「フリースタイルダンジョン」(以下「ダンジョン」)の審査員として、番組開始当初からバトルに的確なジャッジを与えてきたラッパーのKEN THE 390。
リリース・アーティストとしてもT-PABLOWやCHICO CARLITOなどバトル・シーンでも活躍するアーティストとのコラボ曲の制作や、自身が主宰するイベント「超ライヴへの道」と「戦極MC BATTLE」をコラボさせたバトル・イベントを開催するなど、多岐にわたる活動を見せる彼に、ダンジョンのバトルを改めて解説してもらうこの企画。
今回はその導入として、彼のバトル・ヒストリーについて、話を伺った。彼が審査員席に座ることになるまでのキャリアとは。
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――漢 a.k.a GAMIさんは勿論、ERONEさんやサイプレス上野さんといった、00年代初中期からKENさんと一緒にバトルで戦っていたメンツが、今はこぞってダンジョンに出演しているのも興味深いですね。
昔のERONEくんはスーパーおっかない人でしたよね。漢くんと並ぶぐらい、関西の闇の人って感じで(笑)
――(笑)。確かに今は男前な感じだけど、昔はもっと威圧感がありましたね。
ラッパーはみんな怖かったですよ、あの当時は。みんな『俺が俺が!』だったし、フレンドリーでも無かったから。上ちょ(サ上)もバトルにちょこちょこは出つつ、当時からライヴがとにかくイケてたし、そこでも注目されてた存在でしたよね
――DJのロベルト吉野さんをレコード台ごと蹴っ飛ばしたり、ビンタ合戦したり・・・
だから、あの当時から考えると、今みたいにヒップホップ・シーンの真ん中に来るなんて誰も思ってなかった(笑)。亜流中の亜流で超変化球の存在だったのに、それを突き詰める事で力技で王道なっていったのはスゴいですよね。
――KENさん自身も、UMBなどに出場しながら、並行してダメレコからの作品リリースや、メジャー・デビューなど、リリース・アーティストとしての活動がメインになっていきましたね。
それもあって、METEORとMC正社員がやってたイベント『Fruit Ponchi』の『女性口説きMC BATTLE』とか、誘われたイベントにちょこちょこ出るぐらいでしたね、そこで優勝しましたけど(笑)。
だから、その時代のMCバトルのメイン・ストリームは、同世代なら晋平太、次世代だとR-指定みたいな存在が支えてたと思います。そして彼らの登場で、また俺らとはまた違う段階のゲーム・チェンジが行われてたと思う。それこそ、もっと戦略性だったり、バトル・シーンの中で、バトル・オーディエンスの中でどう戦って、どう勝つかが考えられたするようになったと思う。いわば、俺らの頃は格闘技で言えば『アウトサイダー』みたいな有名も無名もごっちゃになって出場する地下格闘技だったとしたら、以降はもう少しルールがちゃんと決まった、システマティックな、プロフェッショナルが戦う方向に進んだと思う
――なるほど。そして時が流れてダンジョンが始まると、KENさんは審査員として抜擢されますが、その流れはどのように?
オーガナイザーのZEEBRAさん側からオファーを頂いてですね。でも『高ラ選』の盛り上がりがあったとはいえ、民放でMCバトル番組をやる事には驚いたし、『大丈夫なの?』って思いましたよね。『みんなかなりヒドい発言するよ?』って(笑)
――オファーの理由は訊きましたか?
放送当初は晋平太とERONEくんと僕の3人が、ラッパー/プレイヤー・サイドとして審査員席に座ってたんですけど、その理由は、MCバトルでの実績のあるメンツに、その視点で審査して欲しい、と言うことでしたね。この3人が今のヒップホップの視点でジャッジして、かつ、この3人がその視点で同じ側に票を入れれば、いとうせいこうさん、LiLyさんと票が割れたとしても、票数で負けないし、現状のヒップホップの視点での勝敗で決着がついたという、番組的な担保が生まれるという事で。
――悪い意味ではなく「一般的な視点軸」と「ヒップホップの視点軸を考えた上での人選」と、その比率で決まったという事ですね。
その上で、『KENは説明能力が高いと思うから』という事でしたね。かつ俺はその場の即興性だったり、言い合いの印象に重きを置いて判断してますね。ERONEくんはライミングだったり、せいこうさんはもっと総合的な形だったり、みんなそれぞれの評価軸を持ってると思います。
――では番組が開始した時の感触は?
