはアメリカは鬼門だ。2009年のストライクフォースでの3連敗から数えて4連敗。MMAの本場で一度も勝利していないのが実情だ。40歳という年齢、PRIDE時代の10数年前がヒョードルのキャリアのピークだったことは疑う余地がない。キャリア晩年のアメリカ進出は急速に発展を遂げた本場アメリカのMMAの技術へのキャッチアップと、対戦相手との体格差という課題を今回も僅かながら超えられなかったのが今回の結果だ。
試合開始序盤こそ、なかなか入り込めないシーンが見られたものの徐々にリーチに勝るミトリオンが、ステップを踏みながらヒョードルに迫る。一方のヒョードルは左ロー、カウンター気味に左ストレートを放つが不発、そしてヒョードルの右ストレートとミトリオンの右ストレートがカウンターで相打ちになり両者がダブルノックダウン。ダメージが小さかったミトリオンが先に上からパウンドした所でレフリーが試合をストップした。
勝敗を分けたのは、今回も大きな体重の差と言わざるを得ないだろう。ヒョードル、236.4パウンド(約107.2キロ)に対してミトリオン、256.6ポンド(116.4キロ)。どうしてもキャリアを振り返る時にチェ・ホンマンやズールといった大柄な選手もなぎ倒し、後にUFC王者になったティム・シルビアやアンドレイ・アルロフスキーなどにも圧勝して来たことを思い出してしまうが、当時の技術水準で可能だった体重差の克服も現代では難しい。
ボクシング、レスリング、柔術、その他の要素も含め、対戦相手の体格、相性も含め技術を磨き抜いただけでは勝てないのが最新MMAの現状といえるだろう。
日本には晩節を汚すという言葉があるが、決して今回の敗戦はヒョードルにとって不名誉なものではない。戦いやすい相手と対戦しながら日本やロシアのリングで、緩やかにそのキャリアを閉じることも可能だが、敢えて最前線に挑み続ける姿がそこにはある。
ヒョードルは現役続行を希望しているという。すでにミトリオンとのリマッチという案も上がっている。アメリカで勝つまでヒョードルは挑み続けるのかもしれない。
パトリシオ・ピットブルは試合直後ツイッターで「彼のような偉大なファイターがこんな形で敗れることは悲しい。でもヒョードルが偉大なことは変わらない」とコメント。これが多くの人を代弁している言葉かもしれない。