1stシーズンのREC1は、登場するMCが名前を書いた旗を持って出てきたりして・・・
――ザ・バラエティ的な演出でしたね。
大丈夫なのか、これは……って正直思いましたね(笑)。REC1はお客さんもそこまで入って無かったんで、『これはどうなるんだろう……』って。でもREC2で、CHICO CARLITOや焚巻が登場して好試合を見せた事で、これは面白いコンテンツになるって確信しましたね。CHICOも焚巻も自分はそれまでチェックできていなかったし、そういう人材が発掘される事が興味深かったし、それをテレビ・コンテンツで感じられたのも面白かった。
――ただ、ジャッジとしては引き分けが許されないのは大変だと思います。
それは本当に難しいですね。2ndシーズンまでは『8小節の2ターン』だったから、決して戦う時間が長い訳ではなかったんで、実力派同士だと勝敗が拮抗する場合が多いし、どちらかに決めるのが本当に難しい試合も多くて。
しかも単純に好き嫌いを超えて、ちゃんと解説出来るように内容を分析しなくちゃいけないから、ダブルで大変なんですよ。あと会場で見るとの、テレビで見るのとでは、感覚が全く違うんですよ。だから正直、テレビで見たら判定が逆だったなと思う時はある。放送を見てて『こっちが勝ちだな』と思ってたのに、ジャッジをみると『逆に上げてる、俺!!』って(笑)
――そこに左右されないようにしてるとは思いますが、やっぱり場の雰囲気や会場の空気感、迫力はテレビと生では違いますからね。
加えて、放送だと『字幕』が大きいんですよ。現場は字幕は出ないし、字幕通りには聴こえてないから、それを見る見ないの違いはスゴく大きい。だから『このジャッジおかしくないか』と思ったら、画面を見ないで、音だけで判断してみて欲しい。
目をつぶって聴くと、細かい部分が伝わらなかったり、言葉が不明瞭で同音異義語を使ってもどっちも同じように聴こえちゃったりするから。その違いは大きいし、現場では字幕通り聴こえてない事もあるんだよ!って事は言っておきたい(笑)
――だから、会場とテレビの温度差を感じる部分もありますね。
会場も大きいから、『圧』の強い言葉だったりフロウの方が、盛り上がる時もあるし、それを利用するのも現場では戦略ですよね。小節末できっちり踏んだり、大きな声で置きに行くことで、クリアにパンチを当てるっていうスキルもある。でも一方で、それは大振りでもあるから、ハズレた時の怖さもあるんですよね。超ドヤ顔で言ったのに、しかも沸き待ちまでしたのに滑ったらもう目も当てられない(笑)。自爆で心折れると思いますよ。
『ダンジョン』自体も、バトル形式が8小節の3ターン制になって、本当に体力や集中力、実力が無いと戦い続けるのが難しくなってる。会場の大きさ的にも、客を乗せないと、自分がラップしてる時にシンとしてると、どんどん萎縮しちゃって『沸いてねえ……』でどんどんテンパっちゃってドツボにはまるっていう。だから気持ちが折れないで、集中力を持って3ターン目まで行ける人が勝ってると思いますね
――KENさんもバトル中に心が折れた瞬間はありますか。
殆どないんですけど、記憶にあるのは一回かな。『3on3MC BATTLE』でICE BAHNの玉露さんと当たった瞬間に一回折れましたね。
――それは何故でしょうか?
玉露さんが強すぎてですね。ICE BAHNチームと僕の所属するダメレコ・チームの戦いだったんですけど、玉露さんが『ダメレコなんて所詮寄せ集め』って言ったんですよね。だけどICE BAHNとダメレコ・チームは仲も良かったし、玉露さんも思ってないような事は言わないタイプだから、その言葉に俺は『え!そんな事言うの?』と思ったし、玉露さんも本音が出たというよりは、韻の為にそういう言葉が出ちゃった感じで、目が『あ、言っちゃった』って語ってて(笑)。その違和感みたいなモノを、お互いにその一瞬に感じて。
――気持ちが錯綜する一瞬があったと。
もう、その一瞬のお互いの心理描写は『スラムダンク』とか『カイジ』だったら2週は引っ張れるぐらい(笑)。だけど、そのまま玉露さんが『……じゃねえとこがスゲえ』みたいに、踏みつつフォローするっていう、スゴい方向転換を更に瞬時にしたんですよ(笑)。もう、そのハンドルの切り方に『マジでスゲえ!この人!』って。それでもう感動しちゃって、これは負けた、と思ったんですよね。
――ある意味では、飲まれてしまったというか・・・
もう楽しくなっちゃったんですよね。そうやってバトルなのに相手に心が動かされた時に、負けた、って思いますね。ICE BAHNで言えば、彼らが『ダンジョン』にチャレンジャーで出た時(3rdシーズン/REC3-3)の、スキルは全員超高いし、オリジナルなのに、みんなぶつかりまくっちゃうっていうチームワークも最高でしたね(笑)
――ベテラン・グループなのに(笑)。
さすがIBでした(笑)。それから、FORKくんが隠れモンスターで登場した時(3rdシーズンREC5-1。NAIKA MC対FORK戦)もとにかくスゴかった。FORKくんは即興性と会話性が高いスタイルなのに、あれだけ韻が踏めるっていうのは、もう何なんだろうって思うぐらい別次元のスキルだったし、未だにスキルアップを続けてるのはとんでもないなって。
――あのバトルでの「お前のスタイルが王道になっちまうんだったら/今後バトルの熱は相当冷める/それが正義だっていうヒップホップ・シーンなら/俺は抜いた刀をそっと収めるよの、「相当冷めると「そっと収めるのライミングには、ラッパー・チームはかなり沸いてました。
僕の曲(“Chase feat. TAKUMA THE GREAT.FORK.ISH-ONE.サイプレス上野”)に参加してくれた時も、『偽物が己知ると雲隠れ/だが俺はここでしぶとくもがくレース』ってリリックを書いてくれたんですけど、「雲隠れと「しぶとくもがくレースで踏みつつ、雲隠れってワードをしっかり隠すっていうトリプル・ミーニングぐらいのリリックには『まだそんな韻があったのか!』と思わされましたね。しかも、それをバトルに組み込むから最高ですね。
――なるほど・・・次回からそういった『ダンジョン』のバトルの中で、記憶に残っていたり、印象的なバトルについて改めてKENさんに解説していただこうかと思うんですが、今回はその前哨戦的に、「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦で記憶に残った事を教えて頂ければと。
やっぱり決勝の「R-指定 対 DOTAMA戦」ですね。
でも、あの日の東軍の主役はDOTAMAだったし、本当にバトル・シーンのメイン・アクトになったと思いますね。番組上、東西で何戦も重ねた上で『この決勝の勝敗で全体の勝敗も決まります』っていうドラマティックな最終戦が結果的に用意されたのも、主役同士の戦いが引き寄せたモノだと思いますね。そしてDOTAMAくんは裏側では東軍のリーダーだったんですよ。それは最後に登場するからっていうだけじゃなくて、『サイファーやって温めときましょう』とか、東軍の全体を見てたんですよね。
シーンで言えば漢くんや俺の方がキャリアも歳も上だけど、その意気込みを見て、DOTAMAくんが今回のリーダーだって事を認識したし、それに納得出来るってことは、やっぱり彼自身のキャリアのステージが上がったんだと思いますね。それは人気とか勝率を超えた『プロップス』が彼にしっかりとあるからだと思う。それだけ背負ってたから、あれだけ凹んでたと思うんですよね。だから、『僕が負けなかったらもうちょっと余裕を持たせられたのかな……』って。ちょっと申し訳ない気持ちになりました。
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